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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十六章

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第457話 悲報


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アルザスでの戦いに決着がついた。

 その情報はただちに《鉱山都市グリーク》のアーガスの下へと届けられる。

 バルバロッサ戦死の報と共に……。


「……」


 その報せを聞いた時のアーガスの様子は、ただただ静かだったという。

 後にアルザスの戦果報告は《ジャガー町》のアウラや、《ルイトボルド》の街にいるアーガスの次男、ユリアンの下へも届けられることになる。



 そして今。


 アウラは《ジャガー町》の町長館にて、エスティルーナやマデリーネらと共にその報告を受け取っていた。


「バル兄……」


 アウラの口からつい幼い頃の兄の呼び名が零れ落ちる。

 バルバロッサはアウラと年の近い兄妹で、幼い頃はよく一緒に武芸ごっこなどをしたりして遊んでいた。

 シスコン気味のバルバロッサを時に疎ましく思うこともあったが、愛する家族としてアウラは今も幾つもの思い出と共に兄の顔を思い出すことができる。


 ……しかし、今だけはそうすることができそうにない。

 人前で涙を見せることの無いアウラだったが、いま兄との記憶を思い返してしまうと涙腺を止められる自信がなかった。

 そんなアウラを、家宰のアランと今は冒険者活動をしているマデリーネ、アリッサの二人。それから従者のカレンが沈痛そうな表情で見つめている。


 どれぐらいそうしていただろうか。

 主人の気持ちを慮って沈黙していたアランであったが、報告はまだ途中だ。

 どうしたものかと思っていたアランに、アウラが話しかける。


「続きを……。まだ続きがあるのだろう?」


「はい。……それでは報告の続きをお伝えします」


 それは具体的な戦果についての報告だった。

 まず、攻め寄せた貴族派の軍勢は八万以上もの大兵力に及び、その内アルザス攻防戦での死者は実に三万人近くに上った。


「倍近い兵力相手にしては大きな打撃を与えた……と言いたい所だが……」


 その実、王家派の兵は死兵となって最期まで戦ったと言う。

 数で凌駕する相手に、それだけの損害を齎したのはそうした士気の違いが大きい。

 それに一時的に司令部が麻痺状態にあったせいで、後背からの奇襲部隊に上手く対応出来なかったせいもあるだろう。

 だが、それだけではここまで貴族派がダメージを負うことはなかった。



「人の心を取り外した悪魔共めッ……」


 アウラはその後のアランの報告を聞いて、強く歯を食いしばりながらどうにかその言葉だけを吐き出す。

 それはバルバロッサらが非業の死を遂げ、後方から襲い掛かった奇襲部隊を打ち破った後の報告だった。


 バルバロッサは極力街の住民に被害が及ばぬよう、街の中での戦闘を控えて早めに勝負を仕掛けにいった。

 しかし貴族派の兵士らは相手の軍勢を片付けた後に、次は街の住人へとその牙を向けた。

 そして五万人ほどの住人の内、一万人以上の死者を生み出すことになる。


 山賊と何ら変わりない貴族派の所業に、街の住人も必死で抵抗を見せた。

 その結果、貴族派の兵士にも多くの死傷者が発生し、途中からは司令官であるシャルルが積極的に賊徒と化した兵らを鎮めていった。


 性質の悪いことに、レヒーナをはじめとした下っ端貴族らも積極的に略奪や人攫いを行っていた。

 その為完全にシャルルが統制を復活させるのに、多くの時間を要することになってしまった。


「安全だと思われていた、冒険者ギルドの施設や教会にまで手を出すとは……」


 マデリーネが呆れと怒りの混じった声を出す。


「詳細な被害はまだ判明しておりませんが、ギルドと教会に手を出すようでは、例えこの先彼らがロディニアの支配者となったとしても、長くは続かぬでしょう」


「アランの言う通りだ。彼らだけでなく、民衆の我慢も早々に限界に達するであろう。奴らは平民を幾らでも湧いてくる道具とか、金を生み出す物のように見ている。だから、自分達のしでかしたことに何一つ気づいていないのだ」


 とはいえ、現時点では王家派が絶望的な状況にあることには違いない。

 《鉱山都市グリーク》でも数千の兵が控えているが、その差は歴然だ。

 ただし、アルザスでの残虐非道な行いが知れ渡れば、更に民衆の間からも戦う者が出てくるかもしれない。

 民の犠牲を厭うアーガスが、それを受け入れるかどうかは別の話にはなるが。



「それで奴らは今どうしているのだ?」


 ここでエスティルーナがアランに話の続きを促す。


「現在はアルザスにて食料の供出や部隊の再編制を行っているようです。最もこの情報も数日前のものになりますので、今はもうアルザスを進発しているかもしれません」


「そうか……」


 エスティルーナは、いざという時が来たら強引にでもアウラを連れてここを出るつもりでいる。

 どうやらその日は近づいてきているのかもしれない。

 そんなことを考えながらも、エスティルーナはグリークの街の人の顔を思い浮かべていく。


(ゴールドル……、アーガス…………)


 アーガスはともかく、冒険者ギルドのギルマスをしているゴールドルは、本来不安に思う対象からは外れていたハズだった。

 しかしアルザスでの凶行を踏まえると、ゴールドルも参戦する可能性はある。

 彼の性格のことは、かつての冒険者仲間であるエスティルーナはよく知っていた。


(Aランク冒険者だなどと言っても、所詮私一人の力でできることには限界がある……)


 エスティルーナは自らのことを不甲斐ないとまでは思っていなかったが、力が及ばないことを無念に思っていた。


「今どの辺りを行軍してるのか、或いはまだアルザスに留まっているのかは不明だが、マヌアヌ湿地と南の森の警戒を密にする必要があるな」


「私の方から指示を出しておきましょう」


「うむ、頼む」


 アウラが直々に指示を出すこともあるが、最近はアランがこのような雑事を担当することが多い。

 初めは自分で何でもやろうとしていたアウラだったが、今ではアランがいなくては回らなくなるほど彼には助けられている。


「私はこのことを『ジャガーノート』へ伝えて参ります」


「任せた。殿下らも今拠点を訪れているので、一緒に報告をしておいてくれ」


「ハッ!」


 アウラの返事を受けて、マデリーネが立ち上がる。

 それに少し遅れてアリッサも席を立つ。

 二人の表情は言うまでもなく硬い。

 普段はほんわかとして負の感情を人に見せないアリッサですら、憤りを抑えられずにいた。


 アウラの居室から退出した二人は、その足で拠点へと向かうのだった。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「そう……か……」


 中央館の会議室には、拠点を訪れていたキリル王子ら王族の三人と、信也ら『ジャガーノート』の面々が集結していた。

 そしてアルザス攻防戦の報告を聞き、キリル王子は重く呟くようにして言葉を吐き出す。


 『ジャガーノート』の面々も実際の戦闘に関してはともかく、勝利後に行われた街の住人への仕打ちを聞き、酷く表情を歪ませていた。


「アウラ様はアルザスで奴らが行ったことを公表なさるおつもりだ。これで更に町を離れる冒険者が現れるかもしれないが、逆に参加者が増える可能性もある」


 これまではあくまで部外者であるという認識だった冒険者も、自分達にも被害が及びかねないとなれば、憤慨して戦うという者が出てくることは確かにありえる。

 しかし実際の所はどうなるか微妙であった。

 現時点より更に冒険者の参加が減ることも十分に考えられる。


「けど町の人は……」


「それは……。結局のところ、一番割を食うことに……なるだろう」


 陽子の指摘に、言いづらそうにマデリーネが答える。

 結局のところ、平民は行く当てのない人というのが多い。

 場所柄的に近隣の領と接している街や村ならともかく、《ジャガー町》からでは逃れるとしたら《鉱山都市グリーク》か北にある村くらいしかない。

 しかしこのまま事態が推移していけば、どのみち悲惨な末路が待ち受けていることだろう。



「ホージョーさんは何時頃戻ってこれるんッスかね」


 思わずロベルトが発した言葉は、この場にいる誰もが一度は思っていたことだった。

 あれからもパーティーを継続した状態の慶介に、北条の【デリバリーボイス】の魔法によって一方通行での経過報告は届いている。


 その報告によると、初見殺しエリアという呼び名に変更された四十層にて、巨大なサンドワームを撃破し、今は四十一層以降の探索をしているということだった。


 これまでの進み具合から考えて、恐らくは五十層にもボスは潜んでいると思われるが、そこまでたどり着くにはもう少し時間がかかるだろう。……というのが、今の拠点に残っている者達の認識だ。


「早く……帰ってこないかな?」


 しかし咲良の願い虚しく、『サムライトラベラーズ』がダンジョンから帰還するには、今一つ時が足りていないのだった。



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