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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十六章

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第438話 最後の晩餐


 この場に留まると言ったロドリゴに、キリルは更に説得の言葉を投げかける。

 しかし、キリルの表情からは諦観の色が窺えた。

 それは、父ロドリゴの決意の強さを感じ取ってしまったからだ。


「今ならばまだ、父上と共に脱出することも叶いましょう。しかし、逆を言えば今を逃すと包囲の手が更に伸びることとなります」


「なればこそだ。余が残ることで、其方らへの関心を逸らすことも出来よう。それに余はこのロディニアの王なのだ。それがおめおめと玉座を明け渡す訳にはいかぬ。それもあのような反乱者たち相手となれば猶更だ」


「……承知、致しました。父上の……いえ、王としての至高なるその決意。息子として誇らしく思います」


 キリルの言葉に軽く肩をすくめ、自嘲気味にロドリゴが笑みを返す。


「結果としてはこの様だがな。……ところでエミリオのことなのだが」


「恐らく兄上は……」


 ハッキリと問い掛けた訳ではないが、ロドリゴの意図を察してキリルが答える。

 キリルの兄であるエミリオは、正室との間に生まれた第一王子であり、次代の王となる王太子でもある。


 今は第二軍団の副軍団長として、《交易都市カーン》に派遣されていた。

 しかし、《交易都市カーン》は今回の反乱の首謀者の一人であるロージアン公爵領の領都であり、敵の手の中といっても過言ではない。


「……奴からエミリオを派遣するのはどうか? という提案があったのが半年ほど前。その頃からこの事態を想定していたということか」


「恐らくは……」


 全ての騎士、全ての兵士がロージアン公爵に従うことはないだろうが、それでも公爵領内では公爵の権勢は強い。

 敵陣ど真ん中に立たされたエミリオは良くて幽閉、普通に考えれば命を奪われるのが目に見えている。


「分かった。では後の事(王位)はキリル、お前に任せる」


「お言葉ですが父上。私より適任の者がいるかと存じます」


「……アルノルトのことか?」


「左様です。私と違い、正室のネリス様の血を引くアルノルトこそ、次代の王に相応しいかと」


「しかしアルはまだ若く、ネリスの血を受け継いで優しい性格をしておる。王としての責務に耐えられるかどうか……」


「アルならば、きっとそうした試練を乗り越えてくれると私は信じております。それに、何もアル一人に負わせるのではなく、私や他の忠臣が重い荷を分担して支えて行くことでしょう」


「……そうか。ならば、ロディニア王国第十六代国王、ロドリゴ・リカルドソン・デア・ロディニアの名に於いて、勅令を言い渡す。これより、第二王位継承権の座を、キリル・アルムグレン・ド・ロディニアからアルノルト・リカルドソン・ド・ロディニアへと移譲する!」


 この場にはロドリゴとキリルの二人しかいないが、ロドリゴが王としての立場で勅令を出した以上、それがどのような場であっても優先的に処理される。


「また、第一王位継承権を持つエミリオ・リカルドソン・ド・ロディニアが死亡、ないしはエミリオ自身の意思が確認出来ないと判断された場合、特例として王位継承権を無効化し、繰り上げてアルノルト・リカルドソン・ド・ロディニアへと第一王位継承権を移譲することとする!」


「ハッ! 陛下の勅令、確と承りました!」


 父の、恐らくは最後になるであろう命令に、キリルは歯を食いしばりながら返事をする。




「して、この後の手筈はどうなっているのだ?」


「ハッ、今日は久々に家族揃っての会食が予定されております。その際にこのことを打ち明け、城の隠し通路を抜けて即座に王都を出ることになっております」


「脱出に際して抜かりはないか?」


「それに関しましては『メッサーナ商会』の後押しもありますので、問題はないかと。Aランク冒険者の一人も護衛に就くようです」


 現役のSランク冒険者が四名しかいない以上、Aランク冒険者といえば実質最高位といっても過言ではない。

 そのような者が護衛に就くということで、ロドリゴも安心した表情を浮かべる。


「そうか。それで脱出した後はどうするのだ?」


「グリーク辺境伯を頼ろうかと……」


「なるほど。ベネティス辺境伯はまず間違いなく敵側であろうが、王都から北へと向かい、ウォルシー湖を経由する形で回り込めば、グリーク領までたどり着くこともできよう」


 ウォルシー湖とは、『ロディニア王国』の中心部に位置する大きな湖のことだ。

 この辺りには、かつて王国が建国される以前からこの地に定住していたロンタオ人が多く暮らしている。


 彼らロンタオ人と王国人の祖先は、大きく争うこともなく共に暮らしていくことになったのだが、今ではその関係性も大分変化してきていた。

 彼らは権力を手にした貴族が王国各地で好き勝手やっていることを良しとせず、王国がかつての秩序ある状態に戻ることを願っている。

 それはロンタオ人が王家派閥であることを意味しており、今回の脱出ルートとしては適切なルートだろう。



「では父上。私はこれより下準備を整えて参ります」


「うむ。下手に動いて感づかれぬようにな」


「ハッ! 心得ております」


 最後に一礼をして部屋を出ていくキリル。

 その背を見送ったロドリゴは、一つ大きく息を吐くと静かに瞳を閉じる。

 過去に想いを馳せると、浮かび上がってくるのはこれまでの権威を失った王としての毎日と、家族としての息子や娘と暮らした日々のこと。

 次々と思い浮かぶそれらの記憶は、まるで泡が弾けるように次々と消えていく。


「キリル……アルノルト……。せめて、我が子らが無事であらんことを」


 一人残された王の私室で、ロドリゴは小さく祈りを捧げるのだった。






▽△▽△▽




「…………」


 

 横長の大きなテーブルの上には豪勢な食事が並んでいる。

 そのテーブルの脇には幾つも椅子が設置されているが、その十分の一ほどしか席は埋まっておらず、残りは空席だ。


 食事のマナーについて、このロディニア王国では食事中の会話については、特にマナー違反であるとはされていない。

 実際に、普段の食事の時には会話が交わされることもある。

 しかし、今は誰もがその口を閉ざし、食事にも碌に手を付けられていない状態だ。


「お父様……」


 普段はお転婆な第三王女のアリーナも、状況を知らされた今、いつもの快活さが鳴りを潜めている。

 それは他の兄妹たちも同様で、皆一様に暗い顔をしていた。


 現在この会食の場は、使用人や護衛などが全て部屋の外で待機してもらっており、完全に家族団らんの場となっている。

 しかし、王都にいる家族全員が参加している訳ではなかった。


 ロドリゴ王の側室であるヴァシリーサ・アルムグレン・ル・ロディニアと、その子であるスラヴォミール・ヴァシリーサ・アルムグレン・ド・ロディニアの姿だけはこの場に存在しない。


 この二人が場にいないのは、何も予定が噛み合わなかったからではない。

 そもそも陣営そのものが噛み合わなかったからであった。

 その件に関しても、すでにこの場にいる全員は理解している。

 つまり、この二人がロージアン公爵らによって懐柔されている、ということにだ。


 この場に集まっているのは、王であるロドリゴと正室であるネリス。

 そして、第二王子キリルに第三王子のアルノルト。

 それから第三王女のアリーナに、双子の第四王子エルランド、第四王女リタの計七人だ。


 しかし、その七人の誰もが口を開こうとしない。

 少しして、この重い空気に耐えかねたのか、アルノルトが口を開く。


「父上の決意は変わらないのですね?」


「ああ」


「私もロディと共にここに残るつもりです」


「母上ッ!」


 母の言葉を聞いて、思わずアルノルトは声を荒げてしまう。

 息子を慈愛の目で見つめるネリスは、すでに覚悟の決まった表情をしていた。

 そのような母の顔を見て、アルノルトは次に続けようとした言葉がのどに詰まったように出てこない。


「お前達、そのような暗い顔をするでない。最後の晩餐くらい、楽しく過ごそうではないか」


 ロドリゴがそう呼びかけるも、とてもではないがそのような楽しい雰囲気になどなりそうにない。

 そこでロドリゴは、この最後の晩餐に家族への最期の言葉を残すことにする。



「キリル。お前には色々と苦労をかけたな。余もアレ(側妃)のことはどうにかしようと思っていたのだが、結局はこのような結果となってしまった。これからも苦労をさせることになるであろうが、どうか今後はアルノルトのことを支えてやってくれ」


「……勿論です、父上」


 キリルの両肩は震えており、まっすぐ父の目を見ることもできず、俯いたまま短く答える。

 必死に感情を堪えようとしているのが誰の目にも明らかだ。


 その後も、ロドリゴから子供たちへと贈る言葉は続き、しんみりとしたムードが広がっていく。

 そして、結局全員が碌に食事に手を付けることもなく、その日の会食は終わりを告げた。



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