第425話 はぐれ悪魔
ヴェナンド、ファエルモの二人と秘密厳守の契約を行い、ようやく胸襟を開いての話し合いを始める両者。
初めに改めての両者自己紹介をした後の最初の話題は、なんといっても次の階層の魔物についてだ。
ファエルモは「魔物」としか言っていなかったが、次の階層は丁度四十層にあたる。
三十層で領域守護者と既に遭遇してる北条達は、四十層にも領域守護者がいる可能性を初めから頭に入れていた。
おまけに、Bランク二人を含むパーティーが壊滅状態にまでされたとなれば、ますますその線も強まる。
「薄々察してるとは思うんだけどさ。次の階層には領域守護者が待ち構えていてね。ボクらも三十層でシーサーペントと戦っていたからさ。四十層に向かう際は十分準備をしてから向かったんだ」
「そうかぁ。そちらも三十層ではシーサーペントが出たのかぁ」
「あ、そうだね。ってことはホージョー達も同じか。出現する魔物は固定なのかもしれないね」
「ボス候補が複数いたとしても、私達は逃げ帰ってきたのだから、奴は未だに次の階層で待ち構えているだろう」
「もったいぶってねーで、さっさと教えてくれよ。どんな奴だったんだ?」
「……巨大な、とても巨大なサンドワームだったよ」
「サンドワーム!?」
ヴェナンドの言葉に北条とカタリナは反応を示しているが、龍之介はいまいちピンとは来ていないらしい。
メアリーについては、最初からその手の知識に詳しくはないのでおかしくはないが、龍之介が知らなかったのは少し意外でもあった。
「系統としてはマイナーワームやストーンイーターと同じなんだがぁ……。まあ、どでかいミミズって所だなぁ。砂中に潜んでいて、急に襲い掛かって来る……Bランクの魔物だぁ」
「Bランク!?」
「領域守護者がBランクということですか……」
すでにこの階層に来る途中でSランク級の悪魔と戦ってはいた『サムライトラベラーズ』だが、ボス系のBランクとなるとまだ一回しか戦ったことはない。
それも、相手は配下の魔物を召喚してくるタイプだったせいか、ボス単体の能力はそこまで強くなかった。
北条が召喚した魔物を配下の魔物にぶつけることで、そこまで苦戦することなく倒すことができていたのだ。
「そういうことだ。私もサンドワームなどというのを見たのは初めてのことだったが、文献に記述されていた内容のものより、明らかにサイズが大きかった。あれはほぼ間違いなく領域守護者だったと思う」
「なるほど……ね。それで、サンドワームなんてのが出てきたってことは、もしかして次の階層って……」
「ああ、次の階層は辺り一面砂漠だった。ここも日差しは大分あるが、四十層はもっと厳しくなる。足元が砂だから前衛も戦いにくいし、あの炎天下で暴れるだけでも消耗が激しい」
「まあ、暑さに関してはヴェナンドの"付与魔法"で大分マシにはなるよ」
「ほおう。その魔法は俺も見たことがないかもしれん。俺にも暑さ対策はあるから、併用すれば影響はほぼ無くせそうだなぁ」
「ってことは、後はサンドワームをどうするかってとこね」
カタリナが軽い感じでそう言うと、ヴェナンドが渋い表情を浮かべる。
快活なファエルモですら、困った表情を隠しきれていない。
「サンドワームはぁ、俺の知識によれば種族的に土と砂による耐性を持ち、水属性が弱点になる。その他に、耐性スキルとして"火耐性"や"風耐性"などを持っているので、魔法で攻撃するならそれ以外の属性が有効だぁ」
北条は確かに"魔物知識"などのスキルも所持しているが、今言った内容の一部は自分で調べたり本で読んだりした内容などではなかった。
スキルの熟練度が上昇したことによって、どこからか情報がインストールでもされたかのように、突如埋め込まれた知識の一部だ。
「"水魔法"なら私が中級レベルで使える。あと奴に通じそうな魔法といえば"闇魔法"も使えるが……」
「ボクは見ての通り、ハンマーで戦うのと"神聖魔法"も使用できるよ。でも、流石にあの大きいのを相手にハンマーで殴っても、大したダメージにはならなそうだけどね」
「領域守護者なんてのは、元々タフな相手なんだから、少しずつでもダメージを与えられればいいんじゃないかぁ? ただまあ、ファエルモは無茶をせずに前衛寄りで戦うくらいでいいだろう。ヴェナンドは完全後衛組だなぁ」
「うむ、そうだな。そちらはリューノスケとメアリーが前衛、カエデが中衛で、ホージョーとカタリナが後衛ということでいいのか?」
最初の自己紹介の時の挨拶をしっかり覚えていたヴェナンドが、改めて確認のために北条に尋ねる。
「ああ。俺は前衛でもいけるがぁ、最近は後衛の方が多い」
「そうか。……ところで、今回の戦いと直接関係はしないかもしれんが、五人でフルメンバー……なのか?」
ファエルモもそのことは気になってはいたが、これまで口にして尋ねることはなかった。
ヴェナンドも、場合によっては相当ナーバスな話題になるのは分かっていたので、尋ねる口調も真剣そのものだ。
「いやぁ、元々は普通に六人パーティーだったぞぉ。だがここに来るまでの間に……」
「そ、そうか……。それは悪いことを聞いてしまった。疑問に思ったことを抑えきれないのが私の――」
「転移させられてしまってなぁ。今頃は《ジャガー町》に戻ってる頃だろう」
「悪いとこ――って、えっ……?」
「転移……? それってどういうことなの?」
ヴェナンドもファエルモも、突然飛び出たワードに目が点になっている。
北条はそんな二人の反応を見て、少し考えた後に簡単に経緯を説明する。
「実はここに来る途中……二十八層あたりだったかな。そこで悪魔と遭遇してしまってなぁ」
「悪魔ぁ!?」
「悪魔だってぇ!?」
見事に二人の声がハーモニーを奏でる。
息の合った所は、流石に同じパーティーにいただけのことはある。
「それでその悪魔は倒したんだがぁ、最後にそいつが"空間魔法"で仲間を転移させてしまってなぁ」
「"空間魔法"……悪魔…………」
「ただ偶然にも俺たちには仲間の動向を知る方法があったので、はぐれた仲間が無事に町まで戻ったことは分かっているという状況だ」
「悪魔って……。ボクらが全員揃っていたとしても、一番下位のやつにすら勝てるか分からないっていう奴らなんだけど……」
『シールド&マジック』は平均的にはCランクのパーティーだ。
ファエルモの言うように、その実力では悪魔と戦っても時間稼ぎが精一杯だ。
「幸い私達は、悪魔なんてものとは遭遇せずにここまで来れたが……。もしかしたら、お前達が出会ったのは"はぐれ悪魔"と呼ばれる奴かもしれん」
「はぐれ悪魔ぁ?」
「ああ、そうだ。ダンジョンの特定の場所で、極稀に出現することがあるとされる悪魔のことだ」
「そんなことがあんのか!」
ヴェナンドの説明に、龍之介が驚きの声を上げる。
「ああ。しかも性質の悪いことに、階層の深さは関係なく、入ってすぐの階層に出現することもあるらしい。ただ、フィールドタイプのエリアや、洞窟や迷宮タイプでも通路の途中に出ることはないらしい。出現するのは、必ず部屋状になっている場所だけだ」
「そーいやオレらが襲われたのも、そんな感じの場所だったな」
「あの時は切羽詰まっていて、ゆっくり辺りを観察してられなかったがぁ、入口もしっかり閉ざされていたからなぁ。悪魔が出現した後は逃げ道も塞がれるらしい」
「らしいな。だが、悪魔が出現する前には途轍もなく恐ろしい気配を感じるらしいから、その時点で部屋から逃げ出せば助かると聞くぞ」
「……私達、警戒しながらその場に居座り続けちゃったわね」
「その話を知っていたら、真っ先に逃げていたと思うんですが……」
あの時のことを思い出して、反省するメアリーとカタリナ。
「でもこの話を知っていたとしても、実際に遭遇したら適切に対応できるかは分からない。それにはぐれ悪魔は、総じて良いアイテムが入った宝箱をドロップすると言われているので、敢えて戦いを挑む奴もいる。まあ、大抵は返り討ちに遭ってるんだろうがな」
「ああ……。あれはそういうことだったのかぁ」
悪魔からドロップしたミスリル製の箱。
それははぐれ悪魔を倒したことによるご褒美のようなものだったらしい。
「って、それよりこの後どうすんだよ? すぐに次の階層に向かうのか?」
「そうだなぁ。役割はさっき言ったのでいいし、後はぶっつけ本番でいいだろう」
「そんな調子で大丈夫なのか? 確かに悪魔を倒したというのなら、それなりに腕は立つのだろうが……」
北条達は、最初の自己紹介の時に一緒に冒険者ランクも告げていたが、今の彼らは全員がCランクだ。
Bランクであるヴェナンドからすると、ランクだけ見れば頼りないものを感じてしまうのも無理はない。
「油断してる訳じゃねーけど、まあ大丈夫だろ。オッサンがいれば」
「すごい信頼してるんだね?」
「そりゃあ……まあ……。お前らも見れば分かるよ」
結局そこで話し合いは打ち切りにして、準備を整えた後に早速次の階層に向かうことになった一行。
一面の砂漠にサンドワームという巨大な魔物。
それとどう戦うかを頭の中に描きながら、北条たちは戦闘準備を始めるのだった。




