同期
数日後。
ルカとクロードは、本部の会議室へ呼び出されていた。
扉を開けると、まずエドが目に入った。
「お」
エドが軽く手を上げた。
「生きてたか」
「何とか」
ルカは短く返す。
脇腹に巻かれた包帯が、動くたびにわずかに引きつった。
エドの隣で、ノクトが静かに椅子に座っている。
ルカに視線を向けたあと、わずかに肩の力を抜いた。
部屋の奥では、アルヴェンが静かに資料を揃えていた。
その横に、クレアとロザリアの姿がある。
視線はすでにこちらを見ていた。
「全員揃いましたね」
アルヴェンが顔を上げる。
「まず、候補生ルカ、クロードの第三課題についてです」
その言葉で、部屋の空気がわずかに張り詰める。
「契約悪魔ヴァルシオンですが」
自然と、背筋が伸びた。
「課題難易度として、不適切であったと判断しました」
ルカが僅かに目を上げる。
「そのため」
「第三課題は、再試験扱いとします」
クロードが小さく息を吐いた。
失格ではない。
けれど、終わってもいない。
アルヴェンは次の資料を開いた。
「第四課題について説明します」
紙がめくられる音だけが、やけに大きく響く。
「なお、候補生エド、ノクトについては」
「本課題が最終試験となります」
言葉が一度、区切られる。
「対象は、元悪魔祓いです」
一瞬、空気が止まった。
エドが眉を寄せる。
「……元?」
アルヴェンは視線を資料から外さないまま続けた。
「契約悪魔との接触後、消息を絶っています」
静かな声だった。
だが、その内容だけが異様に重い。
「既に複数の悪魔祓いが襲撃を受けています」
誰もすぐには言葉を出さなかった。
「討伐は、クレア試験官とロザリア試験官が担当します」
「貴方達には、その補助をしてもらいます」
ルカは一瞬だけ、クレアを見る。
クレアは無表情のまま、資料に視線を落としていた。
「それと」
その視線がルカへ向く。
「候補生ルカは前線へ立たないように」
「傷が完治していません」
ルカはわずかに眉を寄せた。
「……了解です」
納得した声ではなかった。
ロザリアがそれに気づき、小さく笑う。
「無茶しそうねぇ」
軽い声だったが、どこか見透かすようでもある。
クレアは表情を変えずに続けた。
「詳細は後ほど共有します」
「今日は装備の確認を優先して下さい」
―――
部屋を出た瞬間。
エドが大きく伸びをした。
「うわぁ……」
「今度は四人行動かよ」
ノクトが横目でエドを見る。
「お前が一番騒がしい未来しか見えない」
「失礼だな」
クロードは小さく息を吐いた。
「……武器、直ってるといいが」
エドが頷く。
「あー、そういや槍壊れてたな」
「俺も双剣見てもらいてぇし」
ノクトも静かに口を開く。
「弓も調整したい」
エドがルカを見る。
「お前も来いよ」
「前線出ないにしても、整備は大事だろ」
ルカは少しだけ間を置いてから頷いた。
3人の後ろに続いて歩き出す。
―――
武装技術班は、本部の地下区画にあった。
階段を降りた瞬間、空気が変わる。
金属音。工具の打ち付ける音。
鉄と薬品の匂いが、薄く混ざり合っていた。
壁には、様々な武器が整然と並べられている。
「はいはい、問題児四人組来たー」
軽い声だった。
作業台の向こうから、一人の女性が顔を出した。
短めの茶髪。
工具を片手に、楽しそうに笑っている。
「リッカ」
クロードが少し嫌そうな顔をする。
「その呼び方やめろ」
「槍折って帰ってきた人が何か言ってる」
エドが吹き出した。
「言われてんぞ」
「うるせぇ」
リッカは笑いながら、クロードの槍を持ち上げる。
「はい、修理完了」
黒い槍だった。
以前より、僅かに重厚感が増している。
「強度上げといた」
「呪術刻印も調整済み」
クロードが無言で受け取る。
軽く、ひと振り。
低い風切り音が、空気を切り裂いた。
「……悪くない」
リッカが満足そうに笑う。
「悪魔祓いの武器、普通の武器じゃないからね」
ルカは壁に並ぶ武器へ視線を向けた。
どれも刃や柄に、刻印のような紋様が走っている。
リッカは楽しそうに続ける。
「呪術刻印に魔力伝導路、対悪魔用の加工も入れてる」
壁に立てかけてあった双剣を持ち上げ、軽く叩いた。
「上位悪魔も斬れるようにパワーアップしてるよ」
エドがそれを受け取りながら言う。
「毎回思うけど、武器の話してる時だけ早口だよな」
「好きだからね」
即答だった。
ノクトはすでに弓の弦を確認している。
迷いのない、慣れた手つきだった。
「貴方の剣も見せてくれる?」
ルカは鞘から剣を抜き、リッカへ差し出した。
リッカはそっと受け取り、刃へ視線を落とす。
細かな傷が、ところどころに刻まれている。
「……こっちも結構無茶したね」
ルカは何も言わず、わずかに目を伏せた。
リッカは剣の腹を指で軽く撫でる。
「使い手も、武器も」
それから顔を上げ、ルカを見る。
「君はしばらく、無茶するんじゃないぞ」
軽い言い方だった。
けれど、その目だけは少し真剣だった。
ルカは小さく苦笑する。
「気をつける」
「絶対守らなそう」
エドがすかさず横から口を挟む。
「お前にだけは言われたくない」
リッカは一瞬だけ目を細めて、それから笑った。
「はいはい」
剣を軽く持ち上げる。
「整備するから、少し待ってて」
リッカがそう言うと、各々が再び自分の武器へ視線を落とした。
金属音が、工房に戻っていく。
その中で、エドがふと思い出したように口を開く。
「で、元悪魔祓いって誰なんだろうな」
ノクトは弓の調整をしながら、淡々と答えた。
「クレア試験官の同期らしい」
一瞬、音が途切れたように感じられた。
クロードがわずかに眉を寄せる。
「同期が悪魔側か」
リッカの手が、ほんの一瞬だけ止まった。
だがすぐに、何事もなかったように工具を動かし始める。
「……悪魔祓いが壊れる時って」
ぽつりとした声だった。
誰に向けたわけでもない。
「大体、綺麗には壊れないんだよね」
その言葉の意味を、誰も拾わなかった。
金属音だけが、静かな工房に戻っていく。




