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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十六章

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第458話 悪意の向かう先


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 王家派の勢力を大きく崩す為。

 そして《鉱山都市グリーク》へと逃れた王族を捕らえる為。

 シャルルはアルザスを陥落してからわずか二日後には、アルザスに一部守備兵を残して軍を進発させていた。


 食料に関しては、大分兵数も減っていたしアルザスで徴発した分もあるので余裕はある。

 しかし、季節的には既に暗光の月(11月)も半ばを過ぎており、日に日に寒さがきつくなっていた。


 当初の予定であればもっと早い時期に行動を起こすはずだったのだが、『メッサーナ商会』の手と思われる妨害工作の他に、組織の末端部分の手際が悪かったこともあって、計画が遅れていた。


 現在行軍している貴族派の討伐軍の数は、アルザス攻防戦前に比べ大分減っている

 当初は八万以上の兵力だったのに、今や五万を切っているのだ。

 割合からするととんでもない損耗率ではあるのだが、それは王家派も同じであり、更に言えば王家派の戦力はもう殆どないと言っていい。


 それにここで引き返したとして、下手に立て直されても面倒だ。

 冬の間は本格的な軍事行動が行えないので、今を逃せば次に戦うのは春先となる。

 短い期間とはいえ、時間を空けるのは好ましくないだろう。

 シャルルとしても、三万近くの犠牲もその大半が第四軍の民兵であったことから、寧ろ食い扶持が減って丁度良かったとも思っていた。




 そうして進軍を開始してから二日ほど経過した日の夜の事。

 天幕で休みに入ろうとしていたシャルルの下に、一人の男が訪ねてくる。


 その男――シルヴァーノは顔の半分近くを布で覆っていた。

 それも顔だけでなく腕や足などにも同様に布が巻かれており、見るからに奇妙な出で立ちをしている。

 しかしそのことを指摘する者は彼の周りにはいない。

 皆、命が惜しいからだ。


 シルヴァーノのその恰好は中二病的なファッションなどでもなんでもなく、単純に全身に負った火傷痕を隠す為だ。

 《ジャガー町》にて信也らと戦った際に、彼は咲良の"火魔法"によって全身火傷を負った。


 その時のシルヴァーノは激高状態だったとはいえ、"ライフストック"スキルでストックがまだ残っていた為に、気にすることなくそのまま戦闘を続行していた。

 その気になれば、ストック分のライフを補充させることで火傷の傷も全て回復させることができると思っていたからだ。


 しかしそこに思わぬ伏兵……それもとんでもなく強い獣人の男、ゼンダーソンが乱入してきたことで、一気に流れが変わってしまった。

 ゼンダーソンの強力な一撃は、"ライフストック"をほぼ一つ分まるごと使い果たす程のダメージをシルヴァーノに与える。


 その結果、火傷の痕はそのままに、大きなダメージを負った状態になったシルヴァーノは即座にその場を逃げ出した。

 もし先に"ライフストック"を消費しておけば、このような火傷の痕は残らなかったはずだ。

 ただしその場合は、ゼンダーソンの一撃に耐えられたかどうかは分からない。


 逃げ出したシルヴァーノは、その後神官の"神聖魔法"による治癒を受けたが、火傷の痕まで綺麗に治すことは出来なかった。

 重度の火傷を完全に治癒するには、失った腕を再生させるくらい高度な魔法が必要だ。

 しかし《ジャガー町》にそれほど高度の"神聖魔法"の使い手はいなかった。


 シルヴァーノはこの火傷痕を見るたびに、神経が切れそうになるほどの怒りを覚え、苛烈な感情を内にため込んでいる。

 そんないつ暴発するかも分からない状態のシルヴァーノに接触しようとする人間は、以前より更に減っていた。

 飼い主であるベネティス辺境伯ですら、正面から対峙したくないと思い始めたほどだ。




「それで……何の用だ?」


 ギラギラとした目をして兇相を孕んだシルヴァーノは、平民を路傍の石ころのように思っているシャルルをすら圧倒させる圧を放っている。

 シャルルとしてもこの男と接触を取りたいとは思っていなかったが、アルザス攻防戦では危ないところを救ってもらったこともあり、面会したいという願いを断ることはできなかった。


「出兵許可をくれ」


 以前のシルヴァーノは表向きは口調を改めていたのだが、今のシルヴァーノは素の自分を隠そうともしない。

 シャルルはそうした態度にいちいち不快感を抱くが、感情を抑え、先ほどの発言に対して問いただす。


「……どこに兵を出すつもりだ?」


「《ジャガー町》……ダンジョンが発見されて賑わっている町だ」


「あの町か」


 シャルルも詳しくは知らなかったが、シルヴァーノの火傷痕がその町で負ったものだということは聞いていた。

 恐らくそのことが関係しているのだろうと、シャルルは予想する。


 あの町は元々ベネティス辺境伯が策を弄して、事を本格的に起こす前に手に入れようとしていた場所だ。

 大規模なダンジョンというのはそれだけの魅力があり、今回同行した下っ端貴族もあわよくばと機会を窺っている。


 シルヴァーノがその町を落としたとなれば、恐らくはその所有権をベネティス辺境伯が強く主張することになるだろう。

 だがそうせずとも、ベネティス辺境伯は強引な手を使ってでもかの地の領有を強く主張するだろう。


 ならば、今ここでこの男を向かわせるのも悪くない。

 何よりこの男は戦闘能力は確かだが、迂闊に接触すると司令官であるシャルルにすら凶刃を向けかねない。


「私は構わないと思っているが、同行している諸侯の中には抜け駆けしたと非難する者が出てくるだろう。ベネティス辺境伯が睨みを利かせれば、表向きは引き下がるだろうがな」


「ならそいつらにこう伝えておけ。俺はグリークから落ち延びた王族を先んじて捕らえると」


「……それはどういうことだ?」


「あの町にはとんでもねえ強固な砦がある。グリーク辺境伯がグリークで最後まで戦うというなら年上の二人の王子はともかく、女子供は安全な所まで退避させてる筈だ」


「その強固な砦とやらに避難させていると?」


「ああ。ルイトボルドやマズル砦じゃあ、すぐに追撃の手にかかるだろうしな」


 それはシルヴァーノが咄嗟に思い付いた発想であったが、正鵠を得たものだった。

 実際には、女子供の内の女であるアリーナ王女は《鉱山都市グリーク》に残ったままではあるが、そのこと以外はほぼ正解に近い指摘だ。


「……それでどれだけ連れていくつもりだ?」


「こっから《ジャガー町》に向かうには、マヌアヌ湿地を抜けていくか南から森を突っ切っていくしかない。どっちも大軍が通るには向いてねえルートだ。だが千……いや、千五百ほどくれ」


「たかが小さな町一つ落とすのに千五百とは多いのではないか?」


「あの町はダンジョンで賑わっていて冒険者が多い。その上、あそこの連中はベネティス辺境伯の誘いだと言うのに、俺の声に全く耳を傾けなかった。敵対する冒険者の数が多いと厄介だ」


 シルヴァーノの誘いが断られていたのは、背後にいるのがベネティス辺境伯だったからという理由もあっただろうが、一番の理由は傲岸不遜なシルヴァーノの態度が原因だった。

 しかし本人は微塵もその可能性を考慮していない。


「そうか、では兵千五百をお前に預ける。それと第二軍団からグリーヴァをお前に付ける」


「分かった。第四軍団の兵は弾いておけよ」


「……いいだろう」


 シルヴァーノも精鋭を寄越せとまでは言わなかったが、民兵が主体の第四軍団は流石に邪魔だと思ったようだ。

 シルヴァーノのいつまでも改められない横柄な態度にイラっとしつつも、シャルルはシルヴァーノの申し出を承諾した。





▽△▽



 シャルルからの出兵許可を取ったシルヴァーノが自分の天幕の中へ戻ると、そこには一人の男が待ち受けていた。


「ヨルク、話はついた。千五百の兵を率いて《ジャガー町》に向かう」


「ルートの方はどうする?」


「森を抜けていくつもりだ。そうすれば奴らの不意を突ける」


 シルヴァーノの頭の中には拠点にいる咲良達のことしかなかった。

 今でもあの時のことを思い出すと自分が自分でなくなる位に、怒りの感情がこみ上げてくる。


「……目的はあの町の支配権を奪うことだぞ?」


「分かってる。だがあの砦を奪っちまえば、町の奴らなんざ目じゃねえ」


 まったく分かっていなさそうなシルヴァーノに、ヨルクと呼ばれた男は軽くため息を吐く。

 ヨルクはベネティス辺境伯が抱える密偵組織の腕利きだ。

 今回はシルヴァーノのお目付け役として傍に付けられている。


 レベル七十を超えるヨルクは暗殺任務を得意としているが、そのレベルの高さから他の任務も卒なくこなすことができる。

 しかし今回ばかりは飼い犬(シルヴァーノ)に手を噛まれないようにするので手一杯だった。


「とにかく、ハンス(ベネティス辺境伯)様はあのダンジョンにご執心だ。そのことは忘れるな」


 そう言ってヨルクはシルヴァーノの天幕から去っていく。

 残ったシルヴァーノは一人、誰もいなくなった天幕の中で口を大きく歪ませて嗤う。

 それは悪意をそのまま声に現わしたかのようで、なおかつそこには狂気も混じっている。

 誰もいない天幕の中、シルヴァーノの嗤い声がしばし木霊していた。



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