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38話 ラホ村、防衛戦線2

 ◆アラン無双◆ 


 迷路の入口が、地響きとともに揺れた。


 ――ドンッ!


 最初に突っ込んできたのは、足の速いアーマースピア。 槍のように尖った前脚で石壁を叩き割ろうとしながら、一直線に通路へ侵入してくる。


「来たね……」


 アランは迷路の最奥、細い通路の前で静かに構えた。 通路は魔物一体がやっと通れる幅。横に並ぶことも、避けることもできない。


 アーマースピアが曲がり角を抜けた瞬間――。


「――遅い」


 アランが上段に構え、刃を振り下ろした。


 次の瞬間、アーマースピアの首が斜めに落ち、巨体が前のめりに崩れた。

 アランはすでに次のアーマースピアに切りかかっていた。


 リックのギフト【剣豪けんごう】──炎属性のそれは、攻撃力を上げる。 アランはその力をまとい、通路にひしめくアーマースピアを次々と一刀で倒していく。


「坊ちゃん、ギフトを貸してくれって……そりゃあんまりですよ」

「ごめんごめん。でも、たまには僕もこう……ズバッと活躍したかったんだよね」

「それならラピスさんのギフト借りればいいでしょう。あの人のなら、もっと派手に──」


 しかし、アランは真面目な顔で答えた。


「でも、戦力を考えると、主力のラピスを動かせなくなるより、リックさんのギフトを借りる方が合理的じゃない?」

「坊ちゃん、そりゃあんまりだ」


「坊ちゃま……やっぱり最高……」

「アラン様……かっこよすぎ……」

「もう、好きにして~~」


 背後でラピス、マリン、ドルチェッタが勝手に盛り上がっているが、アランは気にしない。


 すぐに第二波が来た。


 ――ゴウッ!


 フレイムベアの熱気が通路を満たし、石壁が赤く染まる。 狭い通路に炎が充満し、普通の冒険者なら近づくことすらできない。


「迷路の中で炎を使うのは悪手だよ」


 アランは手をかざし、ノーリスのギフト【硬化ハード】を発動。 足元の石を瞬時に硬化させ、盾のように前へ押し出す。


 炎がぶつかり、爆ぜる。


 だが、アランはそのまま踏み込んだ。


「――終わり」


 硬化させた石盾を踏み台に跳び、フレイムベアの頭上へ。 落下の勢いを乗せた一撃が、巨体を真っ二つに切り伏せた。


 ドンッ!


「うおおおおおおおおっ! アラン! お前、俺のギフトでこんな戦い方できんのかよ!」

「ノーリスさん、坊ちゃまから離れて。紛れて坊ちゃまに抱きついていいのは私だけです」

「ラピスさん、本音が漏れてるよ……」


 そして――。


 迷路の奥から、金属を擦るような不快な音が響いた。


 ――ギギギギギ……


 背中の針に魔力を注ぎ込み、いつでも射出できる状態で、通路の壁を削りながら迫ってくる。 金属が石を噛み砕く嫌な音が、迷路全体に響いた。


「最後の一体……」


 アランは深く息を吸い、足元の石を再び硬化させた。 だが今度は盾ではなく――。


「《硬化》……《射出》」


 石床が破裂し、砕けた石片が弾丸のように前方へ殺到する。 狭い通路では避けようがない。


 ガガガガガッ!


 針と石片がぶつかり合い、火花が散る。 ニードルアーマーが一瞬ひるんだ、その瞬間。


「――チェックメイト」


 アランは壁を蹴り、影のように背後へ滑り込む。 針の隙間を抜け、心臓部へ正確無比の一撃を突き立てた。

 重厚な巨体が崩れ落ち、迷路に静寂が戻る。


「……ふぅ。これで全部かな」


 アランが息を整えると、背後から歓声が上がった。


「坊ちゃま……戦う姿も……素敵……」

「アラン様……惚れ直しました……」

「今夜は寝かさないわ~~」

「三人とも、落ち着いて……」


 迷路作戦は、完璧な成功だった。 魔物の討伐が終わり、盾の守護者の冒険者たちは歓声を上げ、村人たちは胸を撫で下ろす。

 ダニエルは「素材でまた一儲けだ!」と満面の笑みを浮かべ、子供たちは「今日は御馳走だ!!」と跳ね回っている。



 ◆山神の襲来◆


 ズズウウゥン!


 地鳴りが轟き、大地が揺れた。 子供たちはしりもちをつき、大人たちは何事かと辺りを見回す。 その中の一人が、震える声でつぶやいた。


「魔物の森の……主!?」


 遠くの木々が揺れ、巨体がゆっくりと姿を現す。


「山神は足が遅い。村から離れたところで倒すよ」

 アランが短く指示を出す。


「坊ちゃまは危ないので、村に残ってください」

「いや、僕も行くよ。魔力視(マジックビジョン)のギフトっだって、戦いに少しは役立つから」

「……わかりました。でも危なくなったら、私が坊ちゃまを抱っこして村に送り届けます」


 その後ろでは、マリンがマヤに羽交い締めにされていた。


「私もアラン様の横で戦うの~~!」

「ダメですマリン様、危ないです」

「アラン様、マリン様のギフトをさっさと持って行っちゃってください」

「マヤ、あなた……!」


 そんな中、リリアナがみんなの無事を祈っていた。一言余分な言葉を付けて。


「あんな大きな魔物が相手なんて……みんな、どうか無事に戻ってきて…… あ、ハロルドさん。町の守衛なのに、なんでここにいるんですか?」

「え?? 俺も戦うの? 俺なんかがあんなのと戦ったら死んじゃうよ!」


 リリアナが呆れ、ハロルドが青ざめる。

 その横で、誰も気づかないまま――ミリアが静かに村の外へ歩いて行った。



――ズシンッ。


 山神の拳が地面を叩くたび、大地そのものが悲鳴を上げた。 衝撃で空気が震え、耳の奥がキンと痛む。


「くっ……硬い……!」

「ラピスさん、下がってください!」

「盾を構えろ! 来るぞッ!」


 ラピス、盾の守護者、ヴェレノ、ドルチェッタ――総力を挙げて挑んでいるはずなのに、山神はほとんど傷ついていない。


 山神は“アラン”だけを見ていた。


 その巨大な眼孔が、まるで獲物を見つけた獣のようにアランを追い続ける。 他の攻撃は、ただの邪魔としか思っていない。


「坊ちゃま、下がってくださいッ!」

「アラン様、危険です!」

「アラン、来るぞッ!」


 叫びが飛ぶが、山神の一撃はあまりにも重い。 盾の守護者たちは次々と吹き飛ばされ、ヴェレノでさえ膝をついた。


「……っ、まだ……!」

 ドルチェッタが魔力を練るが、山神の腕が薙ぎ払う。


 ――ドゴォッ!


 地面がえぐれ、土煙が爆ぜた。 仲間たちが倒れていく。 アランは歯を食いしばりながら、ただ立ち尽くすしかなかった。


 (……勝てない。どうやっても……勝てない)


 胸の奥が冷たく沈む。 敗北を覚悟した、その瞬間――


 視界の端に、あの“エラー”の文字が走った。


 ――《マスターギフト ……エラー》


(……なんで、今……?)


 疑問が脳裏をよぎったとき。 土煙の向こう、揺れる影がひとつ。 小さな足。 小さな背中。 風に揺れる髪。


 ミリアだった。


 誰にも気づかれず、ただ真っ直ぐに――山神へ向かって歩いていく。 その姿を見た瞬間、アランの心臓が凍りついた。


「ミリア……!? ダメだ、戻れッ!!」


 叫びは、轟く地鳴りにかき消された。

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