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流星deよろしく  作者: 本間 一平
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第十五話 ジェット&ホッパー

 第十四話 ジェット&ホッパー



 ≪科学的進化体≫通称SEBシリーズと呼ばれるサイボーグ。機械化によってどんなに能力の無い人間でもバリアント並みの身体能力と強靭さ、そして放電やブースターなどの装備によってリンカー並みの多様性を持つ。さらにシステム面を強化すればオーバーのように超感覚を擬似的に扱える。

 人型であるため歩兵としての運用も可能で戦術もそのまま適用できる。ある意味武装としての最高系と呼べる代物だ。欠点をあげるとするなら二度と肉体を捨てなければならないことと、その値段が高いという点だろう。なにせ二体作るだけで最新の戦車を購入できるほどに高価なのだ。

 しかしその最高の一品は人間の拳によって砕かれていた。


「いいね! 手加減しなくていいのは超久しぶりだ!」


 甲高い音を立てながら高速で踏み込んで羅剛のサイボーグを殴りつけるジェットアッパー。

 サイボーグ達は高速で動きながら立体的な機動をする彼を捉えられない。センサーによってなんとか反応して攻撃を回避していくものの、少しづつその体が削られていた。ホッパーの手甲は最硬度を誇るハイパータングステンによって作られており、それを自分の能力によって加速させて打ち付けるのだ。

 それは一発一発が鉄を貫く徹甲弾並みだ。しかも弾丸と違いただまっすぐ進むわけではない。相手の反応に対応し、思考を読み進路を巧みに変えて迫ってくるのだ。


「正拳、手刀、鉄槌打ち!」


 赤い閃光を夜の奈落街で描きながら動きまわるホッパー。背中や足などから出るいくつもの火柱で常軌を逸した機動で翻弄しているがその攻撃手段は空手のそれだ。高速戦闘でありながら変幻自在な攻撃手段にサイボーグは対応しきれないでいる。

 電撃、銃撃、爆撃。備わった武装を行使しても狙いをことごとく外される。


『キケン、キケン。警戒度最高まで到達。損害を容認』


 高速で放たれる拳は体をかすめるだけで軽々とサイボーグの装甲を削り取っていた。その脅威度は先ほどまで戦っていた多脚戦車よりもさらに上だとサイボーグ達は判断した。

 損害を少なくしながら戦うのは戦いの基本だ。だがこの時彼らはそれを引き換えにしなければ勝てないという判断を下す。

 所謂【肉を切らせて骨を断つ】というやつだ。


「覚悟を決めたか? いいぞ受けて立ってやる」


 一旦集合してみせたサイボーグ達。それを見てジェットアッパーは立ち止まり、構えを取ったまま手招きをして迎え撃つと宣言する。

 すでにここまでの攻防で三体のサイボーグが行動不能に陥り残りはちょうど半分の六体。

 その内の一体がジェットアッパーに突っ込んでいく。


「特攻か? だが見え見えだ!」


 突き出された拳を交わしながらジェットアッパーは渾身のカウンターを繰り出す。威力と速度とタイミング。その全てがそろったその拳は機械でできた強固な腹部を貫いた。


「これであと五体! っておい」


 撃破したと思ったジェットアッパーだったのだが、体を穿たれたサイボーグはその手で自分を貫いている腕を掴みそのまま固定されてしまった。


「足止めか!」


 機械化されて力の上がっているサイボーグを振りほどくことは難しく、そして人と同じ形をしているもののその体重は二百キロを超える重さ。抱えたままでは動くことさえ困難だ。

 最も厄介であった速さを封じる為だけに一体を犠牲にする策。

 そしてその隙を待ち構えていた他のサイボーグはジェットアッパーの左右、そして上から三体一斉に襲い掛かってくる。


「右手パージ!」


 ジェットアッパーが声を上げる。そして次の瞬間、大きな破壊音が響く。

 一斉に攻撃に出たサイボーグ達は一様に同じ場所に向かって攻撃した。だがそこに攻撃目標の姿はなく、すぐさま全員が空へを見上げた。


「おしいな。今のはヒヤッとしたぜ。でも俺の方が超すごかった」


 そこには空から襲い掛かってきた一体を逆に仕留めて空に浮いているジェットアッパーの姿があった。

 リンカー。なにかを発現させる覚醒者であり最も幅の広い能力者でもある。

 彼の≪フォースサークル≫は円を作り出し、そこから火性の推進力を生み出すものだ。その力は飛行を可能とし、全てを合わせれば単身で音速の壁すら突き破る。


「さあ続きを始めようか。もっと工夫しろよ。なりふり構わずかかってこい。俺はお前らより強いぜ」


 ジェットアッパーは撃破したサイボーグを放り捨てると、今度は逆に空中からサイボーグに襲い掛かっていく。

 なんとか勝ち筋を計算しようと思考を巡らせて対抗する羅剛。しかしその答えは出ることはなかった。











 武力で奈落街を仕切っている紅虎組。その中において戦闘を任されている者達は誰もが己の力に自信を持っている。その腕っぷしで生き延びてきたし這い上がってきた。

 時に敵対者を打ちのめし、ときに従わないものを屈服させてきた。無法の地において力こと正義で絶対の法だった。だからこそ今まで彼らブラックガードがこの奈落街を支配してきたのだ。

 だがその自信が脆くも崩れ落ちようとしていた。


「一発も当たってないぞ。それでもお前らブラックガードか」


 覚醒者十名。重武装者十五名。武器を持っているものも含めれば総勢五十名を超える大人数がまだ戦力として残っている。だというのにその場はたった一人、キックホッパーによる蹂躙の場になっていた。

 特別なことはしていない。ただ跳ね回りながら通り過ぎさまに蹴りをくらわしていく。ただそれの繰り返し。ただそれがあまりに素早く、そしてピンボールのように不規則に跳ぶために捉えることができない。


「くそっ。このやろう!」


「馬鹿野郎! 撃つんじゃない! 同士討ちになるぞ!」


 しかも彼は大胆不敵に集団の中を飛び回り乱戦に持ち込んでいた。近接戦では追いつけず、銃を撃てば味方に当たる。

 紅虎組組員は数的優位を得ているはずなのに状況は一方的に悪くなっていく。


「死にやがれ!」「くらえボケが!」「オラァ!」


 銃が打てないものの近接戦を得意とする者たちの攻撃は繰り出されていた。しかし複数で同時に襲い掛かってもその全てをかわされてしまっている。

 速度も脅威だが恐るべきはこの混戦で的確な判断を目で確認して行っている所だ。数十名の行動を把握しながらキックホッパーは戦いの場を制している。修羅場を潜り抜けてきた侠客たちが完全に翻弄されていた。


「化け物かこいつ。全員そのまま壁まで下がれ! 隊列を組み直すんだ!」


「銃を撃つのに背後を無くすか。いい判断!」


 数では勝っているが状況が不利だと判断した男が声を上げる。

 ホッパーは指示を出した男に蹴りかかる。その蹴りを両手を十字にして受け止め跳ね返す。その男は紅虎組の傘下組織の頭であり、戦闘員を仕切っていた者でもある。

 その間に銃を持った組員は急いで壁の位置まで下がって一列に並んでいった。


「でも一流なら対策の対策くらい持ってるよ」


 組頭から離れるとほぼ同時に、キックホッパーは腰に備え付けれていた玉を二つ上に投げた。それに向かって跳躍する。


「させるかよ!」


 それを危機と感じ取った組頭はその間に立ちふさがる。飛んでくるキックホッパーを日本刀で切り裂こうとそれを振り下ろした。


「おっと」


 しかしその一振りは空振りに終わる。跳躍して空中にいるキックホッパーは目標に辿り着くまで方向転換も減速できないはず、しかし予測していた位置に彼はいなかった。


「羽根だとぉ!」


 攻撃を外してしまった組頭がホッパーの姿を見返すと、彼の背中から街灯によって薄っすらと輝く半透明の羽根が生えていた。それによって減速してタイミングをずらしたようだ。

 さらに失ったスピードを取り戻すべく組頭の肩を足場にして再び跳躍する。


「俺を踏み台に」


「シュート!」


「伏せろぉ!」


 危機を察知した男が大声をあげた。玉はそれぞれ隊列の左端と右端に飛んでいく。そしてその間には細い紐が結ばれてあった。


「ぎゃあああああああ!」


 男達の叫び声が響き渡る。

 それは並んでいた男たちすべてに引っかかるように飛来し、そして接触した瞬間に紐に電流が流れたのだ。


「もとは獲物を捕らえる時になげるボーラっていう狩猟の投擲物らしいけど、不殺が基本のヒーローには向いてる武器だろ?」


 わざわざ聞こえるように解説するキックホッパー。それを睨みながら無言で聞く組頭と戦闘員達。


「てめえバッタのバリアントか」


 驚異的な脚力。虫特有の半透明な薄い羽根。そこから考えれば答えは簡単だった。

 基本的にヒーロー達は防護スーツや外骨格装甲に身を包んで素肌をほとんど見せていない。もちろん身を守るための防具としての意味がある。さらに逆恨み防止用に正体を隠すという意味と、自分の能力を知られないようにするためという意味もあった。

 バリアントなどの変身能力ならば巨大化しない限り、どういった種類なのかを服越しに見破るのは難しい。

 能力戦において未知というのはとても大きなアドバンテージを生む。


「流石に羽根まで見られたらばれちゃうか。でもそれならもう手加減もいらないか」


 混戦に持ち込み同士討ちを狙ったかと思えば、そろった所で一網打尽。個人の力はもとより戦う上手さにどうしようもない差を残った組員達は感じだしてた。

 というのにキックホッパーは手加減という言葉を吐いた。それを裏付けるように彼の体が一回り大きくなり、それに合わせて防護スーツが伸びていった。


「作戦は失敗した。でもまだ半分残ってる。一矢報いるくらいはしてみせなよブラックガード」


 自分たちのかいている汗が冷たいものに変わっていると自覚しつつも、組員達は己の矜持を振り絞ってキックホッパーへと立ち向かった。

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