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第2話:目覚め

なあ、ずっと思っていたんだ。俺だって、それなりにまともな人生を送れるんじゃないかって。どれだけ足掻いても、苦痛や苦難が絶えなくても、俺には帰れる場所がある。彼女のところへ戻れば、彼女は俺を慰め、大丈夫だよって、すべて上手くいくよって言ってくれる。たとえ、ちっとも上手くいきそうになくても……。

彼女の笑顔を見るだけで幸せだった。仕事終わりのビールみたいなもんだ。一口飲めば、何もかも上手くいくような気がしてくる。俺にとって彼女の笑顔は、病を癒やす薬であり、この世界で生きる理由そのものだった。だが、たとえ一瞬であっても彼女から笑顔が消えるのを見たとき、俺の世界は粉々に砕け散った。時間を戻せるなら、彼女にプロポーズしたかった。あのバーで働くのをやめてくれと言いたかった。俺の心配なんていいから、俺に君のことを心配させてくれと言いたかった。すべてをやり直したい。だが、それは叶わない。この残酷な世界が彼女を俺から奪ったからだ。目に焼き付いているのは、死ぬ直前の彼女の笑顔。頭の中で何度も、何度も繰り返される彼女の最期の言葉。

「あなたには、幸せになってほしい。笑っていて」

その言葉が頭の中で鳴り止まない。止まってくれ。もう、あんな苦しみは味わいたくない。止まるなら何だってする。だが同時に、俺の中では怒りが燃え盛っていた。この世界は俺からすべてを奪い去った。この世界に残された唯一の善意さえ、力ずくで奪われた。俺は懸命に働いた。世界に何も望まなかった。ただ一つ、彼女がずっとそばにいてくれることだけを願ったのに、この世界は善に報いず、悪にばかり味方する。

だから、決めた。もし俺にもう一度明日が来るのなら、俺は平穏と幸せを見つけるために人生を捧げる。人間として可能な限り、自分勝手に生きてやる。善人ぶるのはもう御免だ。どうせ最後には何も残らない。俺は自分のために、彼女の期待に応えるために、彼女が望んだように生きる。本当の幸せを見つけ、自分の可能性を使い果たすために。

真っ黒な海に沈みながら、身体にまとわりつく水を感じていた。溺れているのは分かっている。なのに、死ぬことができない。奇妙な感覚だ。虚無の中へ落ちていくようでいて、同時に浮いているようでもある。こんな感覚は生まれて初めてだ。これが死なのか? 誰もいない完全な暗闇を漂うことなのか? 俺には永遠のように感じられたが、脳が感じている時間は、せいぜい二分程度だった。

彼女も、死ぬときにこう感じたのだろうか。彼女もまた、誰もいない完全な暗闇を一人で漂っていたのか? 最後まで、彼女は孤独だったのか? 彼女も人生で苦しんできたけれど、それでも自分の道を選び取った。なのに、結局は一人きりだったのか。

もし俺がほんの一秒早く死んでいれば、別れる前にもう一度だけ彼女に会えただろうか。最後にもう一度、彼女の手の温もりを感じ、彼女の唇の柔らかさに触れられただろうか。そしたら彼女はまた俺を心配して、なんて無茶をしたんだと叱ってくれただろうか。あるいは、二度と離さないと抱きしめてくれただろうか。だが現実は、俺は溺れていた。少なくとも、そう感じていた。耳は水で満たされ、音はこもって聞こえた。だが不思議なことに、周りのすべてが完璧に聞き取れる。まるで誰かが、俺の周りの環境を操っているみたいだった。

静寂に包まれているのに、遠くから誰かに見守られている感覚があった。俺が何を経験してきたかを知っている、誰かに。外側から見れば俺に感情などなかっただろうが、内側では怯えていた。これから俺はどうなる? この感覚は何だ? 疑問は尽きなかったが、この黒い海はあまりにも孤独で、静かすぎた。

虚無の中を漂いながら、俺には人生で本当に欲しかったものを考える時間が山ほどあった。永遠とも思える時間。すべてを失った瞬間を追体験し、自分を責め立てた。俺の憎しみは復讐への情熱を燃え上がらせた。人類を苦しめ、無知であることを選んだあのドブネズミどもに、俺の存在を知らしめてやる。思考がこれほど明晰だったことはない。胸の中で燃え盛る怒りと憎しみだけが、俺のすべてだった。

その空虚さは、本物だった。静寂と平穏。ハッピーエンドを欠いた夢が叶ったようなものだ。無限に繰り返される地獄。一人きりで、慰めてくれる者は誰もいない。死ぬのがこれほど退屈な経験だとは。俺は運命を受け入れ、己の終焉を認めようとしていた。あの声を聞くまでは……。

「世界を焼き尽くしたいか? 己を貶めた者たちに、等しき絶望を与えたいか?」 「闇そのものに、成り果てる覚悟はあるか?」

声が響いた。女の声だった。温かく、安らぐようなその声は、一瞬、ノーラと話しているような錯覚を抱かせた。彼女の声を聞けるなら、それだけで俺には世界のすべてに値した。自分がこれほど感情的になれるなんて。最初から苦痛と苦難に慣れ、運命を受け入れていた俺にとって、感情なんて滅多に味わうことのないものだった。だが、今日この感情を味わえたことを、俺は心から嬉しく思った。正直に言えば、昔、同じだけの感情を込めて彼女に愛を伝えたかった。「結婚してくれ」「君が俺のすべてだ」と。この声は、俺を救ってくれた。これは終わりの旅ではないのかもしれない。もう一度、やり直せるのか? もう一度、彼女を見つけられるのか? 聞きたいことは山ほどあったが、声は止まった。俺の答えを待っているようだった。

再び空虚と孤独が襲ってきた。死を受け入れようとした矢先に、一筋の希望が見えた。俺は見捨てられたわけではないのかもしれない。俺は声に向かって問いかけた。

「俺はどこにいる? あんたは誰だ? ここはどこなんだ?」 「ノーラに声が似ているな。彼女を知っているのか?」 「ここにどれくらいいるのか、分かっているのか?」 「俺は本当に死んだのか? それとも、夢を見ているだけか?」

次々と問いを投げかけたが、声はどれにも答えようとしなかった。彼女は、自分の問いに対する答えだけを求めているのか? 正解を探しているのか? 何もかもが混乱していた。理解することも、受け入れる余裕もありはしない。ノーラがここにいてくれたら。彼女なら何を言い、何をすべきか分かっていたはずだ。だが、この世界で何もかもを手に入れるなんて無理な話なんだろうな。

「……もし、『ノー』と言ったら?」俺は聞いた。 「お前は戻るだけだ。終わりのない虚無へとな」 声は、攻撃的な響きを帯びてそう答えた。

声は、俺に「イエス」と言わせたがっているようだった。なぜかは分からない。だが、最初の二つの問いかけは、俺の怒りを感じ取っているようだった。俺の世界に対する憎しみを理解し、俺にそれを受け入れろと言っているようだった。これを利用すれば、俺の利己的な望みを叶えられる。望んだ通りの人生を生きられる。今、俺が何を感じているかを正確に分かっているのは、この声だけだ。だから「イエス」と言うべきなのかもしれない。だが、確信は持てなかった。未知の領域に足を踏み出すような真似をしたことなんて一度もない。俺は間違いを犯そうとしているのか? たぶん、そうだろう。だが、今の俺には失うものは何もない。欲しいものを手に入れるためなら、何だって差し出し、すべてを犠牲にしてやる。

「ああ(イエス)」俺は毅然とした声で言った。

「賢明な選択だ」 「おめでとう。お前には、森羅万象の理を打ち砕く力を操る権限が与えられた」

「アンドカー(Andhkar)」

彼女が囁くように言ったその名は、無限の虚無に木霊した。


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