第418話 伝説級
「オッサン……これ」
各自野営の準備に入る中、龍之介がとあるものを持って北条の下にやってくる。
その手には、あの悪魔からドロップした大きな紫色をした魔石と、魔石とは別の石のかけらのようなもの。
それから、悪魔の背に生えていた昆虫のような翅が載せられている。
「ああ、あいつのドロップかぁ」
「それと……アレもまだ残ってるぜ」
龍之介が視線で示した先には、薄く青みがかった金属で出来た宝箱がある。
これまでダンジョンで宝箱を幾つも発見してきた『サムライトラベラーズ』だったが、このような見た目の宝箱は初めてだ。
「……こいつはミスリルかぁ。ダンジョンで発見される宝箱の中では、一番グレードが高いとされる奴だなぁ」
「そんだけあの悪魔がヤベー奴だったってことか」
悪魔を倒した時は色々あったので、ドロップの回収をするタイミングが取れなかった。
北条もすっかりそのことを忘れ野営の準備に入っていたが、龍之介に促されるままに宝箱の前へと移動する。
「ああ、いやいい。たまには俺にもやらせてくれぃ」
いつも通り楓が宝箱のチェックをしようとするが、それを制して北条がチェックを始める。
基本的に何かイベントをこなしたあとに出てくる宝箱には、罠は仕掛けられていない。
これまで例外はないというのに、未だにチェックを怠らない辺りが北条らしいと言えた。
「……うむ。やっぱり罠などはないようだぁ。開けるぞぉ……」
慶介と離れ離れになってしまい心配に思う気持ちは勿論あるものの、これまで見た中で一番の……それも飛び切り上等な宝箱ということもあって、龍之介や他のメンバーも宝箱の傍に近寄って様子を見ている。
「……なんだぁこりゃあ」
「え、こんだけ!?」
「大きい……ですね」
「これって……」
箱の中身を見た者が口々に感想を漏らしていく。
龍之介などは明らかに落胆した様子で、メアリーはどう反応したらいいものやらといった様子だ。
いつもは宝箱を開けると、中には幾つもの品が納められている。
数の違いや当たりハズレはあれど、複数入っていることが基本だ。
しかし、今回開けた箱には一つしかアイテムが入っていなかった。
それは、梅干しの種を巨大化させたような見た目をしており、色といい形といい、大きな木の実というのがしっくりと来る。
それもかなりの大きさで、かぼちゃよりも一回り大きいといった位の大きさをしていた。
なおこの木の実以外には、定番の〈ゼラゴダスクロール〉なども一切入っていない。
「やたらとでけーけど、これは何なんだ? 食えるのか?」
「……待て待て。確かに食べると特殊な効果もあるようだがぁ、こいつは拠点に植えることにしよう」
「ってことはもう"解析"は終ったのね。で、何なのよこれ」
「こいつは今まで見た中では一番レア度が高いアイテムで、名前は〈世界樹の種〉。なんと伝説級のアイテムだぁ」
日常生活では余り耳にする機会もないが、この世界のあらゆるものには等級というものが定められている。
鑑定系のスキルを使用することで判別することができる等級は、それこそそこらの小石にも反応はする。
もっともそういったありふれたものの場合、等級を示す所に何も表示がされずに無級として扱われる。
同じ小石でも、内部に鉱石や宝石が含まれている場合には、等級は表示されることもある。
北条の言う伝説級とは、そうした等級の中でも上から二番目の非常にレア度の高いアイテムの分類だ。
古書や言い伝えとしてしか伝わっておらず、今では失われてしまったとされる神話級。
それから伝説級、古代級、超級、特級、ユニーク級、レア級と続き、そこからは一級から六級までの階級に分けられている。
「伝説級って、世界に幾つかしか存在しないっていうレベルじゃない!」
「そーいやゼンダーソンのおっちゃんも言ってたな。いつかは伝説級のアイテムをゲットして、自分達が伝説になってやるって」
「ゼンダーソンさん達でしたら、既に伝説になっていると思いますけど……」
「でもまあ、それだけのアイテムが出るのは納得ね。元々宝箱の中身が一つしかない時って、銅の箱なんかでもそれなりのモンが出るらしいのよ。それが、ミスリルの箱ともなれば、伝説級のアイテムが出ても不思議じゃないわ」
「へー、そうなんか」
「なんだか話を聞いてると凄そうなんですけど、北条さんはそれを地面に植えるんですか?」
「え? いや、だって〈世界樹の種〉なんだぞぉ? 植えたら世界樹が生えてくるんだぞぉ?」
「だぞぉ? と言われましても……。世界樹というのはそれほどまでに良いものなんですか?」
その手の話題に疎いメアリーには、いまいち世界樹というものの価値がピンと来ていないようだ。
「うーん……。私もずっと東の方にあるエルフ島に、世界樹が生えているって位しか知らないわね」
とここで、現地住人であるカタリナから世界樹の情報についてが語られる。
「エルフ島! そんなのがあるのか。いつか行ってみてーもんだぜ」
「私はゴメンよ。そういう所だと、ハーフの扱いが良くないって聞くし」
「まあまあ、とりあえずこいつは"アイテムボックス"にしまっておこう」
北条が箱の中から〈世界樹の種〉を取り出すと、それを"アイテムボックス"へとしまう。
箱に関してはミスリル製なので価値があるにはあるんだが、生憎と箱の部分はダンジョンの一部扱いらしく、ダンジョン外に持ち出すと一定時間が経過すると消えてしまう。
なのでもったいないけどそのまま放置することになる。
その後は、慶介がいないことを意識しないようになのか、食事の時に龍之介がいつも以上にしょうもない雑談をしたり、それでもメアリーが時折心配そうな顔を覗かせたりしながら、時間は過ぎていく。
夜はニアとラビがいるので見張り番を立てる必要がなくなり、大分楽になっている。
しかし、一人別の場所へと転移させられた慶介は悠々と眠る訳にはいかない。
各人が寝床に就き、沈黙が場を支配する中、眠れずにいた北条はそのようなことを考えていた。
(これが……このことが俺がここ最近ずっと感じていた嫌な予感の原因なのか?)
一人自問するも、それに答える者はいない。
いつもはグウグウといびきをかきながら寝ている龍之介も、今夜はまだその音が聞こえてこない。
もしかしたら龍之介も北条同様に、眠れていないのかもしれなかった。
(慶介がいなくなったと知った後、"二者択一"のスキルで『慶介は無事に生きて帰れるか?』と訪ねたら、イエスの答えが返ってきた)
悪魔との闘いを終え、慶介が転移した場所で調査をしていた時、北条が使用していたスキルの内の一つが"二者択一"だった。
しかし、直前に全力で"ガルスバイン神撃剣"を使用していた為、流石の北条も魂が悲鳴を上げている状態だった。
なので、その場で確認したのは先ほどの質問と、あともうひとつだけ。
(その後、こちらから慶介を探しにいった方がいいか? という質問に関してはノーという答えが返ってきた。好意的に捉えれば、わざわざ探しにいくこともなく、意外とあっさり慶介はダンジョンを一人で脱出できるのかもしれない)
北条はこれまで、ここぞという時にこのスキルを使用していたが、余りこのスキルに頼りすぎにならないようにもしていた。
占いなんかよりは確実性が高いとはいえ、未来の全てが分かる訳でもないスキルに振り回されたくはない。
しかし、ここ最近はちょっとこのスキルに頼りすぎているので、自重しなければ……と思いつつ、今日もまた使用してしまった。
余り良くない傾向だと思いながらも、二番目の結果について更に深く考える。
(慶介が自力で脱出できるなら、こちらから助けにいくことはない。その結果としてノーという答えが返ってきただけならいい。しかし、そこに他の理由があったとしたらどうだ?)
北条が一人で考え込むと、大抵はこのようにより最悪な事を想定した思考になってしまう。
(例えば……慶介を探しに行く場合だけ、またあの悪魔のようなイレギュラーな事態が発生する、とか……? 或いは、時間……が関係するとか?)
北条の"アイテムボックス"には、一年以上ダンジョンに潜ってられる位の食料が備蓄されている。
それは常日頃から少しずつ貯めていたもので、六人パーティーで一年分以上の量なので、北条一人なら六年以上は補給なしで食っていける量だ。
(食料などに関しては、慶介を探しに行って探索期間が少々伸びようが問題はない……。となると後は……)
そうしてあらゆる事態を想定している内に、北条にも睡魔が襲い掛かってきており、いつの間にか目を閉じていた。
それは他のメンバーも大体同じような感じだったらしい。
北条以外の面子も眠れない夜を過ごし、全員が睡眠不足の状態のまま翌日を迎えることとなった。




