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流星deよろしく  作者: 本間 一平
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第十七話 おもい知る

 第十七話 おもい知る



 コンクリートでできた立体駐車場。長年放置され使用者もいなくなったそこは目で見てわかるほど老朽化が進んでいた。床にはヒビが入り、フェンスの一部は錆びて倒壊し、壁には蔦が巻き付いている。

 そんな立体駐車場の屋上に巨大な狐男が転がっていく。勢いが弱まり止まったその狐男、門鞍庄司は痛みを感じて腹部を抑える。


「そんなバカな……」


 強靭な肉体を持つバリアントでありながらただの人間に殴られてダメージ負う。それはあり得ない事だった。

 痛みに耐えながらなんとか立ち上がる門鞍。


「まさかお前超人……オーバーも持ってるのか?」


 特異な力を保有する覚醒者の種類は大きく分けて三つ。

 他の生物の特徴を取り込んで変身するバリアント。

 ありとあらゆるものに影響を与えるリンカー。

 そして人間の限界を超えて成長し続けるオーバー。

 オーバーの中には肉体に特化して強くなっているものもおり、時にバリアントに比肩する身体能力を持っているものも存在する。


「まさか。バリアントと殴り合えるような肉体は持ってないさ。ただ俺が強いってだけの話だ」


 反撃を成功させたというのに追撃もせずにゆったりしている流星。そこから糸に囲まれた場所からゆっくりと歩いて屋上の中央あたりまで移動していた。


「パワーがあるから、とてつもなく速いから、頑丈な肉体があるから強いなんて勘違いしてるんだろ? そんな思い上がりを矯正してやろうってんだ。さっさとこいよ三下」


 かかって来いと流星は手招きをして挑発を繰り出す。それを見た門鞍の中に生まれたのは戸惑いだ。

 先の逃走劇の手際と高い覚醒度であることから油断はしていない。だが殴り負けるとは微塵も考えていなかった。今改めて流星の姿を見てもあの腕でこの巨体を殴り倒せるとは思えない。むしろ全力で殴ればあちらの拳が逆に砕けているはずだ。なにか特別な装備品をしている様子も伺えない。

 なのに殴り飛ばされた。その事実は門鞍を大きく揺らした。だがそれ以上の怒りが巻き起こる。これ以上コケにされてたまるかと。

 再び地面を蹴り高速で移動する。しかしその先は流星ではない。横に動いた門鞍は崩れ落ちているコンクリートの破片を次々に流星に蹴り飛ばしていく。


「子狡い手は得意だな」


 飛んできた破片を最小限の動きでよけていく。だが複数の破片が同時に襲い掛かってきたときにはさすがに大きく横に飛びよけた。


「見下してんじゃねえぞ! てめえみたいな甘ちゃんが俺様に勝てるかよ!」


 それこそを狙っていた門鞍は廃棄されていた車をそこへ投げつけていた。そしてあの逃走劇の時と同じくその陰に自分の身を隠しての二段構えの攻撃。大質量の攻撃を回避した瞬間を狙う必勝の形。

 狙い通り廃車をよけた流星に門鞍の拳が届いた。


「なにぃ!」


 届きはした。だがその腕を流星は片手で掴み止めていた。


「同じ相手に二度も同じ攻撃してんじゃねえよアホが」


 攻撃を防がれて立ち止まっている門鞍に流星の拳が襲い掛かる。しかし今度は門鞍がその手で受け止める。だがやはり門鞍の想像しているよりもそれは遥かに重い拳だった。もう一撃加えようとしている流星をみて思わず後ろに後退してしまう。


「クソがっ!」


 門鞍は必勝の形を防がれてしまい、なおかつ逃げてしまった自分に苛立ちを隠せないでいる。すると後ろに下がった足が何かに引っかかってしまう。


「またか!」


 何度もされた糸による引っ掛け。注意はしていたがまたしてもやられてしまった。


「同じ攻撃でも工夫次第で使えるがな」


 転倒を防ぐために一瞬目を流星から逸らしたその間に、目の前まで迫られていた。そしてその拳が振り下ろされる。


「このっ」


「ほら次だ次」


 それを体を捩ってなんとか避ける。だが避けた先でまた糸にかかる。そして流星が攻撃してくる。それを何度も何度も繰り返される。

 ひたすら不安定な姿勢を取らされ危機に見舞われる。なんとか直撃こそ受けていないが門鞍には苛立ちが募っていく。なにせ今していることは無様に逃げ続けているだけだからだ。力を持つはずの自分がこうであっていいはずがない。正義なんてくだらないモノを掲げている奴らに追い込まれるはずなんてないんだと。

 我慢の限界に達した門鞍は流星の攻撃に合わせてその手を振るった。耐久力は自分が上なのだから相討ちならば自分が打ち勝てると踏んだのだ。


「甘いな三下」


 だが攻撃を中断して流星はそれを見事に躱した。そして勢いそのままに門鞍の脇腹にその拳をめり込ませた。攻勢に移ってしまっていた門鞍はもうそれを回避することは出来ず苦痛に顔を歪ませた。


「てめぇ」


 なんとか踏みとどまった門鞍は流星を睨みつける。


「顔に出すぎだろ。これから攻撃しますって書いてあったらそりゃ分かるさ。不意を付くなら意識の外から仕掛けないと。こういうふうにな」


 怒りに染まった門鞍が再び流星に飛びつこうとしたその瞬間、何かがそれに衝突して吹き飛ばした。。それは先ほど門鞍自身が流星に投げつけた廃車だった。

 流星は糸を車に何本も巻きつけてぐるりと大きく振り回し、迂回して門鞍にぶつけたのだ。


「がはあっ!」


「相手を読んで操って封殺する。これが戦いってもんだ」


 その勢いに門鞍はもんどりうって吹き飛ばされ最後には壁に激突してしまう。更に背中から大の字でぶつかったその手足を瞬時に糸が巻き付いてそのまま壁に貼り付けに拘束してしまった。


「なめるなよ! こんな糸如きで俺を捕らえられると――なっ! なぜほどけねえ!」


 必死にもがき自分を縛り付けている糸を断ち切ろうとする門鞍。自分の体が糸に食い込む程力を入れても糸はびくともせず切れる様子が無かった。

 そんな門鞍にゆっくりと歩いて流星が近づいていく。それを見ていた門鞍に、いままで生じた事の無い感情が沸き上がる。


「俺の糸は一本じゃあ大した力は出せない。簡単に切れたし振り払えただろうよ。だがいまお前の手足を縛ってるそれは百本ほどで束ねた紐だ。いくらバリアントでも一本で腕ひとつ分、だいたい五十人分の力をその格好からじゃ簡単に跳ね除けられないだろ?」


 ヤバイ。

 それが流星の話を聞いて出てきた言葉だった。

 糸それぞれの力を出して操作できるということは、引っ張ったり振り回したりできるその一本一本が腕とあまり変わりない。

 そして流星は現在でも見えてる限り数多の糸を出している。それはつまり何百何千という腕を持ち自在に操ることができるということだ。ただの貧弱な糸使いと侮っていた門鞍はその大きな見当違いによって心臓が捕まれる気持ちに襲われる。


「オズ! オズ! 聞こえてるんだろ! 俺様を助けやがれ!」


 焦った様子の門鞍は通信機越しに誰かを呼びつける。それに呼応したのか立体映像が浮かびあった。


『やあ門鞍くん。ご機嫌はいかがかな?』


 緊迫する場所に似つかわしくない明るい声が聞こえてくる。映像には笑顔のはずなのにどこか不安を感じさせるよう白の仮面を着けシルクハットを被った男が浮かび上がっていた。


「これが良いように見えるのか馬鹿野郎。てめぇが立てた計画のおかげでこうなったんだぞ! なんとかしろ!」


『おやおやこれは異なことを。私めが請け負ったのはあなたを幹部にするということでございますよ? それはしっかり達成できたでしょう。その後どうなろうと私の関知するところではありません』


 怒鳴り散らす門鞍にあきれた様子で肩をすくめるオズと呼ばれた男。


『それに私はちゃんとあの女は手元から放すのが吉と助言したではありませんか。自分でお決めになった結果を私に押し付けるのはいささか見当違というものです。おっと私はここからはお邪魔なようだ。お忙しいようですから料金はしっかりこちらで頂いておきましたのでご心配なく。それでは次回のご利用を心待ちにしております』


 近づいてきていた隆盛に気付いたのかオズは通信を終了した。門鞍の視線が再び流星に向けられる。

 よく見るとさっきの攻防でわずかにかすっていたのか服の裾がすこし破れて素肌が覗いていた。だが見えたのは素肌だけではない。その中にはいくつもの糸が張り巡らされていた。


「てめえ、糸を巻き付けてるのか……」


 門鞍の発言でやっと服が破れていることに気付いた流星は自分の腕を見やる。


「あらら。こういうのは隠しとくもんなんだけど見えちまったか。まあいいか、冥途の土産に教えてやろう。自分の体に糸を纏わせて操作する。名付けて【鬼の羽衣】。巻く糸が増えれば増えるほどパワーが上がる優れものだ」


 

 計画は打ち破られ、スピードは見切られ、そしてパワーでも上をいかれた。門鞍の中にかつて感じたことのない程の敗北感が沸き起こりだしていた。


「じゃあついでにクエスチョンだ。今どれぐらいの力が俺にあるでしょう?」


 流星は右の拳を掲げながら質問を出した。するとその右手に周りから少しずつ糸が集まりだしていく。一本で腕一本なら今全身が無数の糸に覆われている流星はどれほどの力が出るのか。そしてそれはさらに増えていき、その分だけ門鞍の顔が歪んでいく。


「待て待て! そうだ金だ。金を出す! 俺様の金をやるから見逃せよ! 当分遊んで暮らせるだけの金をくれてやるから。それにその女だって好きに使ったらいい。そいつは相手の感情の強さを上げ下げするリンカーだ。色仕掛けさせりゃどんな奴でもいちころだぞ。だから、なっ?」


 勝ち目が薄いとみるや必死の懐柔を試みる門鞍。自分にとって大事な金や女を捨ててでもなんとかここを落ち延びようろしていた。

 その説得を聞いて少し流星の体に入った力が抜ける。それを見て希望を見た門鞍はにやり笑みを浮かべた。


「はぁ。ほんと最初に感じた三下臭は間違って無かったな」


 気の抜けかけた体に活を入れ、力を入れなおす。それはさっきまでよりもより力強く、そして糸の量もより多くなっていた。


「質問に対する回答がそれとは呆れるほどのアホだ。ヒーローが悪を見逃すと思うか? この俺が依頼を投げ出すと思ってるのか? 答えはこいつで思い知れ!」


 集めていた糸が全て体に纏われた。服の下には鬼の羽織。そして更にその上から何重にも折り重なった糸が流星に力を与え、流星千人分を超える力が拳となって振りかざされる。


「やめろぉぉぉ!」


「必殺拳・束!」


 流星の拳が門鞍の鳩尾にめりこむ。人間を殴ったとは思えない音が響き、その衝撃が大気を震わせる。その大きな力は張り付けにしていたコンクリートの壁を壊し、門鞍をその向こう側にまで飛ばし、その勢いで何枚も壁を突き抜けていく。

 最後には半場瓦礫に埋もれ無残な姿になった門鞍。それは完全に意識を失い次第に元の人間の姿に戻っていく。

 見事な一撃であったのだが、どうもそれを放った流星は不満顔で自分の拳を見直していた。


「……やっぱ地味だな。ヒーローとしてこれはいかがなものか? せめてジェットアッパーみたいにどこか光ったりしなきゃ駄目ではなかろうか」


 勝ったというのによく分からない悩みに捕らわれている流星。そんな彼にどこからか賛辞を示す拍手が送られてきた。


『さすがヒーロー、さすがあの代行屋ナガレボシ。ここまで見事に彼の野望を打ち砕くとは感服いたしました』


 門鞍の耳元に付けてあった通信機がさっきのショックで地面に落ち、そこからオズが再び立体映像を浮かび上がらせていた。


「ヒーローはわかるがナガレボシについてはそこまで有名じゃないとおもうが……」


『確かにあなたはまだ駆け出しでございますね。しかし先代様は裏の世界じゃ超がつくほど有名人ですからね』


「よく調べてるな」


『お褒め頂き光栄至極。情報は私にとっては心臓も同然。これがなくては四肢を動かすことすらままなりません』


 いちいち芝居かかった大げさな仕草をしながらオズは楽しそうに語り続ける。


「それで悪魔のオズが俺になにか用か?」


『おや私のことをご存知でしたか』


「知らないでか。どんな事でも報酬しだいで叶える男。ただしいつ現れるかもどこにいるかも分からない神出鬼没で正体不明の怪人。裏を知る人間で分からない奴はモグリだろ」


 といっても流星は見るのは初めてだ。だがその風貌と願いを叶えるという部分を聞けば直ぐ様思い当たるようなその筋では有名な男なのだ。


『話の分かる方との会話は楽で助かります。では一つだけお聞きしてもよろしいですか?』


「言ってみろ」


 怪しく笑うオズは流星に質問を投げかける。


『先ほど流星様は嘘をつかれましたね。本当にプロならば報酬以上の仕事はしないもの。なのになぜここまでしたのか。その真実を教えて頂きたいのです』


「……画面越しだってのによく見てるな」


 図星をつかれた流星はバツが悪いのか、一度下を向き頬を指で触る。そして少し恥ずかしそうに顔を上げた。


「俺は俺を妥協しない。親子の想い合う気持ちを蔑ろにするのはあまりにダサ過ぎるだろ。そんなんじゃ俺は格好良くなれないだろ。こういうのは金とか損得の問題じゃないのさ」


 プロは報酬があってこそ動くものだ。そうでなければ仕事は成り立たない。だがそれを分かった上で流星は自分の心情を通した。それが命を賭けるに値すると心の底から思っているから。


『素晴らしい』


 本当の理由を聞いたオズは見えている口の部分を限界まで釣り上げて笑顔を浮かべる。仮面と相まってそれから狂気的なものを発していた。


『紡木流星。その名、この心の内に刻んでおきましょう。それでは再び相見えん日を心待ちにし、本日はこれにて失礼いたします』


 オズは最後に白いタキシードを着た全身を映し、深々と礼をして通信を終了させた。


「……面倒な事が起こった気がするが、今は気にしないでおこうか」


 屋上から夜の景色を見回す流星。いつの間にか少なくなった銃撃音と警察のサイレンの音が遠くから聞こえている。

 遡乃明美が危険に迫る危険の原因は流星自身の手で排除。引き起こした騒動もこれで収束。おまけにブラックガードも潰れて万々歳。

 仕事の終わりを完遂して息を吐く。あとは事後処理かと服についた埃は叩き落として、流星は明美を抱えて下へと降りて行った。











「戦闘狂を連れてきたら楽出来ていいわ」


 呻きながら倒れ伏す組員たちを前に紫色の特殊繊維で出来たエナメルチックなスーツを着たヒルドライダーは、自分の支配下に置いた戦車の上で煙管を吸ってくつろいでいる。


「こっちも終わったぞ」


 そこにムラマサもやってくる。怪我は無いようだがところどころ服装が乱れていた。


「どう? 楽しめる相手だった?」


「噂に違わぬ豪胆さ。こちらの刀が二本も折られた。血沸き肉躍る良い戦いだったぞ」


 折れた刀を片手に持ち満足そうな表情のムラマサ。


「して他の二人はどうしたのだ?」


「サイボーグが途中で逃げたもんだから追跡してるわ。あの二人の機動力ならすぐ追いつくでしょ」


 一番長く粘ってジェットアッパーと戦っていたサイボーグ。だが紅虎組の戦闘員を倒してキックホッパーが合流した時点で撤退を選択した。勝ち目無しと判断したというのもあるだろうが紅虎組が事実上壊滅してしまったので報復どころでは無くなったのが大きな理由だろう。

 今はヒルドライダーの視線の先に逃走の為に放った煙幕が宙に漂っている。


「それにしてもよくこの抗争に手出し出来たな。ここ近辺は最近なにやら警察が嗅ぎまわっていたって聞いてるぞ。あとから文句が出そうなものだが?」


 ヒーローと警察の領分は犯罪者を撃退し捕まえるという意味では領分が重なる部分がある。もしも何かの事件でかち合った場合は上同士の協議その方向性を決める。

 刹理を一斉検挙したときにキックホッパーとジェットアッパーが手助けしたのも人手不足の為に警察側から応援要請が来たからだ。

 もし手出し無用と警察に言われればヒーロー側は静観するしかない。それがルールなのだ。


「さあ? 私は直接ここで暴力事件が起きると通報があったからこの地域担当の二人と偶然近くにいたあんたをここまで連れてきただけだから。ヒーローが市民の通報を受けて出動するのは当たり前の事でしょ?」


「道理ではある。が、上は納得しないだろうな。俺は強い奴とやれるならそれでいいが、それでも態々ヒーローを使った理由は気になるな」


 早さという意味ではもっと時間もかかるし、戦力は心もとないがこの抗争は警察に任さていても解決はしていただろう。だが屁理屈じみた方法を使ってまでヒーローを出動させた。


「格好を付けたかったらしいわよ。ほんと男って見栄っ張りよね」


 あきれながら煙をゆっくりと口から吐くヒルドライダー。だがその表情はどこか楽しそうにも見えた。

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