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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十六章

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第452話 束の間の平穏


 キリルらが《ジャガー町》へとたどり着き、慶介がダンジョンから一人脱出した頃には、すでに町の人にも現在のロディニア王国の状況が知れ渡るようになっていた。


 貴族派らはキリル王子らが王を弑逆したと主張し、大規模な軍事行動を起こす。

 これによって、第一王子であるエミリオ・リカルドソン・ド・ロディニアは討たれ、宮廷魔術師の第一席にあった王家派のゲラシム・ファトクーリンも亡き者となった。


 第一軍団長のアンブロスシウス・ファルンバリは、副団長のリニュス・リーフェフットの追手から辛くも逃れ、現在行方不明となっている。

 こうした一連の結果、王都をはじめとした主要な場所、人物などは貴族派の手に落ちてしまう。


 それら貴族派の暴虐非道な行いに対し、王家派はほぼ事実に則った反論を主張しながら、こちらも戦の準備に追われている。

 そして少しでも戦力を糾合する為に、キリル王子らがグリーク領に避難したことを報せ、少しでも兵を集めようと四苦八苦していた。


 まるで国中がひっくり返ったかのような騒動は、なかなか収まる様子が見えない。

 《ジャガー町》でも幾許かの住民が町を出ていったが、大多数の住民に行く当てはない。

 覚悟を決めた、という訳でもないのだが、そういった理由で結局は少しするといつもの生活に戻っていく。


 無論財産をどこかに隠したり、いざという時の避難場所を決めておいたりして、対策は行っている。

 しかしそれらをやり終えると、あとは時が来るまでは生活の為に働かなければならないのだ。




 一方身軽な冒険者たちの反応は様々だ。

 国外からやってきたような冒険者たちは、信也らの説得も虚しく一時的に国外へ退避するような連中も多い。


 それとどこから広まったのか、貴族派の方が戦力が大きいことも知れ渡っていて、貴族派の領地に逃げるという冒険者もいる。

 アウラも出来るだけ冒険者を確保しようと策を講じてはいたのだが、それでも冒険者の流出を抑えることはできなかった。



「マシモス、あなた達が残ってくれて助かるわ」


「ヘヘッ、あっしらはこの町を愛してるんでさあ。それに今回攻めてくるってお貴族様方の評判は何度も聞いておりやす。あんな連中にこの町を奪われたら、それこそどうなるか分かったもんじゃねえ」


 咲良が話しているのは、『マッスルファイターズ』のリーダーであるマシモスだ。

 彼らはアウラから護衛の依頼を受けたり、悪魔討伐の際にも参加したりして、これまで異邦人との接点もそれなりにあった。

 特にその中でも咲良は彼らと仲が良く、町で見かけるたびに世間話をするような関係だ。


「そうね。あの肥えた豚達がここを支配したら、ダンジョンにまともに潜れなくなるでしょうしね」


 咲良は敢えて大きな声でマシモスと話をする。

 ギルド内ではそんな二人の会話に耳を傾けている者もいた。


「奴らの領内での横暴ぶりからすると、この町が襲われたらどんだけの人が虐殺されるやら……」


 国外からきた冒険者といえど、この町で暮らしていく内にそれなりに親しい人も出来ている。

 そこを突いて、同士を募ろうと必死な咲良。

 

 なお現在はまだダンジョンへの出入りは規制されていないが、実際に兵が動くような事態になったら、アウラの命によって出入りが規制されることがすでに伝えられている。


「嬢ちゃん、今のはどういった訳なんだ?」


 咲良のサクラが功を奏したのか、一人の冒険者が咲良に話しかけてくる。


「あら、もしかして国外から来たの? ロディニアの人ならどこかで耳にするような話なんだけどね……」


 そう言って貴族派に対する印象操作をしていく咲良。

 とはいっても、言っていることは事実なので印象操作というより事実情報の拡散と言える。


 咲良をはじめ、他のメンバーも似たような活動を行って少しでも戦力を確保しようと動いている。

 また咲良は持ち前の魔力と"土魔法"を活かし、《ジャガー町》の街壁の建設を手伝ったりと大忙しだ。




 そんな中、拠点では慶介がリタに魔法を教えていた。

 慶介の場合子供ということもあるが、実際に今は他の大人の『ジャガーノート』の面々でも出来ることがそれほどない。

 やれることはすでにやっているし、後は己を鍛える位しかやることがない状態だ。


「素晴らしいです! ケースケ様は私と同じ年齢なのに、上級の"水魔法"を使えるのですね!」


「い、いやあ……。僕らはただずっとダンジョンに潜ってただけだから……。リタが習ってたっていう魔法理論とか、そういうのも全然僕は知らないし」


「だからこそより凄いと思いますわ。理論もなしに、実戦だけでそこまでの領域に達せられたのですから」


 魔法理論等については、北条が一時期興味を覚えてライオットらに尋ねていた時期があった。

 しかし、冒険者として実戦的な魔法を求めていた北条は、幾つか要点や参考になりそうな場所だけを学んだ後は、以降はまた独自で魔法の研究を行っている。

 それは咲良や慶介なども同様で、他の魔術士とあーだこーだ言いながら魔法の腕を磨いていた。


「そうなのですね。私ももっと考え方を柔軟に持った方が良さそうです」


 そうした慶介の魔法への取り組みを語ると、リタは目をキラキラとさせて何度も頷く。

 彼女は普段は大人しい性格であるのだが、魔法のことになると饒舌になる傾向にあった。

 それに加え今は慶介と接しているせいで、テンションがさらに高まってしまっている。


「僕みたいに魔物と戦う方向に進むなら、やっぱり実戦で磨いた方がいいと思う。でも、リタは王女様なんだからそんな無理をしなくてもいいと思うけどなぁ……」


「いいえ、確かに以前でしたらそうだったのかもしれませんが、今の状況ではそうも言っていられません」


「……そっか。なら実戦あるのみだね。うちには水属性以外の攻撃用の魔法道具もあるから、それで他の属性魔法を取得してみようか。きっとリタの力になってくれると思うよ」


「はい! 頑張りますわ!」


 元気よく返事すると、場所を移し魔法練習場の的に向かって魔法道具を使用し始めるリタ。

 それを近くで慶介が優しく見守っている。




 そうした光景を、少し離れた場所にある休憩場所で遠目に見ている影があった。


「リタの奴、すっかりケースケのことが気に入ったみたいだな」


 これまで双子の兄にべったりくっついていることが多かったリタ。

 それが手のひらを返したかのように慶介にベタベタしているのを見て、エルランドは少し複雑そうな顔をする。

 そこには単に寂しいというだけでなく、自分以外にあの笑顔を見せる相手ができたことへの嬉しさもあった。


「慶介君……、やっぱり若い子の方がいいのね……」


 その隣ではジトっとした湿った目で二人を見つめる陽子の姿があった。


「なんだよオバさん。いい感じの二人じゃないか?」


「……今はその呼び方に突っ込む気もしないわ」


「元気ないなあ。なら僕と訓練でもして汗を流そうぜ。動いてれば嫌なことも忘れられるって!」


「はぁ……。そうね、じゃあ憂さ晴らしでもさせてもらおうかしら」


「え? 何だって?」


 エルランドは陽子の言葉を最後まできちんと聞き取れなかったようだが、陽子は構わず木製の短剣を手にする。

 陽子は後衛ではあるが、万が一の時の為に"護身術"と"短剣術"も取得していた。

 まだヒヨッ子のエルランド相手なら、例え武器のリーチ差で不利だろうと十分陽子でも手玉に取ることはできる。


「じゃあ、いくわよ」


「お、おう!」


 魔法練習場のすぐ隣にある広場で、陽子とエルランドの実戦形式の訓練が始まる。

 そしてエルランドが降参するまでみっちりとしごいていく陽子。

 はじめの内はそうでもなかったが、やり始めると陽子も熱が出てくる。


「……こういうタイプの子もいいかも?」


「なぁぁ!?」


 小さく呟いただけなので本人(陽子)以外にその声は届いていなかったのだが、途端に背筋が冷たくなるのを感じるエルランド。


「ちょ、待った……。はぁ、ここら辺で一休みしようぜ」


 ふと気づけば、周囲には他にも訓練をしてる人が増えている。

 皆が皆、エルランド同様に訓練に熱が入っているようで、休憩中はその訓練風景を見るだけでも参考になるだろう。


「そうね、じゃあお茶でも出すわ」


 そう言って陽子は、"アイテムボックス"からティーセットを取り出す。


 彼らを取り巻く環境は大きく動きだしてはいたが、今のところ直接的に彼らがそれに巻き込まれる事態に陥ってはいない。

 そうした日々は思いのほかしばらく続く。


 情報は随時『メッサーナ商会』やアウラを経由して『ジャガーノート』にも届けられていて、すでに貴族派の連合軍が進発したとの情報も入っていた。

 かなりの人数が集められているという情報もあり、少しだけ薄れていた緊張感が再び高まっていく。





 そんなある日の事。

 彼らの下に緊急の情報が届けられた。


 ――グリーク領第二の都市アルザス、陥落。


 その情報はある程度予想できていたことだとはいえ、拠点のメンバーに大きな衝撃を齎すことになるのだった。



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