第462話 拠点防衛 その3
通用門からは次々に貴族派の兵が押し寄せてくる。
しかしその多くは一般兵だ。
個々の実力は強者とされる者でも、ムルーダで相手出来る程度だった。
とはいえ、次々と湧いてくるので厄介極まりない。
「魔物よりも、あそこにいる魔物を呼び出している少女を狙え!」
グリーヴァが大声を張り上げ、指示をだしていく。
貴族派の増援が来たとはいえ、状況はそれほど劇的には変わっていない。
『ジャガーノート』の戦力は、最低でもDランクの実力者揃いだ。
ゴーレムの場合一番弱い偵察タイプのガンマ型でも、Dランク下位相当の実力を持ち、戦闘特化のデルタだとCランクに近い性能を持っている。
Cランクにまで至っていないのは、素材があくまで〈ストーンゴーレムの核〉のせいなので、上位の素材が手に入れば機能はそのままに性能だけを上げることができる。
更に芽衣の召喚する魔物はCランクであり、マンジュウとダンゴ以外に九体の魔物を召喚している。
また魔法は"雷魔法"などの攻撃魔法は使わず、MP使用を"召喚魔法"と"精霊魔法"のみに留めた。
時折芽衣を守護する魔物やゴーレムを突破して、芽衣本人に肉薄する兵士もいたのだが、そもそも芽衣は普通に物理で戦ってもCランクの前衛程度の力を持っているので、軒並み返り討ちにあっていく。
「ぐぐっ、あの小娘。魔物を召喚出来るだけでなく、槍の腕もかなりのものだ!」
弓や魔法攻撃などの遠距離攻撃も芽衣に向けられているのだが、さしてダメージを与えることができていない。
依然押し込めていない状況に歯ぎしりするグリーヴァ。
そんなグリーヴァの耳に、胸壁辺りから発せられた声が届く。
「加勢します!」
それは南の農業区画で迎撃部隊をしていたライオットや慶介、そして陽子たちだった。
質では劣っていながらも、徐々に戦線を押し上げていたグリーヴァ達。
このまま状態を維持できれば、強者とはいえいずれは体力や魔力が尽きる。
現にグリーヴァの視界には苦しそうに戦っているムルーダやキカンスの姿が映っていた。
しかしここにきての増援で、徐々に押し上げるどころか逆に戦力が拮抗し始めることになる。
「ハアッ、た、たすかるぜ!」
息も荒く、常に動き回っては敵兵を切り続けていたムルーダ。
近くにいるキカンスも、ムルーダと同じように息を切らしながら戦っている。
彼らがここまで多人数の相手に戦っていられるのも、レイドエリアでのレベル上げの影響が大きい。
あの地獄の訓練期間は彼らのレベルを上げると同時に、こういった大勢を相手にする時の体力配分、力の抜き方、戦況判断などといったものを学ばせた。
勿論彼ら二人以外のメンバーもそれは同様だ。
一度このような乱戦状態に入ってしまっては、大規模な範囲魔法を撃つことはできなくなる。
増援に駆け付けた慶介やライオットらは、【氷の矢】などの初級魔法を中心に使用していく。
初級魔法とはいえ、CランクやBランクの魔術士が放つのだ。
その威力は低ランクの者からすれば致命的な一撃にもなりえる。
更には魔力多めにつぎ込んで、一度に【氷の矢】などを十本以上生み出すなど工夫して、魔法用による攻撃を加えていく。
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一度は押し返したと思った状況が再びひっくり返されてしまい、グリーヴァに焦りが生まれ始める。
(このままでは相手の体力切れの前にこちらの兵が…………む?)
そこでグリーヴァはとあることに気づく。
(後続の数が減っている?)
数としてはまだまだ控えている筈の貴族派の軍であったが、通用門を抜けて加勢してくる兵の数が減少してきていることにグリーヴァが気づく。
(……まさか!?)
進入早々にシルヴァーノがエスティルーナとの一対一を始めてしまったので、代わりに前線の指揮を執っていたグリーヴァ。
しかし後続の減少に違和感を覚えたグリーヴァは、一時的に指揮を別の者に任せ、通用門から一旦外へと出る。
すでに大門の破壊は無理だと諦めたのか、空の破城槌が門前に置かれたままになっていたが、そのようなことは最早些事に過ぎない。
門を抜けたグリーヴァの視界には、巨大な蛇の魔物をはじめとした数匹の魔物から逃げ惑う、貴族派の兵たちの姿があるのだった。
◆◇◆
少し時間を遡り、シルヴァーノら精鋭集団が突貫した頃。
信也は慌ててロアナに指示を出し、侵入してきた集団に胸壁の上から援護をしようとしていた。
「っ!?」
しかしそこに信也に襲い掛かる二つの影があった。
「ほお、今のを避けるか。不意を突いたつもりだったんだがなぁ」
信也が声のした方向に振り返ると、そこには小柄な男と中肉中背の男が立っていた。
手にする武器は片方が短剣を両手に持ち、もう片方が大剣を持っている。
それも見た目に反して小柄な男が大剣を持っていて、大柄な男の方が短剣を手にしている。
声を掛けてきたのは大柄の男の方だった。
「冒険者か?」
信也が短く尋ねる。
国軍の兵士といえど、同じ装備で身を固めている訳ではないので、防具などは結構バラバラなものを身に着けている。
とはいえ、この二人の装備や立ち居振る舞いは兵士のソレとは違う。
「ああ、俺はBランクのダスカル。こっちはCランクのヴァキムだ」
「……俺はCランクの信也だ。お前達が幾らで雇われたか知らないが、それ以上の金額を出す。こちらにつかないか?」
「冗談。幾ら金を積まれようと、敗者につく訳ねーだろ」
「そうか。それは残念だ」
言いながら信也は剣と盾を構える。
今はすぐ近くに他の仲間はいない。この広い拠点を守るために、あちこちに散らばってしまっているからだ。
しかし、ダスカルとヴァキムは優位的な状況にあるというのに、すぐに攻めかかろうともしてこないし、油断をしている様子も全くない。
(これは少しやりにくいな。だが……)
緊張感を孕んだ両者の睨み合いはしばし続く。
ダスカルらがすぐに攻撃を仕掛けなかったのは、信也に隙が見当たらなかったというだけではなかった。
スキルではない、これまでの経験から来るダスカルの直感が、迂闊に動いては痛い目に遭うということを警告していたからだ。
例えそれは相手がCランクを名乗っていようが関係ない。
こういった直感は、高位の冒険者であれば誰しもが磨かれてくるものだ。
しかし、今回ばかりはその直感が裏目に出る結果になった。
(……ッ! なんだ!?)
ダスカルがその身に違和感を感じた時には、すでにそれなりの効果が発揮されていた。
信也は会話に入る前から、効果を微量に抑えた"光の魔眼"と"闇の魔眼"を密かに使用していたのだ。
光属性や闇属性は身体的にダメージを負うことがないので、少々のダメージであれば攻撃を受けても気づきにくい。
信也はそれを利用して、この膠着した状態の中、微かな継続ダメージを与え続けていたのだ。
「…………。【ライトレーザー】」
ダスカルの反応から、こっそりダメージを与えていたことに気づかれたと判断した信也。
そこで魔眼の力をフル開放してダスカル一人に集中させ、同時に中級"光魔法"の【ライトレーザー】を放つ。
攻撃魔法の形態としては、ビーム状に撃ち出す魔法はアロー系よりも速度が速い。
それでいて相手に避けられたとしても、ビームを継続しつつ避けた方向に向きを変えれば追撃を行える。
「クッ!」
ダスカルは流石Bランクだけあって、最初のビーム躱すことには成功する。
だがそれを予測した……というよりも、避ける方向を誘導させた信也の追撃は見事にダスカルを撃ち抜く。
「シィッ!」
しかしそこにもう一人の小柄な大剣使いヴァキムが突っ込んでくる。
「ハァッ!」
信也はその攻撃を盾で滑らせて受け流しつつ、器用にそのまま盾で相手に裏拳をかますように殴りつける。
その攻撃をまともにくらったヴァキムは、「ぶへぁ!」と声を上げつつ数歩後ろに下がる。
「ヴァキム気をつけろ。こいつは並のCランクじゃねえ。それになんか妙なスキルを使ってやがる」
ダスカルが微かに額に汗を滲ませながら警告する。
攻撃らしいものを受けているのは分かるのだが、それが何なのか見当がつかないダスカル。
ダスカルは先ほどの攻防の中、信也が盾でヴァキムを弾き飛ばした瞬間を狙って短剣を投擲していたが、信也はなんとそれを右手の剣で弾き落としていた。
謎の攻撃だけでなく、二人がかりでの攻撃を難なく凌いだことにも警戒するダスカル。
それからもダスカルは巧みなコンビネーションで信也へと迫るが、剣だけでなく魔法まで使ってくる信也に、手が出せないような状況が続く。
(な、何なんだコイツは……。チッ、俺としたことがCランクだというのを聞いて、心のどこかで慢心しちまったのかもしれん。こいつが……この男がCランクな訳ねーってのに)
信也は"器用貧乏"のスキルを得て以降、様々なスキルを身に着けていった。
それら新規取得したスキルは、北条のように"取得技能経験値上昇"を持っている訳ではないので、取得した後の伸びは良くない。
しかし多数のスキルを習得したことによって、各種称号が充実している。
またパッシブ系のスキルも多く取得しているので、基本的な戦闘能力が大分底上げされていた。
ダスカルがBランク冒険者というのは事実であるが、Bランクになったのはつい最近のことであり、実力はBランクの下位。
それに対し、信也のレベルはCランクの上位。
だがその両者の差は、スキルや称号といったものによって完全にひっくり返っていた。
二体一という状況においても、それは変わらない。
信也の光と闇の魔眼によって、後方から投擲で援護していたダスカルをジワジワと削っていく。
そして信也は、闘技秘技スキル"光明剣"によってヴァキムを斬り捨てると、その勢いのままダスカルにも迫る。
「ぐあぁっ……。く、ち、くしょう……め」
腹部を大きく切り裂かれたダスカルは、自分の命の灯が消えていくのを感じる。
腹部の傷だけであれば、まだ助かっただろう。
しかしこれまでに魔眼の能力や"光魔法"などでHPを削られまくっていたダスカルに、この一撃を耐えることはできなかった。
ドサッと倒れこむダスカルを後目に、続けて信也はヴァキムへとトドメを刺す。
「……」
信也の脳裏に、先ほどのダスカルの最後の声が繰り返される。
以前の信也であれば、このまましばらく呆けていたかもしれない。
しかしすぐに信也は頭を振り、周囲の状況を再確認する。
拠点へと架けられている橋の上を、幾人もの貴族派の兵が渡ってきているのが見える。
すでに拠点内にも侵入を始めているようだ。
「この二人のせいで少し切り時が遅れてしまったか……」
信也ははやる気持ちを抑え、胸壁に設けられた狭間から"光魔法"を繰り出す。
それは一見先ほどの戦闘で使用した【ライトレーザー】の魔法に似ていたが、この光線には攻撃能力はない。
信也が使用したのは同じく中級の"光魔法"である【フラッシュレーザー】という魔法だ。
攻撃力がない分【ライトレーザー】より強い光を放つことができる。
この魔法を信也は橋を渡った先、森のある方角へと使用する。
すると信也の合図を受け、森の入り口付近に隠れていたナターシャら守衛の面々が勢いよく飛び出していく。
彼らは皆、壺を両手に抱え持っていた。
そして拠点内へと押し寄せようと、橋付近に溢れている貴族派の兵の方に無謀にも向かっていく。
「なんだ? 伏兵?」
「伏兵っつっても十人もいないぜ?」
「ただの死にたがりじゃねーのか、ギャハハハッ!」
数人で大軍へと突っ込んでくるナターシャらの姿に、多くの兵士は嘲笑の声を上げる。
しかしそれもナターシャらが壺を開封するまでのことだった。
「う、うわああああああ!!」
全長十メートル以上もある巨大な蛇の魔物、グローツラングは貴族派の兵たちに大きな衝撃を与える。
更にすぐ近くにはこれまた巨大な鳥の魔物、リードレイヴンも現れる。
そしてそれらよりもサイズは小さいながらも、続々と姿を現わす魔物たち。
それらはパトリアークホース以外は皆Cランクの魔物であり、なおかつ北条のパッシブスキルなどによって強化もされている。
"指揮"や"パーティー指揮"などの仲間を強化するスキルは、効果範囲が狭いので離れた場所にいるグローツラングらにも効果は及ぼしていない。
しかし"従属指揮"や"従属強化"などのスキルは効果範囲が広いので、今も影響を及ぼしていた。
「さあ、行くよ!」
そして魔物と同時に襲い掛かる守衛の面子は最低でもDランクであり、ナターシャに至っては元Bランク冒険者だ。
数は少ないながら、破竹の勢いで荒らしまわるナターシャと従魔達。
この時点から、戦の趨勢は定まってゆくのであった。




