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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十五章

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第419話 地底湖


 不意な悪魔との戦闘の後は、皆どこか探索に集中出来ておらず、ちょっとしたミスなどがちょこちょこ起こっていた。

 それは日にちが経過していくごとに、少しずつ頻度が増していった。


 北条は定期的に、"ポジションキャプチャー"などのスキルで慶介の状態を確認しながら探索を続けている。

 向こうの状況は分からないが、【デリバリーボイス】で声を掛けることも忘れない。

 今のところは、慶介の生命反応はちゃんと返ってきているので、まだ生きていることは確かだ。



 そのような状態での探索が三日ほど続き、北条達は次の二十九層へとたどり着いた。

 そこは二十三層のような平原エリアではあったが、こちらは朝も夜もきちんとサイクルする階層だった。

 そしてその階層での最初の一夜が明け、次の日の探索に入ると、列の真ん中辺りを歩いていた北条が「あっ」と小さく呟いた。


「北条さん、どうしました?」


 慶介のことで神経を尖らせていたせいか、近くにいたメアリーがその小さな呟きを捉え、北条に尋ねた。


「……これ、は…………」


 明らかに何かあった時の反応だが、北条はメアリーの質問には答えず、口をパクパクとさせ始める。

 その動作が何を意味しているのかを知っているメアリーは、言葉を飲み込んで固唾と様子を見守る。

 そんな二人の様子に気づいた龍之介ら他のメンバーも、自然と二人の傍へ集まってくる。


「……………………」


「…………」


「………………」


 北条の【デリバリーボイス】はしばし続いていたが、それもようやく区切りがついたようだ。

 改めて周囲に集まった仲間に向けて、先ほどのやりとりについてを語り始めた。



「大丈夫だぁ。慶介は無事地上……ダンジョンの外へと脱出出来たぁ!」


「マジか!」


「……よかった。本当に良かったです……」


「それは目出度いことなんだけど、確信はあるの?」


「ああ。まず俺は"ポジションキャプチャー"で位置を確認したんだが、かなり上方の……それこそ地上に近い位置から反応が返ってきてなぁ」


 一度組んだパーティーは一定期間が過ぎるか、相当の距離を離れるかしない限り、勝手に解散されることはない。

 遠距離というのも相当な距離までは問題がなく、『ロディニア王国』内であれば西端と東端でも問題なくパーティーは維持できる。

 そのため、"ポジションキャプチャー"のようなパーティー専用のスキルは、運用法によってはなかなか便利なスキルだ。


「それを確認した後に、【デリバリーボイス】で慶介にこう言ったんだ。『もし地上まで無事脱出出来ていたら、今すぐに魔力を無駄遣いしてある程度減らしてくれ』ってなぁ」


「魔力ですか?」


「なんでそんな真似をさせるんだ?」


 メアリーと龍之介はピンと来ていないようだったが、カタリナはこの間の北条のスキル説明を覚えていたらしい。


「慶介に魔力を無駄遣いさせて、"パーティーコンディション"で慶介の魔力を確認したのね。そうすれば、大分手間になるけど慶介も返事を出すことができる」


「そゆことだぁ。もし地上に戻っているのなら、ある程度魔力を無駄に使用しても問題はない。問題はちゃんと俺の声が届いていたのかってとこだったんだがぁ、それもちゃんと届いていたことがハッキリしたぁ」


 実は北条も【デリバリーボイス】の魔法を、それもダンジョンの別階層にいる相手に使用したことはなかったので、これまできちんと慶介に声が届いているかは若干不安だった。

 だが先ほどはこちらの指示したことを、慶介がすぐに反応して行ってくれたので、その心配もなくなった。



「そう……ですか。本当に……本当に…………」


 メアリーの思わず感極まったような話し方に、それだけ慶介のことで不安を抱いていたことが窺える。


 途中で一人はぐれてしまいはしたが、今は全員無事で生きている。

 そう改めて認識した北条達は、これまでのお通夜ムードの探索から、早くこの場所を攻略してやろうぜ! という意気込みに切り替わっていく。


 その意気込みのせいか、それともたまたま運が良かったのか。

 フィールドタイプである二十九層の平原エリアは、二日の探索で次の階層への魔法陣を発見することができた。


 ただ発見したのが夜遅かったので、彼らは一旦その魔法陣の傍で一夜を明かすこととなる。

 そして次の日の朝、早速魔法陣に魔力を通し、次の階層へと転移していくのだった。




▽△▽



「よーやく三十層かー」


「結局ここまでに迷宮碑(ガルストーン)はなかったわね」


「まー、なんだかんだ言って、ここまでに出てきたのはEランクとかDランクの魔物だけだしな。そんな所に迷宮碑(ガルストーン)があったら、どっかのパーティーが生きて戻ってんだろ」


「龍之介の言う通りだぁ。……にしても、この階層はまた偉く幻想的だなぁ……」


「ええ。こんな状況でなければ素直に楽しんでいられたのに……」


 二十九層の平原エリアから転移した先。

 そこは広大なスペースの洞窟タイプの空間であり、その広い空間を照らす淡く青い光が、この神秘的な光景を生み出している。


 低層にも同じような光を放つエリアはあったが、この空間では壁だけではなく、床や天井にまで青く光る鉱物だかの成分が入っているようで、そこはまるで小さな宇宙空間のようだった。


「北条……さん。この階層……」


 ちょっと趣は異なっているが、プラネタリウムを鑑賞する気分でいた北条に、楓が声を掛ける。

 その声を受け、北条は辺りを眺めるのを止めて口を開いた。


「ああ。魔物の気配が一切ないなぁ……」


「魔物がいない? それって鉱山エリアの二十層みたいに?」


 カタリナもその話に興味を覚えたようで、口を挟んでくる。


「いや……、恐らくは領域守護者(エリアボス)が出るんだろぅ」


領域守護者(エリアボス)……ここでか!」


 龍之介もハッと気づいたように声を上げる。

 この階層は、ただ単に広大な空間に青い綺麗な光が煌めいているだけではなかった。


 この階層は、半分近くが水……それも池のような小さな規模ではなく、地底湖とでも呼ぶべき広大な水場が広がっていた。

 その深さは目視した限り、深いところではかなりの深さがあるように見える。

 湖底からも例の青い光が発せられているのだが、深い場所ではその光も大分弱弱しいのだ。



「ほれ、見てみろぉ。ちょいと行った先に、おあつらえ向きな戦いの場みたいなのが用意されている。周囲を湖に囲まれた円状の島みたいな感じでなぁ」


「つまり……どういうことでしょう?」


 メアリーはいまいちピンと来ていないようだが、北条や龍之介は日本でのゲームの経験から、この先の展開が予想出来ていた。


「わざわざこんなあからさまな舞台を用意するってことぁ、まず間違いなく水棲系の領域守護者(エリアボス)が出てくるんだろうなぁ。それも、あの島の広さからして、魔物も相応の大きさのものが出てくるんじゃないかぁ?」


「同感だぜオッサン。オレのイメージ的には、水竜とかが出てきそうな感じがするぜ」


「ちょっと! 竜種なんて出てきたらヤバイじゃない!」


「いや、落ち着けよカタリナ。あくまでオレの勝手なイメージだってば。大体この前の階層まではDランク以下の魔物しか出てねーんだから、いっきにそんなヤバイ奴は出てこねーだろ」


「それもそーね。そもそも水竜が出ても、ホージョーならなんとかしそうだわ」


「俺だけじゃなく、お前らにもしっかり働いてもらうからなぁ。まずは、今回は周りが水場ということで、念のため【ウォーターリベリオン】と【ウォーターブレッシング】を予めかけておこう」


 そう言って北条自らが"水魔法"を全員にかけていく。

 これまでだったら"水魔法"は慶介の役目だったのだが、今ははぐれてしまったので北条が代わりを務めることになった。


 【ウォーターブレッシング】は、水中でも呼吸が出来るようになる中級"水魔法"で、効果が一時間ほど続くので領域守護者(エリアボス)戦の間は持つだろう。

 【ウォーターリベリオン】は水中で体を動かす際に、水の抵抗を減じることが可能になる魔法だ。

 こちらは効果時間は【ウォーターブレッシング】の半分程になってしまうが、必須のスキルという訳でもないので、余裕があれば掛け直せば問題ない。


 それからはいつものように、"付与魔法"による強化を行っていく北条。


「ほら、お前らもなぁ」


「にゃぁ」


「キュゥゥ」


 しっかりと従魔のニアとラビにも"付与魔法"を掛けていく北条。

 すでに龍之介たちもすっかり戦闘モードに入っている。



「では行くぞぉ。一応対策はしたがぁ、水中に引きずり込まれんようになぁ!」


 北条の号令を機に、一斉に駆けだしていく『サムライトラベラーズ』。

 やる気満々で飛び出していった彼らだが、島の入口辺りに来ても特に何か起こるでもなく、しんとした静けさが待ち構えていた。


「……オッサン、もしかして外して……」


「いや……来るッ!」


 島の入口部分では何も反応は起こらなかったが、島の中ほどまで歩を進めた北条は、唐突に一体の魔物気配が現れたのを感知した。


 三十層の領域守護者(エリアボス)との闘いは、こうして幕を切られた。



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