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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十六章

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第454話 若さの秘訣


 シャルルが侍女を撲殺した頃、レヒーナも自分専用の天幕に帰っていた。

 こちらの天幕には侍女の姿はなく、一人の老執事の姿があるのみだ。


「レヒーナ様、準備は整ってございます」


「そう、ご苦労」


 レヒーナの使用している天幕は、軍から配給されたものではなく彼女の私物だ。

 シャルルの天幕も魔法道具であり、内部の空間を拡張するなどの効果を有していたが、レヒーナの天幕は魔導具であり格が違う。

 最早天幕というよりも、中身は普通の邸宅のような作りになっていた。

 外見だけは他のとそう大差はないのだが、他にも温度を一定に保つ機能もあり、暗光の月(11月)を迎えて寒さが本格化してきた今の季節にはうってつけだ。


 コンコンッと足音を響かせながら、レヒーナは一直線に目的の部屋へと向かう。

 この天幕内の邸宅は主に木材で出来ており、広さはそれなりに広いのだが貴族の邸宅程ではない。さりとて、一般的な平民の家よりは広いといった具合で、二階建ての建物になっている。


 レヒーナが向かうのは一階の最奥にある部屋で、ドアノブを回し部屋の中へとはいると、そこには既に先客が待っていた。


「……ンゥッ!?」


 その部屋は妙に天井が高く……というよりは吹き抜けになっていて二階部分の空間まで広く取られている部屋だった。

 そしてその高い天井部には滑車が幾つか設置されており、そこからは滑車と同じ数だけロープが垂れさがっている。


 レヒーナはそれらに一瞥することもなく先客――後ろ手にロープで縛られ、口にも猿轡が嵌められている少女の下まで無言で近づいていく。

 少女は縄の他には何も身に着けておらず、この天幕の温度調節機能がなければ寒さに震えていた所だろう。

 しかし少女は今、寒さとは別の理由で震えを抑えることができないでいる。

 何故なら能面のような表情をしたレヒーナに、体を弄られている所だったからだ。


「……下賤な平民であろうと、若いというだけでこのような肌を……」


 少女は今回の進軍途中の村から攫われてきた村娘であり、お世辞にも肌が綺麗とは言えなかった。

 しかし出来る範囲でケアをしていたのか肌荒れもなくハリのある肌は、レヒーナからすると求めてやまないものだ。


 最初の能面のようだった顔から、嫉妬に狂う女の鬼のような顔に変化していくレヒーナ。

 その変化に少女は思わず「ひぃっ!」と声を上げるが、レヒーナは構わず次の作業へと移っていく。


 天井から吊り下がっているロープで、レヒーナが少女を手際よく縛って逆さ吊り状態にすると、今度は自身のまとっていた衣服を脱ぎ始める。

 そして服を全て脱ぎ全裸になったレヒーナは、衣服を部屋の隅にあった箱の中へと収納し、代わりに中から一本のショートソードを取り出す。


「ンンンゥゥッ!!」


 全裸でショートソードを手に近づいてくるレヒーナに、少女は呻き声をあげる。

 これまで以上に恐怖に表情を歪ませた少女は、逆さ吊りの状態のまま失禁してしまう。


 それはレヒーナが手にしていたショートソードの刀身に、鈍い赤色の汚れが付着していたのを見てしまったからだった。

 そして、木製の館の木製の床がどす黒く変色していることの理由、自分が吊り下げられていることの意味を、少女は理解してしまった。


「さあ、お前の若さを私に寄越せ」


 鬼女のような形相でレヒーナは手にしたショートソードを振り回し、吊るされた少女の首を、腹部を、脚部を、そして最後に心臓に剣を突き刺し、その体に少女の血を浴びていく。

 まるで化粧品を塗り付けるかのように、少女のまだ生暖かい血を自分の体の隅々にまで塗り込んでいくレヒーナ。


 先ほどまでの鬼女のような形相とは違い、血を浴びているレヒーナの顔はどこか恍惚としている。


「アルザスを落とせば大量に生娘を入手できる……。これは久々にブラッディバス(血まみれ風呂)が楽しめるわ」


 その時のことを想像したのか、愉悦の表情を浮かべるレヒーナ。


 このように、まだ本格的な戦いは始まっていないというのに、貴族派の野営地では惨たらしい行為が幾つか行われていた。

 それは何も貴族達のいる場所だけでなく、別の場所でも起こっている。






 冒険者や傭兵が寝泊まりする場所では、頻繁に喧嘩や殺傷沙汰が発生していた。

 基本的には血の気のある連中がぶつかり合った結果であり、死者が出ることはあっても貴族達のような惨たらしい行為は発生していない。


 しかし冒険者たちのまとめ役であり、戦の際には隊長を務めるこの男――シルヴァーノの行いは、貴族のそれとなんら変わりなかった。


「もう一度、言ってみろ」


「ゴホッ、ハアッ……ハァァ……」


 シルヴァーノの前では、一人の獣人族の男が満身創痍で片膝立ちしていた。

 その体には切り傷は見当たらないものの、あちこちに痣が出来ており、見た目では分からないものの骨が何本も折られている。


「聞こえなかったのか? もう一度最初のセリフを吐いてみろと言っている」


 再度シルヴァーノが男に言い放つが、獣人の男はすでにまともに口を利ける状態でもなかった。

 この獣人の男はCランクであり、"格闘術"をメインにしていた。

 しかし、剣が専門であるシルヴァーノに素手でボコボコにされており、命の灯も消えかけている。


 ただの喧嘩やそこからの殺し合いに派生したとしても、荒くれものが多いこの場では無責任なヤジが飛び交うだけで、まともな軍紀を期待できない。

 だというのに、周囲の野次馬は今だけは静かにそのリンチの様子を見ている。


 獣人の男はこれまでに五度、生死の境をさまようダメージをシルヴァーノによって負わされ、その都度シルヴァーノに命令された神官によって治癒魔法を受けさせられていた。

 出来るだけ相手に苦痛を与えるようなダメージの与え方をし、ギリギリになったら回復させる。


 シルヴァーノの"鑑定"では相手のHPを見ることはできないが、これまで何度も似たようなことをやって来たので、死なない所のギリギリを攻めるのはお手の物だった。

 そもそも獣人の男がこのような目に遭っているのは、最初の一言が原因だった。



『昔馴染みの冒険者から聞いたんだけどよ、あのいけ好かない指揮官様は新しく出来たダンジョンの町から涙流して逃げ帰ったみてーだぜ? 顔を半分隠してるのもそん時負った火傷の痕って話だ。俺らを散々見下してるくせに、ざまあねぇぜ』



 その言葉は、そう遠くない場所にいたシルヴァーノの耳に届いてしまっていた。

 そしてシルヴァーノは、男の話に笑って返していた周りの連中をまず先に片っ端から半殺しにしていった。


 Aランク冒険者の能力を遺憾なく発揮したシルヴァーノに、さしものあらくれ者たちも言葉が出ない。

 下手に茶々を入れた奴は、すかさずシルヴァーノの制裁が加えられていく。

 見ているだけしか出来なくなった野次馬に満足したのか、それからはひたすら公開処刑のように獣人の男が嬲られていた。


「口が利けないのか? まあ、所詮獣は獣。人間様の言葉は理解できないということだな」


 シルヴァーノの言葉に周囲にいた獣人が気色ばむが、前に出てくる者は一人もいない。


「もう、いい。お前の相手は飽きた。さっさと死ね」


 壊れた玩具に興味をなくしたかのように、シルヴァーノはこれまで抜くことのなかった剣を腰から引き抜くと、無造作に振り下ろす。



 ガイイイィィィンッ……。



 しかしその剣は獣人の男を切り裂くことなく、途中に挟み込まれた剣によって防がれてしまう。


「シルヴァーノ、そこまでだ」


「ヨーリス、ボートッ……!」


 両者の間に割り込んできたのは、第二軍団副団長であるヨーリス・ボートだった。

 冒険者が見境なく暴れまわっていると聞き、急いで駆けつけたヨーリス。

 シルヴァーノとはかつて剣闘大会で戦ったことがあり、その時はシルヴァーノを破っている。


「本格的な戦闘を前に、無駄に戦力を損なう真似は許さん」


「…………」


 しばし睨み合う二人。、

 シルヴァーノがヨーリスに敗れたのは三年程前の話だ。今では自分の方が強いとシルヴァーノは思っていたが、ここでやり合うのがマズイという判断を下せるくらいの冷静さは残っていた。


「……チッ」


 結局シルヴァーノは舌打ちを一つすると、踵を返して去っていく。

 油断せずにその背を見送りながら、ヨーリスは神官に獣人の男の治癒を頼む。

 これによって獣人の男は一命をとりとめることができた。

 

「あのような男が冒険者達の隊長とは……。この度の戦、一体どれほどの血が流されることになるのだろうか……」


 一人小さく呟くヨーリスだが、彼自身はどのような命であっても従う覚悟でいた。

 平民出身であった彼は、剣の腕一本で今の地位にまで上り詰め、これまで王国より破格の待遇を受けている。


 嫁をもらい、子供を設け、その子も王立学園に入れることができた。

 それらの恩に報いる為にも、彼はその力を示さなければならない。

 貴族派が流している噂のように、キリル王子らが弑逆の罪を犯した大罪人であるかどうかの判別はヨーリスにはつかない。


 しかし、今王都を押さえ、そして王宮に残っている王族は第五王子のスラヴォミールだけだ。

 である以上、例え内心では戦いたくないと思っていても、第五王子を支える貴族派の為に動かなければいけない。

 少なくともヨーリスはそう思い込んでいる。


「雨……か」


 まるでヨーリスの心情を現わすかのように、冷たい雨がポツポツと降り始める。

 その雨は翌日も降り続けることとなり、雨が止んだ二日後にはアルザスの城壁が目と鼻の先の位置の所まで討伐軍が迫る。


 そして――アルザス攻防戦が始まったのだった。



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