第2話 刑事とソーダ
教授の家にはその日のうちに、刑事が二人来た。
「宗田君、来てください」
教授が呼ぶと、ソーダは壁をすり抜けて来た。
これ以上ないパフォーマンスだ。
二人の刑事は度肝を抜かれたようだ。
教授はソーダに椅子を勧めた。
「あ、座れるんですね」
若い方の刑事が言った。
年上の刑事は立ち上がって壁を調べている。
「それで、犯人を見たそうですが」
若い刑事が切り出した。
年上の刑事が椅子に戻った。
「はい。 体育の狭間先生でした」
ソーダは澱みなく答えた。
「おい」
年上の刑事が若い刑事に声をかける。
若い刑事ははっとして、メモを取った。
「それで……」
「登校中、いきなり袋を被せられました」
刑事が二人とも身を乗り出した。
「体も、顔らへんを抑えられて、殺すぞって言われて、怖かったです」
二人は椅子に戻った。
「抵抗はした?」
年上の刑事が聞いた。
「したけど、びっくりして……あと、押さえつけられてて……」
ソーダは華奢だし、背が低い。
反対に、狭間先生は190cmに届くかというほどの大男だった。
「それで、どこか高さがあるところに転がされて。
バタンって音と、上から風が来たので、車のトランクだと思いました」
沈黙が流れた。
言葉を発しない刑事たちを伺うようにしながら、ソーダは続けた。
「すぐ出してもらえるかと思ったら、そうではなくて」
若い刑事が唾を飲み込むのがわかった。
「暑くて、だんだん辛くなってきて」
周りの反応が思ったのと違ったのか、憮然とした様子で、ソーダは慎重に話している。
「気付いたら、死んでました」
ため息が重なった。
たまらず、と言った様子で若い刑事が口を開いた。
「自分が死んだのは、分かったんですか?」
「おい」
年上の刑事が低い声を出した。
ソーダはこともなげに続ける。
「はい。 体を起こしたら、トランクのフタをすり抜けたので」
「ははあ」
若い刑事は感心したように頷いて腕を組んだ。
「それでどうしたんですか?」
「ちょっと周りを歩いて、またトランクに戻りました」
「それはなんで」
「見つかったらマズイような気がしたんです」
「それで?」
「トランクの中で何ができるか試してました」
「……何ができるかわかりましたか?」
「おい」
年上の刑事が再び低い声を出した。
「透明になれることと、すり抜けたりするのは、自分の意思でできることです」
「なるほど。 透明になってもらえますか?」
「おい」
ソーダの体が透けていって見えなくなった。
「おおー」
若い刑事だけでなく、教授と僕も声を上げた。
年上の刑事も目を見張っている。
ソーダは、若い刑事の隣から姿を現した。
「おおー」
再び三人から声が上がる。
「悪いことはできませんね」
教授が言った。
年上の刑事が睨む。
悪いことってなんだろうか。
「それで、その後は?」
「透明になれることがわかった後は、狭間先生を観察しました」
二人の刑事の目が鋭くなった。
「狭間先生は何を?」
「いつも通りみたいに、学校で過ごしていました。 授業もやっていたし。 給食も食べていました」
ソーダは刑事に用意された紅茶に目をやった。
「それで?」
「狭間先生が仕事を終えて職員室を出るのと同じにトランクに戻りました」
「はい」
「車が動いて、トランクが開いて、狭間先生が僕の体を林に捨てました」
「ううん」
年上の刑事がうなった。
「目撃者はいましたか?」
「見ていません」
「ええと?」
「いなかったと思います」
「そうですか」
若い刑事は大きく息を吐いた。
「有力な情報ですが、証言者が問題ですね。
どうします?」
「ううーん」
年上の刑事は渋い顔をしている。
「とりあえず、トランクを調べてみるか?」
「令状は?」
「そうなんだよな……」
「私が目撃者になりましょうか?」
教授が言った。
「家の窓から、林が見えますし」
「ううーん」
年上の刑事は唸ってばかりだ。
「調書作っときますか?」
若い刑事が言った。
「そうだな」
「じゃあ、失礼して」
若い刑事がバインダーを取り出して、書類を書き始めた。
しばらくして書き終えた若い刑事がソーダに書類を渡した。
「内容の確認をしてください」
僕も後ろから覗いた。
読み終えたソーダは頷いた。
「確認印、どうします?」
「うーん、まあ、オレがしておく」
年上の刑事が印を押した。
「では、以上になります」
そうして二人の刑事は帰っていった。




