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観覧車

 僕はリリィを商店街へと連れ出した。

 街で一番大きな場所で、その先の綺麗な商業施設の屋上には、観覧車がついていたりする。

 そのせいもあってか、商店街自体は大して盛り上がりを見せてはいない。

 なんでも、来年には閉まってしまうのではないかともっぱらの噂である。

 

 古びた看板は、何年も修理されないまま。

 いまだに木造の店が立ち並び、働いている人たちも若い人はほとんどいない。

 時代に取り残されているとはこのことだ。

 

 「おっ!優斗!今日も学校サボってんのかー」

 

 店番中の八百屋のおじさんが、僕に話しかけてきた。

 いつも明るくて、ノーテンキな言葉をかけてくる。

 よく賞味期限ギリギリの野菜をプレゼントしてくれて、お金のない僕にとっては、とても助かる。

 

 「今日は休みだからいいんだよ」と返すと

 「お前いつもそんなこと言ってんなー」とおじさんは笑った。

 

 それを聞きつけた奥さんが出てきて、おじさんを引っ叩いていた。

 いつもこんな感じの仲のいい夫婦だ。

 

 その後も、商店街の人たちは、僕に気づくと、話しかけてきた。世間話を聞かされたり、愚痴を聞かされたり、持ってけって言って串団子を三本くれたり。

 

 「結構人気じゃん」


 リリィはそう僕を茶化す。

 

 「みんなに優しいんだよ」

 

 「照れちゃってさー」

 

 「でも、ここの人たちのこと、僕は好きかな」

 

 「人間の愛ってやつだね」

 

 「なんかちょっと違う気もするけど?」

 

 「似たようなものだよ」

 

 納得はいかなかったけど、強く否定もしなかった。

 リリィは商店街の景色を楽しそうにしていたし、誰にも見られないようにこっそり食べさせた串団子にも満足していた。味はもちろん分かっていなかったけどね。

 

 「あれ、乗ってみたい」

 

 リリィは観覧車を指差していた。

 

 僕はあまりあの観覧車が好きではなかった。

 この商店街を終わらせる象徴のような気がして。

 でも、リリィの願いを断る理由もない。

  

 僕は素直に頷くと、観覧車へと向かった。

 

 商店街と似たような店ばかり並べられた商業施設を登る。

 エレベーターは丁度混んでいるようだったけど、ギリギリ乗れた。

 リリィは「ひゃあー窮屈だねー」なんて言っていたが、他のお客さんたちからすると、リリィは見えていないはずで、リリィが立っている場所は空白のスペースが出来ているはずだ。それなのに、不思議と誰もそれを気にしていなかった。

 

 次々とみんな降りていき、屋上に着く頃には、すでに僕たち二人だけになっていた。

 

 エレベーターが開くと、スタッフの人が暇そうに仕事をしていた。

 僕に気づくと、慌てて「ようこそー」なんて言ってた。

 

 料金所に付き、僕が二人分支払うと、慌てて止められた。

 僕が一言「いいんです」と言うと、困った様子だったけど、それ以上は何も言わなかった。めんどくさい奴が来た。それくらいに思ったのだろう。

 

 すぐにゴンドラが回ってくると、リリィは「お先!」と飛び乗った。

 僕もすぐに後を追って、同じゴンドラに乗った。

 

 僕たちは向かい合って座った。

 リリィは段々と広がっていく景色に、目を輝かせている。

 

 「そういえば、死神って飛べるんじゃないの?こんな景色珍しくないんじゃない?」

 

 「そういう死神もいるけど、私の場合は飛ぶっていうより浮かぶ、かな。あんまり高くは無理。頑張ってビルの二階ぐらいまで」

 

 「充分凄いけど。でも、じゃあどうやって移動してるの?」

 

 「目標の人を決めて、ワープ!って感じかな」

 

 「ワープ!?」

 

 「ほら、こうやって」

 

 するとリリィは、姿を消した。

 

 次の瞬間、リリィは僕の横に現れた。

 

 顔をこれでもかと近づけ、僕を驚かせた。

 

 「うわぁぁぁああああ!!!!」

 

 情けなく声を上げる僕。

 リリィはそれを見て愉快に笑っている。

 

 「ははは。ほんとキミってビビリだね」

 

 「いやだって、そりゃそ……」


 突然のことだった。

 リリィは僕に、キスをした。

 

 それは、初めての僕でも分かるぐらいに体温のないキス。

 でもそんなことどうでもよかった。

 

 他の全ての雑音が聞こえなくなるほどに高鳴る心臓。

 急ブレーキを踏まれたように自由の利かない体。

 外の景色も、これからのことも、何も考えられないぐらいに思考を止めた脳。

 

 そんな、永遠にも似た一瞬の間で、僕は分かった。

 

 もうすぐ、リリィは消える。

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