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流星deよろしく  作者: 本間 一平
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エピローグ 勝者の利

 エピローグ 勝者の利



 もはや無力化された紅虎組とスクラップと化した羅剛のサイボーグを警察は淡々と収容していく。あまりの人数に護送車は警察署から何度も往復することになってしまう。

 あわてて人員を集めて完全武装で現場に臨んだ警察だったが結果は御覧の惨状。あとは連れて行くぐらいしかやることが残っておらず、改めてヒーローという存在に呆れる羽目になった。

 下っ端たちからすれば危険にさらされずにすんで良かったで済む。だが幹部からすればそれで終わるわけにはいかない。警察とヒーローはブラックガードや犯罪者を捕らえるといった面では協力関係にある。それと同時に領分が重なる商売敵という部分もあった。警察は営利目的ではないので基本ヒーローが出てくればそちらへ譲るのが基本なのだが、警察の威信がかかっている場面では任せっきりは問題があるのだ。

 公僕である警察官にとって実績と信頼はとても大切なものなのだ。今回の顛末は外から見れば自分でしでかした後始末を英雄会に押し付けたように捉えられてしまう。面子丸つぶれである。

 正式に英雄会に抗議しとうとしたのだが、それを特殊課のイタチがなんとかなだめて差し止めた。


「ここはあっしの顔に免じて納めてくだせえ。この一件は元よりこちらの不手際で始まった話。あまり騒ぐと特殊課としても傷口が開いてしまいやす」


 必死の執り成しで抗議の声は止められた。

 だがここでヒーローをを庇ったのはイタチと流星の間で秘密の取引が行われていたからだ。

 流星は事の真相をイタチに明かしてその首謀者を差し出す事を条件に、ヒーローが手を出すことを持ち出した。警察としては自分の手でけじめをつけるのが最良の結末だ。しかし警察を騙した本人とそれを操っていた黒幕が死んでしまう恐れがあると聞かされればそうもいかなかった。なんとしてもその二人は警察で確保しておきたかったのだ。


「今回、紅虎組と刹理を壊滅に追いやった功労者だ。まさか無下にしたりしないよな?」


「…………これが目的でやしたか。また今度なにかあったら呼びますから覚悟しといてくだせえよ」


 一度司法取引を反故にしておいて、しかもそれが警察を組織抗争に利用したとあっては明美は犯罪者として逮捕されてしまう。

 だが事件を解決させた流星が明美のおかげで出来たと言い張れば彼女は協力者になる。警察からすれば司法取引相手に嵌められたなんて事実は隠しておきたい。

 ならば紅虎組の壊滅まで協力していたという事にしておけば言い分としては一番良い。

 警察はその捜査力と戦略によってでブラックガードを二つも壊滅に追い込み、ヒーローはその力を存分に示すことができ、明美は司法取引が成立したとされて保護対象になる。そうなれば自分を守るために母親が監獄送りになって泣いてしまう青年も出ずに済む。

 全方向に万々歳だ。

 もし紅虎組襲撃の件を警察任せにしていたらこんな言い分は通らなかっただろうが、ヒーロー任せにしてしまった手前そのあたりはかなり触れにくくなってしまう。あとはイタチが上層部を説得するだけだ。


「善処する。胃に気を付けて頑張ってくれよ」


「これから徹夜で報告書か……。夜食は粥に決定でさあ」


 深いため息をつきながらイタチは引き上げていった。


「これで万事解決。依頼完了。これにて閉店」


『あいかわらずアクロバティックな着地を決めるな流星』


「あっちに良しむこうに良し俺に良し。みんな笑顔がなによりだろ。ただしブラックガードは除く」


 やっと仕事が終わりユーピーと談笑しているとそこにレッドラワンがやってきた。


「……」


 彼女は声を掛けずに流星の後ろ姿を睨み付けたまま黙って立っていた。

 結局怪我を理由に彼女には作戦の参加が認められなかった。無理にでも出動しようとしたのだが、ランクも上で彼女自身がその実力に一目置いているヒルドライダーに止められてしまい渋々後方待機に甘んじていた。


「認めません……」


「おっ? レッドラワンも来てたのか」


 いつの間にかいた彼女に流星は声を掛けた。だが反応は無く、俯いたまま小さな声で何かを呟いているようだった。


「認めません……私はあなたを断じて認めません! 必ずいつか超えて見せますから覚悟してください!」


 流星を指さし声高らかに宣誓して足早にその場を後にするレッドラワン。

 それを受けて流星は口が半開きになったまま立ち尽くしてしまっていた。


「……なんか悪いことした俺?」


『女心と秋の空。このウルトラスーパーコンピューターユーピーにも分からないことはある』


 なぜ怒らしてしまったのか半日ほど考えたが結局思いつかず。今度会ったら直接聞こうと問題を先送りにした流星だった。

 こうして母親が子を想う気持ちから始まった一連の騒動は幕を閉じ、斗夢少年からの依頼も無事に終わりを迎えたのだった。











 とある大型商業施設。広大な土地に建てられたそれは何度も改修と増設を繰り返し複雑怪奇に入り組んだ魔窟へと変貌していた。表から裏まで多種多様な人物が行きかうその場所では、どんなものでも手に入ると言われているブラックマーケットの頂だ。

 ここは国家ではない。壁の外側のさらに外。人類生存圏ではない場所にそれは存在していた。だというのにそこには賑わいも、そして規律正しさもあった。素晴らしいことではあるがそれが一層この場所の異様さを表している。

 なにせただの商店の集まりである場所が国と同等の機能を果たしているからだ。



 名を【ホウセン】。人はここを金の降る街と呼んでいる。



 そんな施設の最高層にしつらえられた茶室で黒に彼岸花が大きく彩られた着物を着た一人の女性が、客人を正座を少し崩した状態で待っていた。


「お待たせしましたな」


 その待っていた人物が静かに茶室へと入ってくる。それは上下白のスーツ、シルクハットに胸のポケットには赤いハンカチを備えたオズだった。


「おこしやす。ささ、こちらにお座っておくれやす」


 オズが見えると女性は姿勢を正して彼を招き入れる。


「失礼いたします」


 オズが座ると女性は茶をたてだす。ただ静かにその音だけが部屋に響き、やがて出来上がって差し出された茶をオズはゆっくりと頂いていった。


「結構なお手前で」


「どうもおおきに。此度も見事な仕事っぷりどしたね」


「予定通り刹理と紅虎組は壊滅。おまけに羅剛も痛手を負ったのであの奈落街は完全に空白地になりましたな」


「これでしばらくはあそこを取ろうといろんな所が動き出す。当然縄張り争いで衝突が頻発する。そしたら武器も必要になれば金もまた必要になる。武器の卸ししてはった刹理が無くなったらうちのとこに流れてくる客も増える。おまけにいくつかのデータも貰えたし、言う事なしどす」


 口元を着物の袖で隠しながらクツクツと笑う女。


「下部組織の白水郎金融に泣きつかれて始めてみたことでありんしたけど、思いの外美味しい結果になりんしたねぇ」


「あれだけ混迷してしまえばまさか裏でブラックマーケット界の女傑【鳳凰院華銀】が糸を引いてるなど思ってもみないでしょう」


「毎度の事ながら惚れ惚れする腕前どすえ。ほんに騙された男が哀れでありんすね」


「騙したとは心外ですな。ちゃんと願いは叶えて差し上げましたぞ。ただそこから生まれる副産物と結果を教えて差し上げなかっただけです」


「どんな願いも報酬次第で叶えてくれはる夢男。ただし自分は悪魔ゆえに扱いには相応の覚悟が必要とまあ、事前におせえてはくれはりますけどね」


 あなたの願い叶えます、と突然現れその手腕を発揮させるオズ。しかも報酬はその願いが叶った時のみ回収する後払い制だ。しかし自分をしっかり利用できなければ痛い目を見るかもしれないと注意を付けた上での取引だ。


「これでも出来る紳士と評判ですからな」


 そして今回は二つの事を同時に叶えた。門鞍の組の幹部になりたいという願いと華銀が依頼した紅虎組と刹利の共倒れ。それを矛盾することなく実行してみせた。


「自己責任。便利な言葉どすな」


 裏の世界では悪魔の取引と呼ばれ知られている。


「たとえどれだけの権力につこうと、どれだけ群れようと結局最後は自分の足で歩けないようではいつか転ぶものですよ」


「おおこわ。あたしもしっかり足元みて歩かなあきまへんな。どうどす、ええお酒が入ったさかい一杯付き合おりませんか?」


「いいですな。私達の輝かしき未来に乾杯いたしましょう」


 闇に巣食う二人は静かに笑い合う。澄んだ清酒の味は喉が焼けるように辛口ながら味わい深いものであった。











 文明は崩壊寸前。問題は山積みでいつだって危険が隣に座っている。悪が蔓延り、人類は衰退した。だがそれでも人々は光を求めて今日を生きる。

 あの日世界を変えた流星が厄災だったのかそれとも福音だったんかを決めるのはこれからなのだ。

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