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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十六章

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閑話 キリル・アルムグレン・ド・ロディニア


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 少し時を遡り、キリルらが《鉱山都市グリーク》を出て《ジャガー町》に向かってから、二日が経過した頃。


 両地点を結ぶ直通の街道はまだ完成しておらず、今も作業員が急ピッチで作業を行っている。

 その作業風景を横目に見ながら、キリルはつい物思いに耽ってしまう。


(彼らも内乱が始まれば作業どころじゃなくなるだろうな……)


 自分が大分ナーバスになっているのを感じながら、それを抑えることができないでいるキリル。

 逆に弟であるエルランドは大好きな兄と一緒に過ごせることが嬉しいのか、しきりにキリルに話しかけている。

 普段は大人しい性格であるリタも、キリルには心を開いていてエルランド同様に彼を慕っている。


 しかしそんな二人の様子を見ると、キリルの心は痛みを覚えてしまう。

 兄に対してそういった態度を取るのは全然問題はない。

 しかし本来一番愛情を向けるべきであろう親――この場合は母親に対してそうした愛情を向けられていないことが、キリルには残念でならない。


(母上……)


 キリルやエルランド、リタ兄妹の実の母であるヴァシリーサは、今も王都に残っている。

 そしてキリルらの末の弟であるスラヴォミールを次期王位継承者として擁立し、キリルらを追い詰めている大きな要因ともなっていた。


(この二人にとっては冷血な母としか映っていないんだろうけど、俺にとっては……。少なくとも俺が子供だった頃は、母は俺にも優しく接してくれていた)


 しかしそれがある時から徐々に歯車が狂うかのように、キリルへ向けるヴァシリーサの視線が冷たくなっていった。

 その当時ヴァシリーサは妊娠中であり、出産を間近に控えていた。

 キリルも新しく出来る弟か妹の誕生を、心待ちにしていたのをよく覚えている。


(だが、母上が変わり始めたのはその辺りからだった……)



 キリルが待ち望んでいた弟妹は、結局死産したことによって次にエルランドら双子が生まれるまで伸びることとなる。

 そしてそれ(死産)以来、ヴァシリーサは徐々に変化を遂げていった。


(最初は子を失ったことが原因だと思っていた。……だが、数年後に俺が母の変容について調べ始めてから、一つの情報が浮かびあがってきた)


 それは、当時母ヴァシリーサの下に貴族派の貴族が度々接触していたという情報だった。

 ヴァシリーサは側室ではあるが、王の妃であり、本来は王家派に属する人物だ。


 しかし貴族派は、ヴァシリーサの実家である中立派の伯爵家からまず取り込みを始め、そこからヴァシリーサ本人にまでツテを伸ばして接触を取るようになっていた。

 後にそのことを知ったキリルは、母の変容の原因が彼ら貴族派の貴族であると確信する。


 調べていく内に色々ときな臭い情報が集まっていたからだ。

 そもそも死産とだけ聞いている、あの時宿していた赤ん坊のことも疑うべき点が多い。


 予定より一週間ばかり早かったとはいえ、早産と呼べる時期でもなく、それまでの母体の様子からは問題は見られなかった。

 勿論それだけで判別できるものではないのだが、側室の子だけあって優秀な"神聖魔法"の使い手や助産婦なども付いている。


 しかしそれら出産に関わった者達の内、城に常駐していなかった"神聖魔法"の使い手を除く助産婦らが全員、出産後すぐに王宮から姿を消していた。

 その後の行方を辿ってもまったく足が掴めず、まるで消されて(・・・・)しまったかのようだった。


(あの時きっと、口にするのも悍ましいような何かが行われていたことは間違いない。そして、それが原因で母上は……)



 それ以来、キリルは裏でこの事件の真相や貴族派の貴族達について調べ続けていた。

 今の貴族派優勢な現状では、それを知った所でどうこう出来る可能性は低い。

 しかし一人か二人は道連れにでもして亡き者にしてやるッ……。

 庶民と普段接している時のフランクな様子とは違い、裏ではそのような暗い決意を持ってキリルはこれまで過ごしてきた。


 そんな折、キリルの下に新しい情報が伝わってくる。

 それは、前々からキリルがマークしていた貴族派の貴族達が、裏で悪魔と繋がっていたというものだった。


 そしてキリルは悪魔が化けていたという司祭に、幼少の頃に出会っていたことがあった。

 それも王宮という、この国の中枢部においてだ。


(平民らと接し、この国がいかに危険な状態であるかは知っていたつもりだったが、あのような悪魔がのさ晴らしにされていたとは当時思いもしなかった……)


 この国の過半数を占める貴族派のやり方では、近い将来各地で民衆の反乱が起こることは想定できた。

 だがそれ以前に致命的な病を、王国は既に抱えていたのだ。


(あの悪魔は十中八九、母の変容にも関わっている。そして奴はこの先にある町で、冒険者らの手によって討ち取られた。俺が直接手を出せなかったのは無念だが、それでも彼ら冒険者――特に悪魔と一騎打ちで打ち勝ったという男には礼を言わないと気が済まない)


 キリルが《ジャガー町》へ赴くことに賛成したのも、このことが大きな理由だった。

 そして心の中では自分とアルノルトが分かれることで、万が一の事態にも備えられるという考えもあった。


 キリル自身は王の座に就くつもりはないのだが、二手に分かれておけばアーガスが敗れたとしても貴族派の追求から逃れやすくなる。

 それに同じ側室の子であるエルランドらのことも心配であり、キリルは兄として側にいてあげたかった。



「キリル兄、《ジャガー町》はどんな所なのかな?」


 今自分達が置かれている状況が理解出来ていないのか。

 或いは理解してなおそのように振舞っているのか。

 エルランドは明るい声でキリルに尋ねる。


「近くで大規模なダンジョンが発見されたそうだからな。きっと冒険者が一杯集まっているんだろう」


「ふううん、冒険者かあ。僕もキリル兄に鍛えてもらってるし、冒険者になれるかな?」


「ははは、そうだなあ。冒険者になるなら他にも色々学んでおかないとな」


 無邪気で子供らしいことを尋ねてくる弟に、キリルも先ほどまで考えていた暗いことが吹き飛んでいく。

 そうして三日程かけて、キリルらは《ジャガー町》へと到着した。






▽△▽△▽




「なんと、これは!」


 《ジャガー町》に到着したキリルらは、早速この町の代官であるアウラの館へと訪れ、しばらくはそこで逗留することとなった。

 初日はアウラ達と話をして過ごしたが、翌日になってからキリルはアーガスから聞いていた町の外れにある拠点を訪ねていた。


「この壁からは……うううん、いえ。壁以外のあちこちからも魔力を感じます」


「ということは、アーガス卿の言っていた魔法壁(マジックウォール)で覆われた砦というのは間違いではなかったということか……」


 双子の兄妹であるエルランドとリタは、兄のエルランドがキリルから剣を習い、リタは宮廷魔術師から魔法を習っていた。

 その甲斐もあってリタは初級の"水魔法"を使用することができ、また"魔力感知"のスキルも覚えている。


 外壁からして王族であるキリルらを驚愕させるものであったが、拠点内部に入ると更にその驚きは積み重なっていく。


「あれは……何だ?」


「うおおおおお、すっげえでっかい!」


 訳の分からない水を吹き出す巨大な構造物に、キリルは茫然とそれを見上げ、エルランドのテンションは上がっていく。

 キリルも謎の巨大オブジェのことはともかく、守りの堅そうな砦を前に、ここなら身の守りも心配なさそうだとホッと胸を撫でおろす。

 だがキリルの目的の一つであった、悪魔を討ち取ったという男――北条が今拠点にいないという話を聞き、残念に思っていた。




 それから数日の間。

 この拠点には王族であるキリルらも驚くような、しっかりとした設備が整った入浴施設があると聞き、エルランドらと共に訪ねていた。

 エルランドはジックリ湯舟に浸かることを好んでいなかったが、キリルは殊の外入浴を気に入ったので、護衛役のエスティルーナも連れてよく訪れていた。


 そんなある日の事。

 こっそりと館を抜け出して、エルランドとリタが森に向かったという話を聞いたキリルは、一路拠点へと向かっていた。


 そこで『ジャガーノート』の面々に頼んで森を捜索してもらった所、一人森を駆けてくるエルランドを発見。

 その後は気を失っていた慶介とリタを連れ、拠点へと戻ることになる。


 それから慶介との情報交換を終え、アウラの館へと戻ったキリル。

 その一連の出来事について、キリルはアウラにもその時の話を聞かせていた。



「なるほど、そのようなことがあったのですね」


 キリルはもう少し柔らかい口調でいいと言っているのだが、アウラはその性格からどうしても硬い口調が抜けきらない。


「ああ。まさかまたもや悪魔と戦っていて、しかもほぼ単独で倒してしまうとは、ホージョーという男は只者ではないようだな」


「そうであろう、そうであろう! ……あ、これは失礼した。その、ホージョーは父も認める実力者なので……な」


「ハハッ、アウラ殿は大分ホージョーに入れ込んでるようですな」


「い、いやっ? そのようなことは……。我がグリーク領では、その、武人が尊ばれるものでして……」


 キリルもそこまで深い意味を込めての発言ではなかったのだが、アウラが予想以上の反応を見せたことで事情を察する。

 そのことに更に触れるかどうかキリルが迷っていると、横からは慌てているアウラとは正反対の冷静な声が掛けられる。


「やはりあの男は只者ではなかったようだ。どうやらゼンダーソンともそれなり以上にやり合えたようだからな」


「そういえばそのような話をしていたね。ゼンダーソンというのは有名な人なのか?」


 キリルは王族としての教育を受けつつも、庶民とも幅広く接しているので知識の幅は広い。

 しかしゼンダーソンについての情報は持っていなかった。


「ゼンダーソンは『ユーラブリカ王国』を根城にしている、Sランク冒険者だ」


「……なに? Sランク冒険者だって!?」


「そういえば一時期、我が町にSランク冒険者が来ていると話題になっていたな」


 アウラもマデリーネから少し話を聞いてはいたが、マデリーネとアリッサも結局ゼンダーソンらとは殆ど接点がなかったので、詳しい話は聞けていない。


「つまり、ホージョーという男はSランク級の実力があるという……ことか?」


「聞くところによると、ホージョーやその仲間達の成長速度は目を見張るものがあるそうだ。恐らく今のホージョーは、私が手合わせした頃よりも更に強くなっているのだろう」


 その辺の情報を、エスティルーナは《鉱山都市グリーク》のギルマスであるゴールドルから聞いていた。

 北条だけでなく、他の面々もレベルの上がり方が異様に早いという。

 普通はどこかで『成長の壁』という、レベルが上がりにくくなる時期というのが出てくるものなのだが、彼らにはまったくその様子が見られない。


「そうか……。Sランク……か」


 正直今の状況は大分劣勢であるとキリルは認識していた。

 しかしそこに降って湧いたかのような、強者の情報。

 キリルは小さく呟きながら、思わず天を仰ぐのだった。



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