第461話 拠点防衛 その2
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「西門の方はシグルドさん達が抑えるのに成功してたわ!」
「そうか! ならロアナは伝令があるまでそこで少し休んでいてくれ!」
「ええ、ではここで待機してるわ。でも少し休んだら攻撃にも参加するから」
ロアナが信也の下まで西門での戦闘の様子を報告する。
戦闘が始まってからあちこち走り回っているロアナだが、レベルが高いだけあってまだまだ動く体力は残っている。
だがいざという時の為に、休める時に休んでおくのも重要だ。
信也とロアナが今いるのは本区画の南東の胸壁部分。
そして東門を挟んで反対側の胸壁部分には咲良が詰めており、そこから東門前に群がろうとする有象無象を魔法で薙ぎ払っている。
そんな咲良のいる場所に向けて幾つか魔法による攻撃も飛んでいくが、その全てが拠点の結界に守られて霧散していった。
「これは……いけるか?」
まだまだ貴族派軍の数は多いとはいえ、今のところ拠点内に誰一人として進入を許していない。
その割にすでに相手にそれなりにダメージを与えているように見える。
まともな指揮官ならこの調子でいけば軍を引き上げるんじゃないか?
咲良同様に魔法による攻撃を加えながら、信也はそのようなことを考えていた。
しかしあれだけ前に進む味方が魔法でボロボロにされているというのに、貴族派軍の歩みは変わらない。
「くっ……何故そうまでして前に出るんだ!」
ただ単に虐殺を繰り返しているだけの状況に、信也はつい思わず声を荒げる。
いつまでこの状況が続くのか。
苦渋に満ちた表情を浮かべながらも、信也の攻撃の手はやむことはない。
途中から体力を回復したロアナも、慣れない弓による攻撃を加えている。
相手側も何も無秩序に東門になだれ込んでくるのではなく、最初は集団での突破を図っていた。
"付与魔法"によって魔法防御を高め、外側に特に防御に自信のある者を集めて橋を渡ろうとしていたのだ。
しかし咲良の魔法は既にB級クラスの威力であり、何人かが通用門に取り付ければいいと思っていた貴族派側の意図をたやすく打ち砕いた。
二、三人、咲良の魔法による討ち漏らしがあったとしても、そこを信也がカバーして綺麗に一掃する。
それからは、そこまで広くない橋の範囲を出来るだけ散り散りになりながら進んできたり、足の速いものを集めてスピードで突破しようとしたりして、手を変え品を変え向かってくる。
「……なんだ?」
そうした小競り合いを続けていく内に、貴族派陣地の動きに少し変化が起こる。
すでに貴族派軍団はその殆どが東門、及び西門の橋の先に集結している状態だ。
そして信也は"視力強化"のスキルによって、少し離れた場所にいる相手の姿をも確認できる。
信也が注目する先では、相手集団の中から幾人かが橋の入口付近へと集まっていく様子が映っていた。
そして、その中に信也は見知った顔を発見する。
「あいつは……、シルヴァーノ!」
シルヴァーノを含む小集団は、恐らくは魔法による援護をもらっているのだろう。
幾人かが入れ替わり魔術士風の集団から支援魔法を受けている。
「まさか!?」
信也は敵の意図を察し、すぐさま大声を上げる。
「気をつけろぉ! 少数の敵精鋭が突っ込んでくるぞ!」
信也の大きな声は東門を挟んで反対側にいる咲良や、東門前で待機している前衛部隊にも届く。
その声が敵にも届いたのか、丁度準備の時間が同時刻だったのか。
信也の予想通り、シルヴァーノをはじめとする敵小集団がこれまでの兵士とはくらべものにならない速さで、橋の上を駆け抜けてくる。
「チッ! 光の柱よ、煌めき穿て。【シャイニングピラー】」
最初は咄嗟に放てる魔法で迎撃していた信也だったが、高速で移動している相手に当てるのは難しいと判断。
そこで通用門前に取りついたシルヴァーノらに向けて、【シャイニングピラー】を放つ。
それとほぼ同じタイミングで、ドオオォォォンという音が聞こえてくる。
【シャイニングピラー】の魔法でそのような音が鳴ることはない。
それはつまり、通用門がシルヴァーノによって打ち破られた音だった。
「ロアナ! 胸壁沿いに回りつつ伝令を頼む! 南側の状態まではここからでは分からんが、近くに敵がいない、もしくは少ないようなら、農業区画から本区画の方に移ってくれ。それと西門のシグルド達に、東門から敵が侵入してきたことも……」
「分かったわ!」
中央館などのある本区画と農業区画とは胸壁で繋がっているので、いちいち下に降りずとも胸壁沿いに外周を巡ることが出来るようになっている。
その胸壁沿いをロアナは駆けていく。
◇◆◇
「クソ手こずらせやがってぇ……。テメーら皆殺しにしてやるぜえッッ!」
ついに拠点内にまで侵入を果たしたシルヴァーノが、血走った目で吠える。
東門の通用門もそれなりに頑丈に作られてはいたのだが、Aランク冒険者であれば思いっきり蹴破る程度でも破壊することができた。
そして強引に開いた扉を通り、シルヴァーノをはじめとする二十人程の集団が続々と拠点内まで侵入した。
その集団の中の一人、シルヴァーノのお目付け役としてつけられたヨルクは、自分達を囲んでいる集団の奥にいる人物に気づく。
「あれは……第二王子!」
シルヴァーノがその可能性をシャルルにも言及していたが、ヨルクとしては可能性は低いと思っていた。
それがまさか実際にこの砦に匿われていたと知り、思わず一歩前に出る。
「おい、あれは俺に任せろ。お前は手筈通り右だ」
シルヴァーノが有無を言わさぬ口調で命令すると、ヨルクとあと数名の男達が左右へと散っていく。
「逃がすかよ!」
「待て、ムルーダ! 迂闊に前にでるな。こいつらかなりやり手だ!」
この場の指揮を任されたキリルがムルーダを制止させる。
元々この場には前衛が多く集められているので、左右に散っていった者達に効果的な攻撃を与えることはできなかった。
しかも残りの十数人もほぼ時を同じくして、ムルーダやキカンスらへと襲い掛かろうとしている。
「……奴は私に任せろ」
「承知した、エスティルーナ殿。あの首魁の男は彼女に任せる。他の者は周りの制圧に集中!」
この場で唯一単独でAランク冒険者に対抗できる存在。
それは同じAランクであるエスティルーナを置いて他にない。
「なんだぁ、てめぇは」
「……」
シルヴァーノの問いに、しかしエスティルーナは言葉ではなく弓矢で返答を示す。
「――っ。なぁるほど、よおく理解出来たぜぇ。テメェがエスティルーナか!」
完全に不意を突けた訳でもなかったが、それでもまだギアの入っていなかったシルヴァーノは、辛うじてその矢の攻撃を躱す。
「テメェをぶっ殺せば、この町の冒険者共に誰が最強か知らしめることができるなあ、オイ」
直接的な接触のなかった両者だが、シルヴァーノにはない名声を持っているエスティルーナは、一方的にシルヴァーノから妬まれていた。
だがそんなことは知ったものかと、エスティルーナは再びシルヴァーノに答えることなく攻撃を続行する。
「ハンッ!」
一方シルヴァーノも自分の距離に持ち込もうと接近を試みる。
「おらあ!」
「ムルーダ、一緒に畳み込むぞ!」
「な、なんだ!? ゴーレムだけでなく魔物まで!?」
「しかもこのゴーレム……中々やるぞ!」
一方二人のAランクの戦いに巻き込まれないような場所でも、戦いの火蓋は切って落とされていた。
侵入してきた貴族派軍の兵は選りすぐりらしく、総じてキカンスやムルーダらよりも強かった。
しかし数の上ではムルーダらのが上だ。
拠点を守るゴーレムは、現在アルファタイプからデルタタイプまで存在する。
アルファは汎用タイプであり、ボードを使用して後々機能の追加や削除などが行えるタイプだ。。
ベータはゴーレムなのに魔法主体で戦うタイプで、ガンマは主に偵察や隠密行動が専門。
そして新しくデルタという戦闘専門のゴーレムも数体稼働している。
更にそこにマンジュウにダンゴ、それから一時的に芽衣が召喚した魔物が加わっているので、数でいえばすでに相手の二倍以上はある。
「ぐあっ……」
「ゴルンダ! チィッ、数が多すぎる!」
「あの小娘もとんでもないぞ!」
個々の能力の高い敵兵だったが、それでも数の暴力に一人、また一人と倒れていく。
「イィアアアァァァッッ!」
しかも『ジャガーノート』側には、由里香もこの場で戦いに加わっている。
キカンスやムルーダらでは一対一で敵わなかった相手も、由里香は無双するかのように蹴散らしていく。
「この調子なら敵の先陣……それも敵の中核を打ち破ることができそうだ」
「そうですね。いざとなったら私も前に出ましょう」
包囲網の後方で指示を出しているキリルは、敵の侵入を許してしまったとはいえ、どうにか追い返せそうなことにホッと息をつく
その隣では、戦闘の様子に注目しながらも、時折"神聖魔法"を掛けているシャンティアの姿があった。
他にも護衛用に一体残されたデルタが一体。芽衣も今回は前に出ないで後方に控えている。
万が一芽衣がやられてしまえば、"召喚魔法"による数の優位も消えてしまうので念のためだ。
次々倒れていく侵入者たち。
一番便りになるハズのシルヴァーノは、エスティルーナによって完全に足止めを食らっている。
シャルルに命じられ、シルヴァーノに同行していた第二軍団部隊長のグリーヴァは、周囲の惨憺たる状況に血の混じった唾を吐き出す。
「まだか……?」
防御に集中し、出来るだけ時間を稼ぐように指示を出し、どうにかここまで粘ってはきた。
が、それもそろそろ限界が見えている。
しかしここでまた流れが大きく変わる。
「オオオオォォォ!!」
「進めぇ! 進めぇ!!」
通用門から貴族派軍の一般兵の声が聞こえてくる。
更に少しでも入口を広く取ろうとしているのか、東の大門に対して破城槌が打ち込まれ始めていた。
それでも今のところ大門はビクともせず、攻撃を受け止めている。
しかし通用門の方からは次々と兵がなだれ込んでいく。
途端、数の優位が入れ替わることになるのだった。




