第4話 教授と刑事、ソーダと僕
九月になって、教授の家に刑事がやってきた。
教授の怪我はすっかり治っていた。
以前来た二人だ。
応接室に通された二人は、出された紅茶を啜った。
「狭間が起訴されることは確実でしょう」
若い方の刑事が言った。
「有罪にはなるんですか?」
教授が聞いた。
「起訴されれば、おそらく」
教授はソーダの方を見た。
「良かったね」
ソーダは曖昧な笑みを見せた。
「宗田君の証言のおかげで、早く容疑が固まりました。
トランクにすぐ辿り着けたのは良かったです」
若い刑事は続ける。
「狭間はかなり卑怯なやつでした。
事件当日、宗田君の家から学校に欠席の連絡があったと嘘をついていました」
教授が「ああ……」とため息を吐いた。
「それと……動機、なんですが……」
切り出した若い刑事の歯切れが悪い。
何かを察した教授が、僕を見て言った。
「吉田君、宗田君と展示室に行っておいてくれませんか?」
「わかりました。 ソーダ、行こう」
僕たちは素直に部屋を出た。
教授に見送られる。
一旦は展示室に来たが、ボソボソと話し声が聞こえるようになってから、そっと応接室の隣の部屋に移動した。
壁をすり抜けて、一足早く到着していたソーダと一緒に耳をそばだてる。
「どういうことですか?」
教授の声が聞こえた。
「狭間は保健室の先生が好きだったようです」
若い刑事の声。
「それで、その先生の態度が変わったのが、宗田君のせいだと? 飛躍していますよ」
「お気持ちはわかります」
「宗田君は、狭間からされる仕打ちを相談していただけでしょう? 狭間の自業自得じゃないですか」
「おっしゃる通りです」
「事件の犯人というものは、往々にして身勝手ですよ」
年上の刑事が口を挟んだ。
何かを叩きつける音がした。
若い刑事の声が続く。
「……保健室の先生に食事の誘いを断られたことに腹を立てた逆恨み、を、我々は直接の動機としました」
「そんな……」
教授の声。
沈黙が流れた。
僕たちはそっと展示室に戻った。
「狭間先生に何されてたの?」
僕が聞くとソーダは肩をすくめた。
「当たられてたんだ」
「どんなふうに?」
「拾おうとしたボールを蹴られたり」
「は?」
驚きすぎて、言葉が紡げない。
「あと、狭間先生が顧問の部活のやつも、のっかっていじってきてて」
なんでもないような口調だが、辛かったであろうことは想像に難くない。
……全然気が付かなかった。
「なんでそんなことしたんだろう……」
僕の呟きをソーダは引き取った。
「わからない」
僕たちの間にも、沈黙が流れた。
「最低だな、あいつ」
名前を呼ぶのもおぞましかった。
ソーダが笑った。
「応接室、どうなってるかな」
ソーダが入り口の方を見やる。
「迎えが来るまで待とう」
僕が言うと、ソーダは眉尾を下げて目を細めた。
大分経ってから、教授が顔を覗かせた。
「刑事さんたち、帰るって」
僕たちは二人の刑事に挨拶した。
「……この度は、辛かったね」
若い刑事がソーダに声をかける。
ソーダはこうべを垂れた。
「有罪にするから」
ソーダの肩に伸ばした若い刑事の手は、その体をすり抜けた。
手が、跳ねるように引かれた。
「ご報告、ありがとうございました」
教授が言った。
「いいえ、では」
そうして、二人の刑事は帰って行った。
日が暮れていた。
「吉田君も、もう帰りなさい」
教授が言った。
僕は受付の内側に置いていた荷物をまとめた。
「またおいで」
教授の声に、僕は教授の家を後にした。




