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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十六章

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第456話 アルザス攻防戦 後編


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「行け、行けえええぇぇぇッッ!! 狙うは敵本陣!」


 アーガスの長男であり、アルザスの領主でもあるバルバロッサ・グリークが、あらんかぎりの声を上げながら馬を駆り、先陣を切って駆け抜けていく。

 本来であればもう少し街の中に兵を引きいれて、後方にある敵本陣の守りが薄くなってから突撃する予定であったが、予定は繰り上げられた。


 バルバロッサは、街の内部の配下と通信用の魔法道具による連絡を取り合っていた。

 その時送られてきた報告の中に、先行した敵兵が手当たり次第に住民に襲い掛かっているという報告があった。


 もしこのまま更に敵兵を街中に引き入れていたら、もっと被害は拡大する……そう思ったことが予定を繰り上げた理由の一つだが、もう一つの理由は貴族派が少数精鋭をワイバーンに乗せて南門に送りこんできたことだ。


 報告を聞いた限りでは、その集団は英雄クラスの力を持っていることは明らかだ。

 そういった厄介な戦力を分断出来た今が、奇襲を仕掛けるチャンスであるとバルバロッサは判断したのだ。



 実際に作戦が功を奏したのか、浮足立った敵陣はバルバロッサ率いる騎兵に側面から食い破られるようにして蹴散らされていく。

 地の利を活かし、バルバロッサは伏兵の配置に細心の注意を払っていた。


 そして伏兵は騎兵隊だけでなく、敵陣後背からも歩兵が騎兵隊と連動してすでに移動を開始している。

 この二つの部隊だけで兵力は三万を超えており、王家派の大半の勢力が注ぎ込まれている。

 その為、街自体の守備兵力は少ない。


 元々アルザスは人同士の争いを想定して作られた街ではなかったが、周囲には森や川などの地形が広がっていて、貴族派の進軍ルートの予測はしやすい。

 そのルートからの視界の通り具合と、伏兵の配置する場所の選定。

 更には簡単な土木工事で地面を盛り上げ、身を隠す場所を意図的に用意するなど。

 準備期間は短かったが、出来うる範囲で準備は整えられていた。


 その準備期間中に、南のエルドール自治領のエルフにも協力要請を頼んでいた。

 近年すっかり人族との関係が冷え込んでいたのだが、貴族派にはエルドールのエルフを敵視しているベネティス辺境伯も加わっている。

 もしこの人族の争いが貴族派の勝利に終われば、近い将来エルドール自治領のエルフが次のターゲットとなることは明白だ。


 そういったことを訴えた結果、本格的な援助は出来ないが、優れた魔法の使い手を幾人か派遣してくれる事となった。

 彼らエルフの魔法も、伏兵部隊の隠匿に大きく寄与することになる。



 バルバロッサの狙いはただ一つ。

 敵の司令官、及びその周囲にいる重要人物を一掃すること。

 上手くいけば司令官を失った敵軍は一時退却するかもしれないし、司令官を失って組織的に動けなくなれば、各個撃破する好機にもなる。


 しっかりと訓練され鍛えられたバルバロッサ率いる騎兵集団は、敵本陣へと迫る。

 何十、何百もの騎兵が迫って来る様子に逃げ損ねた末端貴族は顔を青くしているが、そんな中一人の女性の朗々とした声が聞こえてくる。


「猛き炎。死を呼ぶ赤き揺らめき。うねりとなりて、全てを焼き尽くせ。【フレイムウェイブ】」


 それはレヒーナの魔法の詠唱の声だった。

 "劫火魔法"の中でも効果範囲が広い【フレイムウェイブ】の魔法は、レヒーナのいる地点から扇状に炎の波を発生させる範囲攻撃魔法だ。


 彼女は魔術士でありながら護衛と共に前に出ていた。

 そしてその前線に近い位置から迫りくるバルバロッサらに炎の魔法を浴びせかける。


「!? これはっ、上位魔法かッ!」


 バルバロッサは父アーガス同様に、幼いころより鍛錬を積み、レベルもそこそこに高い。

 彼の周囲にいる厳選した高レベルの騎士や、特別編成の冒険者も同様だ。


 【フレイムウェイブ】は戦場用に範囲を重点においた魔法なので、レベル六十以上のバルバロッサ本人には大きなダメージとはならなかった。

 しかしいくら乗り手のレベルが高くても、"結界魔法"のようなものに守られていない限り、馬の方が攻撃に耐えられない。



 レヒーナの放った魔法は百名以上の騎兵にダメージを与え、何十人かの味方の兵士を巻き添えに機先を制した。

 そして大魔法を放ったレヒーナは、無理をせずそこで一旦後方へと下がる。

 すでにシャルルの指示や、護衛の騎士らの咄嗟の判断で簡単な陣形は整いつつあり、その後方へと退避した形だ。


「ぐっ、ぬぬ……。馬をやられた者はその足で前へ進め! 敵本陣はすぐ

先ぞ!」


 自身も馬をダメにされたバルバロッサは、そう叫んで言葉通りに前へとひた走る。

 そしてついに敵本陣へとたどり着いたバルバロッサらは、次々と周囲から敵の増援が来るなか、大将首を取ろうと前のめりになって戦っていく。


 敵の英雄クラスを引き離したせいか、本陣にいるのは数は多いが少し実力の劣る者ばかりだ。

 後衛の英雄クラスが控えている可能性はあったが、今この場にいるのはレヒーナだけだった。


 彼女の援護は強力ではあったが、いまだバルバロッサらの勢いは強く、司令官であるシャルルが自ら剣で戦い始める程に肉薄している。


「あれが敵司令官のシャルル・バレットだ。奴を討ち取れば我らの勝ちよ!」


「抜かせ。貴様らにこの首、落とせる訳なかろう!」


 実際にレベル八十を超えるシャルルは、すでに何人も敵兵を切り捨てている。

 バルバロッサの騎兵隊には、英雄クラスの冒険者や高レベルの者も複数存在するのだが、それでも次々敵兵が打ち寄せてくるのとレヒーナの援護もあって、場は拮抗状態となっていた。



「はぁ、大分苦戦してはるなあ。ここで助太刀したら追加報酬もらえまっか?」


「チッ……。よかろう、追加報酬を払おう」


「まいどおおきに」


 しかしここで最悪の助っ人が参上した。

 三体のワイバーンを連れ加勢に来たのは、魔物使いのリンジーナだった。

 ワイバーンの負傷を癒す為、南門での攻防を一足先に抜けていたリンジーナであったが、バルバロッサの奇襲に気づくとここまで参上したのだ。


 リンジーナの参戦で、更にきつい状態に追いやられるバルバロッサ達。

 しかしこの頃には後背から襲い掛かった王家派の伏兵が、貴族派と接敵を果たしていた。

 そちらに兵を割かれ始めたので、この本陣へ押し寄せる貴族派の兵も少しは減っている。


「モーラ、ハリントン……。済まぬ、付き合ってくれ」


「バルバロッサ様……」


 すでに騎兵で突入してきた穴も塞がり始め、逃げ道も失われたこの状況。

 周りにいた幾人かの下っ端貴族は討ち取っていたのだが、肝心の目標が達成出来ていない。

 覚悟を決めたバルバロッサは、残った僅かな手勢を集結させてただ一点。シャルル・バレットに目標を定め、突撃を敢行する。


「貴様だけは道連れにしてやる」


「こ、のっ! 死にぞこない共め!!」


 死を厭わぬ決死のバルバロッサらの特攻は、シャルルに大きなダメージを齎し、ついにはその手にしていた剣を弾き飛ばして、今一歩という所まで追い詰めることに成功した。


「これ……で……ッ!」


 そして、バルバロッサがトドメの一撃を繰り出そうとした次の瞬間。


「がはぁっ……」


 突如現れた男によって、袈裟斬りにバルバロッサは切り捨てられる。


「貴様は……シルヴァーノ、か?」


「俺だけじゃない。他の連中も一緒に戻ってきている」


 地面に膝をつき、今にも倒れそうな所を気力を振り絞って辺りの様子を確認するバルバロッサ。

 見ればヨーリスらの姿も確認でき、残ったバルバロッサの配下と戦闘状態に突入していた。


「ここまで……か」


「そうだ。俺の功績のために死ね」


 無慈悲に突き出されたシルヴァーノの剣が、バルバロッサの心臓を突き刺す。


(父……上…………。私は、ここまでの、ようです。アウラ……お前は、無理に戦わず……逃げ…………)


 そこでバルバロッサの意識は途絶える。

 そして駆けつけたシルヴァーノやヨーリスらによって、残党も次々討ち取られるか捕らえられていく。


 残るは後背から迫る歩兵集団だったが、彼らはバルバロッサを討ち取ったことを伝えても引くことはなく、最後まで強い抵抗を見せた。

 すでにこの時点で勝勢は決していたにもかかわらず、激しい抵抗にあった貴族派は数の優位にもかかわらず大きく兵を損なう結果となった。


 しかし必死の抵抗虚しく、その日、アルザスの街は貴族派の軍勢によって陥落した。



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