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流星deよろしく  作者: 本間 一平
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第十二話 ブラックガード

 第十二話 ブラックガード



 無法の街を支配できるのは武力だけだ。

 話し合いでは、良心に訴えかければ、利をもって交渉すれば治めることができるのではないかと思うだろう。

 だが話す前に弾丸が飛び、良心を見せれば裏切られ、利を説けば奪われる。それが無法者の巣窟である奈落街。理不尽と暴力をねじ伏せることが出来るのは、それを遥かに上回る武力だけなのだ。

 そんな街を仕切っていた紅虎組と刹利の武力は当然高い。今回の騒動で刹利は警察によって壊滅したが、その為に投入された警察官は四百人。さらに軍や英雄会のヒーローからも多数の応援があった。そこまでして全員を逮捕できていない程だ。

 ここまで力を持っていた刹利に紅虎組は匹敵する力を持っている。

 武器商人である刹利と比べれば武装に差はあったがその構成員の数は実に千人を超え、その内の三割は戦闘員というかなりの武闘派組織。

 そんな紅虎組の総本部である大きな屋敷に続々と人が集まって来ていた。

 この激動時代に入ってからではかなり珍しい和風建築の木造家屋。千坪はあろうかという土地の中にデンと建ったそれは、職人の技が玄関から居間までふんだんに振るわれていた。庭も草木は整えられ池に鯉まで飼われ、まさに豪華と言える建物だった。

 そのほとんどが朽ち掛けた建物を修復して使っている奈落街にあるそれは近寄りがたい程の異彩を放っている。

 スキンヘッドにサングラス。顔に傷跡が残る男。手に大きな指輪を何個もつけている者。どいつもこいつもいるだけで回りを威圧する風貌の男達がその屋敷の周りから仲間でそこかしこに立ち並んでいた。個性豊かな面子だがその服装は一律して背広姿で揃えられている。

 そして黒塗りの車が正面門の前に止まるたびに全員が膝に手をついて深々とお辞儀をしてまるで怒号のような挨拶を繰り出す。

 車からは同じように背広の男が何人か降りてきて最後に和服を着た者が下りてくる。

 その様子はまるで儀式の始まりを思わせるものがあった。











 畳の敷かれ金屏風が飾られた大広間。そこには何人かの者が座って待っていた。上座の一段高くされた場所に顔にいくつも傷を持つ厳つい男が一人。その左右に並ぶように三人ずつが真ん中を向いて座っていた。全員が高そうな着物やスーツを着ていた。

 この上座に居る和服を着崩してさらしが見ている男こそ紅虎組組長である虎鉄吟慈である。


「それではまず急の報せに今日ここに集まってくれたことにまず感謝を述べる」


 虎鉄の右側に座っていた男が喋り始めた。


「知ってはいるだろうが数日前に警察の手入れで刹利が半壊した。その事に関する話が今回の議題だ」


 紅虎組最大の商売敵であり障害であった刹利が突如瓦解したのは組織に組みしているもの全てに激震が走る出来事だった。違法取引をしていたとはいえこの奈落街に大規模捜査が入るなど前代未聞の出来事だったのだ。

 小さな抗争やヒーローの介入でまれにお縄につくやつはいたものの組織そのものに影響を及ぼすような事は今まで一度も無い。むしろ同業からの妨害工作のほうが余程警戒すべき事柄だった。


「警察がなぜ動いたのかは疑問ではあるが結果として刹利が潰れた事は喜ばしい。これでこの奈落街で最大の勢力は我々になったわけだ」


 二大トップとして奈落街に君臨していた紅虎組と刹利。その片割れが衰退したのならこれからは紅虎組の天下になる。


「そしてそのことに関して功績を上げたものがいる。入れ」


「門鞍庄司入ります」


 ふすまを開けて和服の礼装に身を包んだ門倉が大広間に入室する。相変わらず派手な金髪が着物と反発しあっているがその態度は実に自信に満ち溢れた堂々としたものだ。

 門鞍はちょうど中央の位置に用意された席に背を伸ばして正座する。


「この騒動の中でこの男は素早く刹利の要所を抑えて縄張りを確保した。その功績を評しこの門鞍庄司を幹部に格上げするものとする」


 男の発表に場が僅かにざわつく。そのほとんどが驚きをもって門鞍の顔を見ていた。


「待ってくだせえオジキ! こいつはまだ顔も売れてない新参者ですぜ。それをいきなり幹部に上げるのは急ぎすぎじゃありませんかね」


 座っていた中の一人が反発の声をあげる。その男を見ながら虎鉄組長が話し出す。


「確かにこいつらのとこがウチの傘下に入ってまだ二年と経ってねえ。だがこいつらは刹利の縄張りの実に三割を分捕ってきた。俺等が総出で慌ててとった分と同じくらいの仕事をこいつらは単独でやってみせた。その力量を評価できないなら俺等はなんだ? 能無しもいいところじゃないのか?」


「そ、それは……」


 組長の言い分に男は言いよどむ。

 今回あった警察の一斉検挙は紅虎組にとって寝耳に水の出来事だった。そして他人事でもなかった。もしかしたらこちらに飛び火してくるのではないかという考えが先に走ってしまう。ゆえに騒動が収まったのを見計らってから動くというのが常識的行動だ。

 しかし門鞍は騒動の最中に動き、刹利の拠点を五つ制圧してその周辺の縄張りを確保してみせた。一歩間違えれば刹利に巻き込まれて逮捕されない行いだが門鞍達はやってみせたのだ。

 もちろんこれはこの騒動自体が門鞍の暗躍によって起こされたからこそ出来た芸当だ。


「組長。今回俺は運がよかったに過ぎません。前から隙あれば襲ってやろうと思っていた刹利の拠点を知っていた。警察の動きを見てすぐにそこを押さえた。そしてそこにいた野郎を締めたら他の拠点を吐いた。あとは勢いのままに。運と時勢がよかっただけで実力なんてまだまだのひよっこの新参者に間違いはありません」


 まったくもってらしくない謙虚なことを言う門鞍。


「バカ野郎。運と時勢を見分ける目が重要なんだろうが。褒美は素直に受け取っとけ。俺に恥かかせる気か」


 虎鉄が視線でなにかを合図を送る。するとさっきまで取り仕切っていた男が二度手を叩いてなにかを呼んだ。

 開けると庭が見える縁側の方のふすまが開き、朱色の大きな盃が運び込まれる。

 それぞれ座っていた男達の前に一つずつ置かれ酒が注がれていく。


「結果が全て! それが紅虎組の不文律だ! ならばでかい結果を残したこの門鞍は幹部に相応しいと俺が認めた。ならあとは新しい兄弟の誕生を祝ってやるのが兄貴分だろう」


 声を張り上げ全員の目を見てにやりと笑う虎鉄組長。


「飲め」


 それぞれが朱色の盃を飲み干す。門鞍にはふた周りは大きな盃だったがそれも一気に飲んでみせる。


「目の前に座ってやがった邪魔な野郎は消えた。新しい兄弟が出来た。これから紅虎組は躍進する。ハッハッハ愉快じゃねえか!」


 酒も入りこれからの事を考えると楽しくなったのか虎鉄は一気に上機嫌だ。

 そして門鞍はその場で頭を下げて口上を述べだした。


「非才の身でありますが、粉骨砕身励んでいきますのでどうかお力添えよろしくお願いします」


 新参者の成り上がりと門鞍を思っていた幹部連中は、その様子を見てその身を弁えてるじゃないかと見直し出していた。

 だが頭を下げて見えなくなっている門鞍の表情は悪意に染まった顔をしていた。


(お前らを全部踏み台にして、最後にはこの組ごともらってやるよ。この俺の為に役立つんだありがたく思えよ。それにはまず幹部としての格をあげないとな)


 幹部は幹部で力の上下関係はある。今入ってきたばかりでグループとしてもまだ力のない門鞍は幹部七人の中でおそらく最下位に位置するだろう。

 時間をかけ少しづつ積み上げて地位を向上させていくものなのだが、門鞍にそんな考えは一切なかった。

 不意に建物が揺れ身体に振動が伝わるほどの爆発音が響き渡る。


「何事じゃあ!」


 一人の幹部が素早くふすまを開けて庭から外を見渡す。


「カ、カチコミです!」


 全員が報告に来た下っ端を見る中、頭を上げた門鞍の顔はまだ薄ら笑いを浮かべたままだった。











 紅虎組の幹部会は月に一度必ず行われる。今回は緊急招集された例外ではあるが手慣れた組員にとっては違いのあるものではない。

 ブラックガードは不法地帯に生きるならず者だ。だが彼らもまた日々危険に晒されている。紅虎組のように地域を仕切っているようなところはその利潤を狙って襲ってくる輩も少なくない。最大の商売敵であった刹利とは何度も抗争を繰り返してきていた。

 そんな中で最も危険があるのがこの幹部会だ。組織の中心人物が揃うこの日を狙って襲えば一撃で致命傷を負わせる事が出来る。

 だからこそ武闘派の組員のほとんどがこの会に駆り出されて防衛に勤めている。

 その為の決まりや役割りがあり、その一つが警戒網だ。

 屋敷そのものを守るのはもちろんだが、それに繋がる道を見張って外敵を事前に排除する為のモノ。巡回している者も含めればこれだけに五十人は割いている。

 なにせ早く敵を察知できれば出来るほど対処の方法は格段に増えるし余裕も生まれる。上手くいけば襲撃される前に処理する事も可能だ。

 だがこの日その警戒網は空を切り裂く鉄柱によって無残にも破られた。











 屋敷の前に停められて車が突如炎上した。何事か理解できなかった周りを警備している組員たちがそれを呆然と眺める。するとさらに何かが飛来して他の車がまた爆発する。

 黒い煙を出して燃え上がるその車にはその幅と同じくらいの鋼鉄の柱が突き刺さっていた。


「ミ、ミサイル?」


 形状からしてやや太めだが大型のミサイルだ。それが三発飛んできて三発とも不発で車に突き刺さった。

 何が起こっているのか何の意味があるのか分からないと組員が見つめていると、そのミサイルの外壁が吹き飛ぶ。

 そして煙の中から人影が飛び出し地面に着地した。それだけで地面は割れ振動を周りに伝えた。

 迷彩のズボンに緑色なタンクトップのシャツ。そして目には一部がたまに光るバイザーを装備したかなり筋肉質な肉体を持った男。

 一発につき四人。合計十二人の全く同じ姿同じ顔の男達が現れた。


「敵襲ぅ!」


 それを見た男達は叫びを挙げてそれぞれの武器を振りかざした。

 あるものは拳銃を、あるものは散弾銃を、あるものはアサルトライフルを思い思いにぶっぱなす。その音に引き寄せられてさらに多くの組員が集まってきて弾幕はより苛烈になっていく。

 当たっている。だがまるで意に介さないまま現れた十二人は立ち尽くしたままだった。


『目標、敵勢力の殲滅。オーダー承認』


 そしてその一人が呟き。


『オーダー承認』


 他十一人が承服すると地面を蹴り割って一斉に動き出した。

 ただのパンチ。だがそれがカスった銃はバラバラに壊れ、直撃した者は屋敷の外壁にまで吹き飛ばされ、その衝撃は人の形を引きちぎった。

 それが十二箇所同時に行われた。無残な光景がそこかしこで巻き起こる。応戦しようと手を出せしたものから順にその脅威が迫り、あっけなく散っていく。

 そんな虐殺の現場に何者かが塀を飛び越えて現れる。


「ドラァ!」


 他で警備をしていた紅虎組の組員が応援に駆けつけ、日本刀を敵へと振り下ろす。バイザーの男はそれを右腕で止めてみせた。


「一センチも進まねえか」


 特殊な素材で作ったその日本刀は鉄であったとしても切り裂ける性能があった。そしてそれを振るった男も実力者だ。それでも刃が通らない。


「覚醒者と防護スーツ着てるやつ以外下がれ! こいつらサイボーグだ!」


 一瞬のどよめきはしたがすぐさま立て直した男達は後退していく。

 機械化人間。

 立ち向かおうと集まりだした腕利きの者や覚醒者達。だが襲撃者はそれを無視して下がるものを追撃をするために突撃を始める。

 まだ十二体全員を止めれるだけの面子が集まっていない紅虎組はその半分の突破を許してしまう。


「くそっ!」


 ただの武装程度ではただなぶり殺されるしかない。サイボーグとただの銃を持った者では大人と赤ん坊並の差がある。これから起こる凄惨な光景を思い浮かべ、そこにいた者の身体に力が入る。

 だがその危機は寸前で撃ち落とされた。

 勢い良く落とされたその足には見事に大穴が空いていた。撃たれた襲撃者側、守られた紅虎組がそれを行った者がいるであろう方向に揃って視線を向けたその先。

 最新兵器、四足機動戦車が立ち並んでいた。











「サイボーグだと?」


 報告を受けた幹部が驚きの声をあげる。

 襲撃者は十二名で全員が完全機械化したサイボーグ兵であると言うのだ。それを聞いて現実に起こっているはずなのに本当かと疑う気持ちが湧き上がってしまった。

 なにせ機械化兵は高価だ。それもとんでもなく。体の一部を機械にした者なら刹利にもいたし紅虎組の中にも存在する。

 だがそれとは一線を画す技術力と金がかかる。もしも紅虎組でサイボーグを十二体揃えようとすれば資産のほとんどを使い果たすことになるだろう。

 そんなものを投入してくる敵。それを考えれば考えるほど思考が混乱していった。


「ああ、予定通りにやれ」


 慌てる幹部たちの後ろで静かに門鞍は電話をかけていた。


「みなさん落ち着いて下さい。こんなこともあろうかと準備はしておいたので」


「なんだと?」


 部屋から外を見ていたり部下に指示を飛ばしていた幹部たちが門鞍の言葉に一斉に振り返る。


「てめえ今日襲撃があるって分かってたのか」


「いえ、あるかもしれない。そう思っていただけですよ。混乱の最中にある奈落街を狙う勢力が来るかもしれない。警察が勢いに乗ってこちらに矛を向けるかもしれない。刹利の残党が逆恨みして来るかもしれない。もしもの話だが襲うなら今日ほど絶好の機会はないでしょ。だから伏せといたんですよ。とっておきの機動戦車をね」


「そんなもんお前が持ってるわけないだ……いや刹利か」


 声を上げかけた幹部はそれを手に入れられる可能性に思い至った。

 機動戦車は最近開発されたばかりの最新兵器だ。その値段はサイボーグよりもさらに上を行く。とてもではないが幹部になったとはいえチンピラ同然の門鞍一派が買えるような代物ではない。


「ご名答です。元々俺が狙ってた刹利の拠点は兵器を作ってた隠し工場でね。そこであいつらは戦車を作ってたわけですよ」


 どうやってかは分からないが刹利は機動戦車のデータを手に入れ、そこから独自に作り上げようとしていたようだ。

 正規品にはさすがに劣るだろうが、それでもきちんと動く物を作り上げた。もし戦車の生産が順調に進んでいれば紅虎組は簡単に潰されていただろう。


「本当は幹部会が終わるころに組長に上納しようと思ってましたが、致し方ないというやつでしょ?」


 そこまで言って門鞍は着物の上を脱ぎ捨てた。すると見る見るその体が毛深くなっていく。


「それでは俺はこれから指揮を取りに行きます。サンボーグなんぞ見事に粉砕して見せますよ」


 言うだけ言って門鞍は庭に飛び出して、バリアントの力を振るって駆け出した。


「ハッハッハいい度胸してるな門鞍は。さあお前ら後輩がここまでしてるんだ。気合入れて見せろよ」


「ヘイ!」


 幹部達は内心で門鞍の生意気さに舌打ちし、そして焦燥感に駆られる。自分たちは果たして戦車を使う以上の成果を出せるのかと。

 でなければこの抗争において新参者よりも自分達は役立たずになる。幹部達は苛立ちで奥歯を噛み締めながら動き出した。

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