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閑話1 魅了の微笑1

 ◆庇護欲を駆り立てるギフト◆


 リリアナの友だちは、母親の手をぎゅっと握りながら笑っていた。


「リリアナちゃん、またねー!」

「うん、また明日ねー!」


「お母さん、今夜のご飯はなーに?」


 無邪気な声が夕暮れの道に弾む。母親は優しく笑い、娘の頭を撫でながら家路へと歩いていく。

 二人の背中は寄り添うように並び、夕日の中でひとつの影になって揺れていた。


 その光景を、リリアナは立ち止まって見つめていた。 胸の奥が、きゅうっと痛む。


「……私にも、お母さんがいたら」


 ぽつりと漏れた言葉は、風にさらわれて消えていく。

 すぐにリリアナは首を振った。


「いけない。私にはおばあちゃんがいるんだから、そんなこと思っちゃダメ」


 そう言い聞かせても、心の奥に沈む寂しさは消えない。

 明日はフローネからギフトを授かる日だというのに、胸は重かった。


「でも……なんでも願いが叶うなら……お父さんとお母さんが、欲しいな」


 その願いを振り払うように、リリアナはぎゅっと拳を握った。



 そして翌日――。


「リリアナが授かったギフトは……【魅了の微笑(おじさんキラー)】……いえ、【魅了の微笑(まがつえみ)】です」


 フローネの声が静かに響いた。


 その瞬間、リリアナの胸はぱっと明るくなった。

 自分にも“特別な力”が宿ったのだと思うと、体の奥が熱くなる。ずっと憧れていた“ギフト持ち”の仲間入り。昨日の寂しさなんて吹き飛ぶほどの喜びだった。


「みんな私の魅力にひれ伏せ!【魅了の微笑(まがつえみ)】!!」


 決めポーズも完璧。これで何かすごいことが起こるはず――そう信じて、リリアナは目をきらきらさせていた。

 ……が。


 何も起こらなかった。

 風も光も、歓声もない。周りの子たちはぽかんとしたまま、ただ見ているだけ。


「も、もういいっ!」

 リリアナは顔を真っ赤にして、くるっと背を向けた。


 そのまま小走りで家に引っ込み、扉を閉めると、リリアナは頬をふくらませてつぶやいた。


「なんなのよもう……ギフトってもっと、こう……ドーン!ってなるやつじゃないの……?」


 期待していた“劇的な変化”がなかったことに、ただただ不満と照れが混ざった気持ちが残った。



 ◆ハロルドにモテ期?◆


 翌日、ラホ村の入り口にはハロルドとドーラの二人が立っていた。

 ドーラは村の青年で、腕っぷしの強さからハロルドと共に村の守衛を任されていた。


 いつものようにリリアナが薬草採りに村の外へ行くため、二人に声をかける。


「おはよぉ、ハロルドさん。今日もかっこいいね!」


 軽い挨拶のつもりだったが、ハロルドはリリアナの言葉に思いのほか反応した。

「そっそうか? ちょっと髪型を変えたんだよ!」


リリアナは一瞬まばたきをして、苦笑いを浮かべた。

「え?やだなぁ。ちょっとした冗談だよ。もう」


「え?あっそっそうだよな」

 ハロルドは慌てて笑い、ドーラが横で小さくため息をついた。

 そして気を取り直すと、真面目な顔でリリアナへ注意を促した。


「リリアナ、村の外は危ない魔物やロ〇コンの野盗がうじゃうじゃいるぞ」


 リリアナは肩をすくめ、"今日はやたらと心配するなぁ"などと思った。


「もうハロルドさんったら、魔物は紫粒玉が実っているし、ロ〇コン野郎たちはあれ以来村に近づいて来てないよ、大丈夫だってば」


 軽く笑ってそう言うと、リリアナは手を振り、村の近くの草原へ薬草採りに向かった。


「リリアナちゃんもすっかり大きくなったなぁ」

「貴様!“大きくなった”とはリリアナのどこを見て言っているんだ!」

 ハロルドが唐突にドーラの胸倉を掴んで詰め寄った。


「おいおい、落ち着けって。普通に成長したって意味だろうが。お前こそ何を想像してるんだよ」

 ドーラが呆れた声でなだめると、ハロルドはハッとしたように手を離した。

 

「すっすまん……」

「いいってことよ、それより親がいなくても子供はちゃんと育つんだな」

「貴様!“ちゃんと育つ”とはリリアナのどこが育っているというのだ!」

「ハロルド、いい加減にしろ!」

 再び胸倉を掴んできたハロルドの腕を、ドーラが逆にひねり上げた。

「いってぇぇぇ!?」


「お前の過保護は度を越してるんだよ! 落ち着け!」

 ドーラは深いため息をついた。



 ◆アーマースピナーの子供◆


 そんな二人のところにリリアナが戻って来た。薬草を摘み終わったにしてはまだ早い。


「リリアナ、どうしたんだ?もしかして俺に会いたくなって早く帰って来たのかな?」

「ハロルドさん、きもい!」


 ぐはっ! ハロルドが吐血した。

 リリアナの容赦のない言葉に村の力自慢と言われる男が、膝から崩れ落ちた。


「……お前、ほんとに情けねぇな」

 ドーラが呆れた声でつぶやく。


「あのロ〇コンは無視していいからね。それでリリアナちゃんはどうしたのかな?」

「んーと、森に入ったところに、この子が倒れていたの」


 リリアナが胸に抱き上げて見せてくれたのは、まだ幼い小さな魔物だった。

 その魔物は背中一面を硬い甲羅に覆われており、まるで小さな鎧をまとっているかのように身を守っている。最大の特徴は、敵に遭遇すると素早く体を丸め、球状になって防御態勢を取ることだ。

 目は小さく視力もあまり良くないが、そのぶん嗅覚が鋭く、外敵の気配には誰よりも早く反応する。


「キューー!?」

「かわいいでしょ??」

「アーマースピナーの子供じゃねーか」

 リリアナの胸の中で暴れている魔物をみて、ドーラが魔物の名前を言い当てた。


「アーマースピナー?」

「凄く臆病な奴でね、敵から攻撃を受けると丸くなってしまうんだ。丸くなったこいつはすっごく固くて冒険者でも丸まったこいつを倒すのは至難の業なんだぜ」

「へぇ、お前、すごいんだねぇ」

 ドーラの説明を聞いてリリアナが、抱き抱えたアーマースピナーの子供をみてニッコリとほほ笑んだ。


「貴様!!リリアナの膨らみかけた胸に顔をうずめて……なんて苛やましい…」

「ドーラさん、そのゴミを森に捨てて来て」

「おう、任せろ。逃げないように縄で縛って森に捨てて来るわ」


 そう言うとドーラは、暴れるハロルドの襟首を片手でつまみ上げ、そのまま村の外へずるずると引きずっていった。

 ハロルドは足をバタつかせながら、哀れな家畜のようにドナドナされていった。


「汚物は消毒だーー!!」

 森の方へ消えていくドーラの叫びが、村にこだました。

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