理由
「ねえ、家連れってよ」
「やだよ」
「ほら、早くして」
「だからやだって」
「キミの家なんて、簡単に見つけれるんだからね。今すぐ行ってメチャクチャになっちゃっても知らないよ?」
「勘弁して」
僕たちは、自宅へと向かった。
公園を出て、坂道を下って、旧校舎を無視して十分ほどの場所にある小さなアパートの二階。その端っこにあるのが僕の部屋だ。
僕がドアを開けると、リリィは靴も脱がずに部屋へと上がった。
「靴は脱いでよ」
「あーそうだそうだ。そういうのあるんだった。忘れてた」
リリィは玄関へ引き返し靴を脱ぐと、再び戻った。
「ふーん。結構綺麗にしてんじゃん」
「何もないだけだよ」
ベッドと古いノートパソコンが置いてあるだけの小さな部屋だ。
僕にとっては特に何もないいつもの光景だけど、リリィは楽しそうにベッドへと飛び込んだ。
「ずっと寝てみたかったんだよね。ほら、リリィもずっとベッドで寝てたから、どんな気持ちなんだろうって」
「ふーん。っで?感想は?」
「思ってたよりちょっと固い」
「まあ病院のベッドと比べたらね」
僕は床に座った。
夜中から起きてたこともあって、少し眠たい。
僕は油断して、小さくあくびをした。
それに気付いたリリィは、悪い顔でこちらを見つめている。
「一緒に寝る?」
「やだ」
「ふーんじゃあ一人で寝よっと」
リリィは不貞腐れたように布団の中へと潜り込んでいった。
僕はなんとなくパソコンを開いて、起動した。
「家族 復縁 出来ない」
「妹 別の親」
「学校 辞める」
「飛び降り 痛い」
改めて見ると、ひどい検索履歴が並んでいる。
一つ一つ消していった。
こんなことで問題が解決するわけじゃないけど、今だけは深く考えたくもなかった。
「なーにやってんの?」
「ん?って……うわぁあああ……」
夢中になっていたせいで、リリィの接近に気づかなかった。画面は多分、見られてはいない。
リリィは適当にキーボードを叩き始めると「これ、パソコンってやつでしょ?何が出来るの?」と言った。
僕は必死にリリィからパソコンを遠ざけた。
「やめろって!壊れちゃうだろ!」
「こんなんで壊れちゃうなんて、パソコンって繊細なんだね」
「古いやつだからすぐフリーズするんだよ」
「じゃあ新しいのにすれば?」
「前の父さんからもらったんだよ」
「あーまた複雑ってやつだ」
「これは割と単純だろ」
僕は急いで画面をショート動画サイトに切り替えた。
適当にスクロールしていくと、リリィは興味深そうに覗き込んだ。
「ほら、今はこういうのを見たりするんだよ」
「へー人はこうやって他人の生活を監視してるんだね」
「監視じゃないよ。自分から発信してるんだよ」
「え?なんで?」
「みんな、自分を知ってもらって、誰かと繋がりたいんだよ」
「なるほどね。死神とは違うね」
「死神はどうなの?」
「私たちはほとんど別の死神に干渉しない。みんな考え方も違うし、会ったりなんかしちゃったら殺し合いになっちゃうよ」
「恐すぎでしょ」
「そう?人だってすぐ揉めるでしょ?一緒だよ」
「んー……あんまり否定は出来ないな」
「だからこうやって繋がろうとするなんて……人間って面白いね」
リリィはクスリと笑うと、徐々に色んな動画に夢中になっていったようで、次第に自らスクロールするようになっていった。
「うーん。これは面白く無いなー」とか、「ははは、この人やば!」とか、まるで普通の女の子のように、楽しんでいた。
ただ、僕は気付いてしまった。
リリィの体がさっきよりも薄くなっていることに。
触れようとしてもそのまま通り抜けてしまいそうな、そんな不安定な存在に、リリィはなりつつあった。
「そろそろいこっか」
「えー今いいところなのにー」
「他にも見せたいものがあるんだ」
「じゃあ行く」
ドアを開けた瞬間、太陽の光が差し込んできて、二人で目を細めた。




