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流星deよろしく  作者: 本間 一平
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第十六話 ライダー&ブレード

 第十五話 ライダー&ブレード



「数は力なり。いい言葉よね。私もまったくもってその通りだと思うわ」


 ヒルドライダーは目の前の惨状を見て微笑する。

 門鞍の部下たちはチンピラの寄せ集めだ。紅虎組に人の質こそ劣っているものの、その数と刹利から奪った高性能の武装によって大きな戦力となっていた。

 だが今彼ら全員が阿鼻叫喚の渦に巻き込まれていた。


「なんなんだ。いったいこれはなんなんだ」


「くるなぁ! こっちに来るんじゃない!」


「燃えるぅ。俺の腕が燃えちまう――」


 赤く燃えて揺れる炎でその体が出来ている狼。その群れに襲われていく門鞍の部下達。銃で撃っても死なないそれは次々に男たちに食らいついた。噛みつかれればそこから炎が引火して体が燃え上がっていく。

 数の優位を武器にしていた彼らが数によって押し込まれていく。


「撃っても無駄だ! ぶん殴るかグレネードを投げろ! 形を大きく変えさえすればこいつ消えるぞ」


 リーダー格らしき男が声を張り上げる。だが絶叫の響く戦場では近くにいた者たちにしかその声は通らなかったようで混乱は続いていた。

 銃が効かないとみるや彼はその拳で狼を殴りぬいた。すると狼はただの炎に逆戻りし霧散してしまった。どうも三割も形を崩してしまえばこの謎の炎狼を消してしまうことを彼は発見した。

 だがそうだと分かっても誰もが対応できるわけではない。彼の周りはなんとか振り払えているようだが、次々に来る狼達にほとんどの者が苦戦しているようだ。

 そして混乱する中に更なる炎狼が襲いかかり状況は悪化していく一方だ。


「ちっ。とにかくあの女だ。いくぞお前ら」


「リーダー。味方はほっとくんですか」


「あいつさえ仕留めればこれも消える。ジリ貧になる前に突っ込むんだよ」


「りょ、了解です!」


 このチンピラ集団を指揮しており、同時に戦闘のイロハを教えていた傭兵出身のリーダー。彼はこの寄せ集めの中で唯一の戦闘のプロといえる人物だった。その彼の経験からすればこのまま救出に手を割いてもさらなる狼が来てしまえば形勢は悪くなる一方だ。勝ちを見出すならここは攻めるしかないと判断した。

 後方にいた彼の部隊は一塊になってヒルドライダーのいる前線へと味方と狼をかき分けて進んでいく。格闘戦を得意とする者を前においてなんとか狼を切り崩し、固まって向かってくる集団には爆弾をお見舞いして吹き飛ばす。

 後方で指示を出していた彼等は前に進んで銃の射線が通る場所までいかなければ女を倒すことができない。

 狼の群れが途切れ視界が開ける。その先に悠々と立つヒルドライダーの姿が見えた。


「撃て!」


 銃を抱えていた者たちは号令をきいてすぐさま弾丸を飛ばす。するとさっきまで味方であったはずの戦車が間に割り込み彼女を庇ってみせた。

 原理は分からない。しかしヒルドの意のままに操られているのは明白だ。


「くそっ。そのまま打ち続けろ。後ろ半分は左右に展開して攻撃するんだ」


 防がれはしたが所詮戦車一台。全面を守れるわけもなく、リーダーはすぐさま次の指示を出す。


「へえ。この状況で反撃に転じれるなんて大したものじゃない」


 形勢が悪化した時にあえて前に踏み込むのは相当な度胸と判断能力が必要となる。実際現状を打開する最適解は炎の狼の原因と思われるヒルドを仕留める事だ。

 だがそれを予想していたのか銃弾の嵐にさらされているがまったくその声に焦りの色はみられない。戦車達は献身的にその体を使ってヒルドライダーを守っている。


「じゃあご褒美あげないとね。次は燕なんてどうかしら?」


 ヒルドライダーは手に持っている身長よりやや高い金属製の棒。それを高く掲げるとその先から青白い電流が放たれだした。

 それを見た門鞍の部下たちは思わず後ずさりしてしまう。


「さっきと同じだ……」


 下っ端の一人がつぶやく。彼女の持つ棒から先程は炎が吹き出し、それが次々に狼に変わって襲いかかってきた。それと似た光景にまさかと思ってしまう。

 するとその見入っている雷が次第に形を作り出し、それは青白い電流で出来た燕となった。


「次は電気だと。炎系の能力者じゃないのか」


 だがその想定は目の前で覆された。


「まったくもって勘違い。そんな自己紹介した記憶は無いわ」


「来るなぁ!」


 迫りくる燕に弾丸を飛ばす。だが高速で跳ぶ燕にはその効果は薄く、弾幕の間を潜り抜けて男たちに突撃する。


「ぐああああああ」


「ぎゃあああああ」


 ぶつかった瞬間にそれは電流へと変化して男たちに襲い掛かる。さっきまでの炎と違い今度は電気。一瞬だったとしてもそれだけで体の自由を奪うには十分な威力を持っていた。

 つまり殴って消すことが難しく。そして飛んでいるのならグレネードなどの爆風で吹き飛ばすことも困難だ。しかもそれが高速で縦横無尽に空を飛ぶ燕である。

 迎撃不可能。そう悟ったリーダーは猛スピードでヒルドライダーに突っ込んでいった。もはやここで彼女を倒さなければ勝機がないと分かってしまったのだ。

 彼の鍛え上げられた脚力は襲い掛かる燕に追いつかれることなくヒルドライダーの目前まで迫る。


「もらったぁ!」


 そして彼女が見える位置まで到達すると銃を構えて引き金に力を込めた。その瞬間なにか大きな物体が彼を吹き飛ばした。


「ぐあっ」


 車に衝突されたような重量を感じて転がるリーダー。飛ばされても意識を保ったまま停止できた彼だったが、次は何かに上から踏みつけられて動けなくなってしまう。


「そんな――バカな――」


 なにがおきたのか。それを確認するために顔を上げた彼は思わず狼狽してしまう。そこには壊された戦車が二機鎮座していた。

 片方は操縦席が半壊。片方は動力部が損傷して動けるはずがないのに。


「おしかったじゃない。私こう見えても用意周到って評判なの」


 銃器を手放し、半死半生になっている男をヒルドライダーは見下ろす。

 炎の狼を側に置き、肩に雷の燕を留まらせ、月光を背後に背負った彼女はさながら狩猟の女神のようであった。


「炎、雷、戦車。お前の力はいったい何なんだ?」


 なんとか残った力で言葉を紡ぐリーダー。今まで色んな覚醒者を見てきたが、ヒルドライダーの力がどんなものなのか想像すら出来ず思わず問いかけてしまう。


「ヒミツ。女の隠し事をそう簡単には教えれないわ。これは私が認めた男にしか明かさないことにしてるの」


「そいつは……残念…………だ」


 ヒルドライダーの言葉を聞いた男はそのまま意識を手放した。

 そしてそれは門鞍一味に勝機が消えた瞬間でもあった。











 正面玄関の前に紅虎組の総戦力が集められている。それは事実だ。だがそれでも自分達の頭である組長の守りをおろそかにしているわけではない。

 腕利きのものはほとんど前線に駆り出されているが数名は護衛として残っている。


「ぐあああ」


「腕がぁ」


 だが古めかしくも整えられた日本庭園。その上にその護衛達の鮮血が叫びと共に散っていた。


「おっとすまんな。力が入りすぎたか。どうも高揚しすぎて力加減を間違えた」


 ムラサメブレード。そう名乗ったとほぼ同時に護衛に残っていた二人は襲い掛かっていた。両名ともバリアントの覚醒者であり日々体を鍛え上げている猛者だ。

 その飛びつくスピードは鋭く常人では反応することすら難しかっただろう。

 だが攻撃を繰り出した先にはムラサメの姿は無く。かわりに残されたのは切り裂かれた自らの腕だった。一人は手首から先を落とされ、もう一人は手のひらを縦に割かれていた。

 いつ切られたのかすら近くできない斬撃。ただキィンという金属音だけがその場に響いていた。


「手え出すな!」


 斬られた護衛を見て戦闘態勢に入っていた若頭と副組長を制止する虎鉄。


「しかし組長」


「あれは首狩り嶽佐だ。お前らでどうにか出来るような相手じゃねえよ。こんな時に来るとは間の悪い」


「あいつが首狩り……」


 組長が言った呼び名を聞いて悔しそうにしながらも後ろに下がる二人。


「数々の賞金首を討ち果たした賞金稼ぎ。組織だろうが能力者だろうが刀ですべて刈り尽くす。あの首狩り嶽佐がヒーローごっこか。最近話題にあがって来ないんでてっきり死んだもんだと思ってたぞ」


 身長の長さはある一本の野太刀を手に虎鉄組長は庭にゆっくりと進んでいく。


「今はヒーロー家業に勤しんでる。まあ正義の味方を名乗るつもりもないが。だが英雄会はいいぞ。獲物の居場所を教えてくれる上に訓練と称して強者と戦い放題。この俺にとってはまさに極楽のような組織よ」


「さすが組織丸ごと狩るような戦闘狂だ。てめえみたいなのがヒーローとは世も末だな」


 互いに少しづつ近づき相対する。


「その腕一本でのし上がった剣客にとやかく言われたくはないねぇ」


 袴を揺らしながらどこか楽しそうにムラマサは歩いていく。


「俺は生きる為の戦いだ。てめえみたいに娯楽で刀は振るわねえよ」


 刀を持った虎鉄の左手に力が入る。二人は睨み合いながらあと数メートルといったところで同時にその歩みを止めた。

 先ほどまで軽口を言い合っていたのとはうって変わり、沈黙する二人。だがそれがただならぬ雰囲気を出し、場を緊迫感で重くしてく。

 そしてまたキィンという金属音が響いたと思った瞬間にムラマサは虎徹の目の前に迫っていた。その右手には腰から抜いた刀があり、虎鉄はそれを自分の刀で受けていた。


「いきなり首狙いか!」


 受けた刀を振り払いながらムラマサに刀を向ける虎鉄。だがそれが降り終わるまでにムラマサは瞬時に後ろに下がっていた。


「……いいね。さすが血濡れの虎鉄。楽しめそうじゃないか」


 攻撃を防がれたのにもかかわらずムラマサは笑顔を浮かべている。


「高速の踏み込みと抜刀術。確かに驚異的だ。だがそれで勝てるほど俺は甘くないぞ首狩り嶽佐!」


 虎鉄は自分の力を抜き放ちその姿を変貌させていく。それは紅色の虎。かつて斬り倒してきた者たちの返り血で染まったと言われ、恐れられている姿だ。

 巨大化も相まって二メートル近かった野太刀もまるで普通のものに見えてしまっていた。


「今の呼び名はムラマサブレードだ。間違えるなよブラックガード」


「死にさらせ!」


 虎鉄が一振りする風圧だけで庭に敷き詰めていた砂利石が吹き飛ぶ。そしてまた見えない速さでムラマサが動き出して抜刀を繰り出す。


「これが上級ヒーローか……」


 その戦いを見ていた若頭と副長。戦いを止められた二人ではあったが、どこかで助太刀できるはずだと闘志を高めたままで戦況を見守っていた。

 紅虎組はまさしく血濡れの虎鉄がその腕っぷしで築き上げた組織だ。それ故に組員はその強さに憧れ、そして絶対の信頼を置いている。

 その虎鉄の全力と渡り合うムラマサ。

 見るだけで死を予見させる虎鉄の剛剣。目で捉えることすらできないムラマサが放つ神速の抜刀。

 二人の戦いは自分達の知っている強さとは別次元の高さにあると肌で感じてしまっている。それは驚嘆であり同時に悔しさがにじみ出るものであった。

 なぜなら自分達はこの戦いに参加することすらできない蚊帳の外。力によって全てを成してきたブラックガードでありながら戦力外とされる無力感。

 ただ見守ることしか出来ない己を恥じて若頭と副長はこぶしを握り締めた。

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