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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十六章

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第459話 戦の気配


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アルザス陥落の報を受けてから数日が経過した。

 あれから更に一度だけ、アルザスの現在の情勢を伝える報せが届いたのだが、その内容は酷いものだった。


 守備兵に残された兵士たちが我がもの顔で街をのし歩き、街の住民は皆自宅で閉じこもって外に出ることがなくなった。

 だがそんな住民の家にまで押し入り、金品を強奪していく。

 すっかりタガの外れた貴族派の兵士たちは留まるところを知らないかのようだ。


 それと貴族派はすでにアルザスを進発していることも明らかになった。

 前回の報せが《ジャガー町》に届いた頃には、既に街を後にしていたようだ。




「……それは少し気になるな」


 中央館の会議室には信也をはじめとしたリーダー達と、キリル王子などが集まって定例会議を行っていた。

 アルザス陥落の報が届いてからはほぼ毎日行われているこの会議も、敵の動きがないため話し合う議題がほとんどなくなってきている。

 しかし今日に限っては気になる議題が一つ上がっていた。


「森に放った斥候からの連絡が途絶えている……か」


 キリルが言うように、二、三日前からアウラが森に放った斥候からの連絡が途絶えていた。

 放った斥候は一人だけではなく、複数にばらけて送ってある。

 それも二人一組で活動しているので、低ランクの森の魔物に襲われても問題はないし、中ランクの魔物に遭遇しても片方が逃げ延びる位の能力は有していた。


「昨日アウラ様は追加で森に斥候を派遣された。今回は簡単な連絡を取れる魔法道具を持たせたので、早ければ明日にでも報告が届くだろう」


 マデリーネの説明にある魔法道具とは、対になった二つの玉の見た目をしている。

 片方に魔力を込めるともう片方の玉が薄っすらと青く光るというもので、何かあった場合にはそうして魔力を込めることで相手に異変を知らせるという使い方が一般的だ。

 使用できる距離にある程度の制限はあるし、魔力量や環境によって光の強さや長さも変わるので、モールス信号のような通信は出来ない。


「森から来るとしたら南か東からだよな? 農業区画の見張り塔に監視を付けた方がいーんじゃねーか?」


「ムルーダの言う通りだ。すでに敵は森の中を進んできているかもしれん。ルカナルや農民の人達にもいつでも退避出来るよう伝えておこう」


 他にも迎撃態勢を取る際の配置なども、改めて打ち合わせがされた。

 北条は将来的には迎撃魔法装置のようなものを設置したがっていたが、現状では防衛用の結界を張ることしかできていない。

 その為迎撃をする際は弓矢や魔法などで行う必要がある。


 "アイテムボックス"を持つ陽子や、〈魔法の袋〉などを拠点の各地に分散させて配置して、袋の中には矢やポーションなどを収納しておく。

 こうすれば矢の補充で手間取ることもないだろう。




 そして翌日。


 森の動向が不透明になったことで、緊張感を増していく拠点の人々。

 特に力を持たないルカナルや農民らの不安が募る中、本日の定例会議が行われた。

 とはいえ、アウラが追加で派遣した斥候からの報告もなく、会議自体は一時間もかからずに終了する。


 その会議の終了間際。

 会議室の扉がノックもされず開け放たれる。

 勢いよく開いた訳ではなかったが、会議の終了間際で一瞬の静寂が生まれていた時だったので、室内にいた者達は思わず一斉にドアの方へと視線を送る。

 ドアを開けたのはリノイのメンバーの魔獣使い、ラミエスだった。


「……どうしたんだい? ラミエス」


 シグルドが少し困惑した様子で彼女に問いかける。

 というのも、珍しくラミエスが慌てた様子だったからだ。

 普段から感情を表に出さず、口数も少ない彼女のこのような様子は珍しい。


「多分……敵……来る」


「なにっ!?」


 ラミエスの言葉に室内は騒然とする。


「その言い方だと、まだ敵の姿は確認してないんだね?」


「うん。でも……もう、すぐ……」


 ラミエスには"第六感"スキルが備わっているが、同時に"占術"や"時間魔法"などといったものも取得している。

 "占術"はともかく、"時間魔法"に関しては初歩的な魔法しか使えないラミエスだが、時間属性に適正があることがこれらのスキルからも窺える。

 そのせいか、ラミエスの"第六感"スキルは時に未来のことを言い当てることがこれまで度々あった。


「ラミエスのこういった時の"第六感"は大体当たる。今すぐ準備を開始しよう!」


「分かった! 手筈通りに配置についてもらう。皆はこのことを拠点の皆に触れ回ってくれ!」


 シグルドの発言を受け、信也がその場にいる者達に指示を下す。


「それとアリッサはアウラ様へこのことを報せに行くよう伝えてくれ」


 こういった時の為に、拠点には馬が一頭用意されていた。

 拠点から町までの距離は徒歩三十分と近いのだが、今は一刻を争う事態だ。


「分かりましたぁ。それでぇ、王族の方達はどうするんですかぁ?」


 昨日は拠点を訪れていたキリルらであったが、彼らも毎日拠点を訪れていた訳ではない。

 本日はアウラの館の方で過ごしていた。


「それはあちらの判断に任せる。拠点に避難したいというのであれば受け入れよう。ただ早めに行動しないと手遅れになるので、判断は早めに頼む」


「ではそう伝えておきますねぇ」


「アリッサ、頼んだぞ!」


「まっかせてぇ」


 最後にマデリーネが発奮させるようの言葉を掛けると、アリッサは自信満々に答えて部屋を出ていった。


「よし、では俺達も行動開始だ!」


 続く信也の言葉に、我先にと会議室を後にしていくシグルド達。

 これまで何度か訓練していたこともあって、村人たちは驚いてはいたものの慌てふためくこともなく、地下にある隠し部屋へと避難していく。


「こういった時の為に大きな鐘でもあるとよかったんだが……」


 北条が返ってきたらそのことを進言しようと思いつつ、信也は拠点内の人々に敵襲を知らせて回る。

 予め対策を練っていた為にみんなの動きはスムーズではあったが、魔物とも違う、人間の軍隊が迫ってきているという状況に、特に異邦人達の顔色は余り優れていない。




「ふぅ……。今のところまだ敵の姿は見えないわね」


 農業区画南東の見張り塔で待機している陽子。

 その周りにはディランやロベルトなど、"弓術"のスキルを持つものが多めに配置されている。

 森から敵が襲ってくるなら、この場所が一番攻撃をするのに向いている。

 その分敵からの攻撃も集中する可能性はあるが、万が一拠点の結界が破れたとしても、陽子がいれば自前で結界を張ることもできる。それに陽子自身も"弓術"スキル持ちだ。


「他の人も配置に付いたみたいッスね。こっからだとアリッサさんの姿も見えるッス」


 この見張り塔からは拠点内にいる仲間の様子もよく見える。

 また正反対方向。町の方角には、遠目に馬を走らせているアリッサの姿も見えた。


「でもあれ? なんかアリッサ止まってない?」


 ロベルトに釣られてアリッサを見ていた陽子が、途中で足を止めているアリッサに気づく。


「あ、そうッスね。何かあったのかな?」


 しかし止まっていたのはほんの僅かの間で、すぐにもアリッサは移動を再開した。


「……よく見ると人が走ってるわね。あの人と話してたのかな」


 "視覚強化"のスキルを持つ陽子は、アリッサとすれ違うようにひとつの人影が拠点の方に向かっているのを捉えていた。


「え、マジッスか? 流石姐さん。鳥の魔物のような目をして……ぐへぇっ!」


 最後までロベルトが言い切る前に、陽子が拳骨を落とす。


「そこは『鳥のような』だけでいいでしょ! アンタの言い様はトゲを感じるのよ」


 思いっきり殴られた訳ではないが、ロベルトは頭をさすりながら「そういう所が魔物っぽいんッスよ……」と、小声でぶつぶつ呟いている。

 その声もしっかり陽子の耳には届いていたのだが、再び拳骨を落とすことはなく、代わりに別のことを呟いた。


「あの様子だと、あと十分もあればここに到着するわね」


 拠点へと走り続ける人影を見ながら、陽子が予測を立てる。

 それは概ね間違っておらず、おおよそ十分後には西門からその人物が迎え入れられることとなる。




 一方その頃、《ジャガー町》では馬を走らせていたアリッサがアウラの下へとたどり着いていた。


「アリッサ!」


 館の中ではなく、外にいたアウラに呼び止められるアリッサ。

 アウラの周りには護衛の冒険者や騎士の他に、キリルら王族の三人も揃っていた。


「アウラ様ぁ、報告に上がりましたぁ」


 相変わらず語尾が伸びる独特の緊張感が薄い話し方であるが、付き合いの長いアウラはそれでもアリッサが焦っていることに気づく。


「うむ。どうした? 何があった」


「はぁい。ええとですねぇ、敵の姿はまだ確認していないんですけどぉ、どうも敵が迫ってきてるみたいなんですぅ」


「……なるほど」


 アリッサの言い方では何の根拠もないように聞こえるが、実は先ほど同じ言葉をアウラは耳にしていた。


「実は先ほどエスティルーナ殿も同じようなことを言っていてな」


「あ、はぁい。ここに来る途中にすれ違いましたぁ」


「森を突破してきたとなれば、まずぶつかるのはあの拠点だ。私はここで兵を纏めて指揮するつもりだが、彼女には先に拠点に向かってもらったのだ」


 エスティルーナだけでなく、多彩な冒険者たちが集う『ジャガーノート』でも同じような反応をしていると言うことは、敵が迫っているというのも信憑性は高くなる。

 未だ魔法道具による連絡はないのだが、逆にそのことも敵の侵攻を示唆しているのかもしれない。


「それはとても心強いですぅ。あ、それと一つ伝言がありましたぁ」


「申せ」


「はいぃ。『王族の方々が避難を希望するなら受け入れる。ただ、すぐに行動しないと間に合わないかもぉ』、ということですぅ」


 後半部分は大分アリッサナイズされているが、アウラは気にした様子はない。


「それは助かる。ではアリッサは殿下をお連れして拠点へと向かってくれ。馬は用意してある」


 実はすでにアウラはキリルらを逃がすために馬を用意していた所だった。

 やはりこの町で一番安全だと言えるのはあの拠点だからだ。


「はぁい、わっかりましたぁ」


 アウラの命を受け、アリッサはリタを背後に乗せる。そしてキリルはエルランドを乗せ、二頭の馬は拠点へとひた走る。


 戦いの気配はすぐそこまで迫っていた。



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