37話 ラホ村、防衛戦線1
◆エラー って??◆
アランの視界の端で、淡い光の文字が走った。
『エラー』
「……エラー?」
見慣れない単語に、アランは思わず瞬きをした。 今までギフトの表示に“エラー”など出たことはない。 つまり――条件は満たされたのに、何らかの理由で発動できなかった。
アランは頭の中で状況を整理する。
(ミリアが僕の魔力を欲しがった。ギフトは反応した……けど、発動しなかった。 僕の魔力視が魔力を“視たり操ったり”できるようになったみたいに、ミリアも魔力を求めている? でも……無理やり吸われなかったのは、不幸中の幸いだよね)
そこまで考えた瞬間、アランの背筋に冷たいものが走った。
(……待って。最近、魔力を吸われかけたことがあったような……?)
脳裏に浮かんだのは、人面岩の前で見た干からびた死体。 ラピスは言った。
『体内の魔力と生命力を根こそぎ吸われた痕です』
そして、あの場を離れる直前――アランの魔力が糸のように引きずり出され、人面岩へ吸い込まれていった。
(ミリアが村に来たのって……あの後だよね?しかも来た方向は、人面岩がある“魔物の森”の方角……)
胸の奥がざわつく。 アランは意を決して、ミリアに向き直った。
「ミリア。もしかして……君はあの人面岩――山神と、なにか関係があるのかい?」
しかしミリアは、こてん、と首を傾げるだけだった。 理解していないのか、それとも言葉にできないのか。
アランは質問を変える。
「じゃあ……どうして僕の魔力が欲しいんだい?」
「……アラン……魔力……」
それ以上の言葉は続かない。 アランは小さく息を吐いた。
「……だめか。理由を聞いても分からないよね」
ミリアは本能で動く。 そこに理屈を求めても仕方がない――そう思った、その時。
「……アラン……魔力、足りない…… 魔力視……進化させるには……吸収した魔力の……十倍、必要……」
「じゅ、十倍!?」
「いけません!!」
ラピスが青ざめた顔で叫ぶ。
「そんなに吸われたら、坊ちゃまが干からびちゃいます!!」
「そ、そうだね……!」
アランは慌てて距離を取りつつ、ミリアを見る。 ミリアはただ、飢えた子どものようにアランの魔力を求めているだけだった。
――人面岩に魔力を奪われた直後に現れた少女。
――魔力を求める本能。
――ギフトが反応し、“エラー”を出した理由。
点と点が、ゆっくりと線になっていく。
「ごめん、ミリア。魔力を上げるなんて無理だよ。多分だけど……十倍もの魔力を吸われたら、間違いなく死ぬから」
その言葉にミリアがなんとなくしょんぼりとしているように見えた。
◆無理です!そんなデカい物を…◆
その頃、ラホ村にも山神の覚醒の余波が押し寄せていた。魔物の森から逃げ出した魔物たちが、次々と村へ殺到してきたのだ。
先頭は足の速いアーマースピア。その後ろからはフレイムベア。最後には、あの厄介なニードルアーマーまでが姿を現した。
「よぉっし! 盾の守護者、石壁の中に入ってきた魔物だけ倒すぞ!!」
「リーダー、どこまで消極的なんだよ」
「もうちょいカッコいい台詞はけないの?」
「リーダーだけ外で魔物退治をしてきてもいいのよ?」
「みんな俺にひどくねえ?」
アランはノーリスに、ギフト【硬化】を使った防御策を伝えた。
「村と魔物の間に石壁で迷路を作ってくれない? あ、最後の出口は魔物が一匹だけ通れるくらいにしてね」
迷路を抜けてきた魔物を、みんなで一体ずつ仕留める作戦だった。しかし……
「む、無理です! そんなデカい物を作るなんて、俺の魔力量じゃ到底……それに迷路なんて、緻密な魔力制御はできません!」
ノーリスが両手を振って拒否すると、ラピスが淡々と補足した。
「石壁ほどの大きさの迷路を作れるのは、坊ちゃまくらいのものです。魔力量も魔力制御も、ノーリスさんは脳筋ですから」
「ラピスさん、何気にひどくねぇ!?」
「私は客観的に判断しただけです。それに坊ちゃまは容姿端麗、頭脳明晰、そしてあの育ち切っていない未成熟の肉体……はぁ、はぁ……」
ラピスの性癖が爆発した瞬間、場の空気が凍りついた。 マリンとドルチェッタだけは、なぜか大きく頷いている。
僕は身の危険を感じて、そっと距離を取った。
「僕……今夜から寝る時に、部屋に鍵をかけることにするね」
その言葉に、ラピス・マリン・ドルチェッタの三人が同時に膝から崩れ落ちた。
「こんなことになるなら、貴女たちを実力で排除しておけば……!」
「くっ、私のギフトが女性にも使えれば……!」
「コルネラ家の財力すべてを使ってでも、強行突破してれば……!」
三人とも物騒なことを言っていたが、聞こえないふりをすることにした。
◆作戦開始!◆
「ノーリスさん、ギフトを貸して。――《能力模倣》」
アランの指先がノーリスの胸元に触れた瞬間、淡い光が走り、ノーリスのギフト【硬化】がアランへと移った。
「じゃぁ、しばらく借りるね」
アランは深く息を吸い込み、村と魔物の森の間に広がる空き地へと歩み出た。 魔物の咆哮が遠くから響き、地面が微かに震えている。
アランの足元から魔力が奔り、地面が隆起した。 石が盛り上がり、壁となり、さらに枝分かれしながら複雑な通路を形作っていく。
「お、おおおお……! すげぇ……! 俺のギフトで、こんなデカいもんが……!」
ノーリスが口を開けたまま固まる。 アランは集中したまま、迷路の形を緻密に調整していく。
「魔物が群れで突っ込んでこないように、入口は狭く……。 通路は曲げて、曲げて……視界を奪って……。 最後の出口は――一匹ずつしか通れない幅に」
石壁が音を立てて伸び、迷路はどんどん巨大化していく。 その様子を見ていたラピスが、感嘆と嫉妬の入り混じった声を漏らした。
「……やはり坊ちゃまは別格です。魔力量も制御も、ノーリスさんとは比べ物になりません」
「ラピスさん、俺の心が今、石壁より固くなったぞ……?」
「ノーリスさんは脳筋ですから当然です」
「追撃やめて!?」
アランは二人のやり取りを背中で聞きながら、最後の仕上げに取りかかった。
「――出口、完成」
迷路の最奥に、魔物が一体だけ通れる細い通路が形作られた。 その先は、ラホ村の精鋭による“処刑場”だ。
「これで、魔物は一匹ずつしか来られない。迷路を抜けてきたら順番に倒していこう」
アランが振り返ると、ノーリスは感動で震え、ラピスは興奮で震え、マリンとドルチェッタはなぜかアランの背中を見て頬を染めていた。
「坊ちゃま……迷路を作る姿、最高に……」
「ラピス、落ち着いて。あとで話を聞くから」
「約束ですね……!」
アランは軽くため息をつき、迷路の入口へと歩き出した。
「さあ、迎え撃とう。――迷路作戦、開始だ」
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