34話 あれは伝説のデンプ……
◆生まれ変わったラホ村◆
アントニオは兵士百名を従え、まるで自分こそがこの場の支配者であるかのように胸を張ってラホ村を包囲させた。
「アントニオ様、村の出入り口は全て封鎖完了しました。村からはアリ一匹這い出る隙間はありません」
「ふん、当然だ。――よし、そこの二、三人、俺について来い。 アランの奴に“俺様に泣いて許しを請うか”、それとも“このしなびた村と一緒に朽ち果てるか”、好きな方を選ばせてやる」
ラホ村に追いやられたアランの姿を思い浮かべると、アントニオの口元は自然と歪んだ。 “落ちぶれた元・跡取りが、どんな惨めな顔でひれ伏すか”――その想像だけで愉悦が込み上げる。
「はっ、アランの分際で俺様に逆らった報いだ。 この腐った村で土でも食って生きていくがいい」
傲慢と嘲笑を全身にまとい、アントニオは勝者の気分で村の入口を踏み越えた。
――だが。 その一歩を踏み入れた瞬間、アントニオの自尊心は、音を立てて粉々に砕け散った。
かつて“見捨てられた村”と呼ばれた場所は、彼の記憶とはまるで別物だった。
「……ここが、本当にあのラホ村なのか?」
村の一角では、巨大なニードルアーマーの解体作業が進んでいた。 兵士たちがざわつき、恐れを含んだ声が漏れる。
「アントニオ様、あれは……!」
「まさか、ニードルアーマーを倒したのか……?」
アントニオは信じられないというように目を見開いた。
その時、背後から軽い感じで声がかかった。
「やぁ、アントニオじゃないか、こんな遠いところまでよく来たね」
「アラン……ふっ、きさまこそ、このみすぼらしい村の領主なんてお似合いだ。 さぞ金にも苦労しているんだろうな」
「いや~、運よく、あの通りニードルアーマーが狩れたからね。 あれの素材だけでしばらくはお金には困らないかな? でもあれを倒すのは――(ミリアが)やりすぎないようにするのが大変だったよ」
(馬鹿な……あれほどの魔物をアランが倒したのか? いや、ありえん。アランにそんな力があるはずがない)
そして、アントニオは最も短絡的な結論に飛びついた。
(……そうかラピスだ。あの女が倒した魔物を、アランが自分の手柄のようにしているんだ)
アントニオは鼻で笑い、アランに向かって吐き捨てた。
「女の力を借りておいて、よくもまあ得意げにしていられるな。 卑怯な貴様らしいやり口だ」
アランは肩をすくめ、少しだけ呆れたように返す。
「(ミリアの)力を借りて何が悪いんだよ。彼女だって立派なこの村の一員だぞ」
「はっ。貴様には――ほれ、そこの薄汚れたチビの後ろに隠れているのがお似合いだ。 そのチビに助けを求めたらどうだ? “助けて~、アントニオ様がいじめるんだ~”ってな」
その瞬間、ラピスの表情が凍りついた。 双剣が半ばまで抜かれ、空気が一気に張り詰める。
「……貴様!坊ちゃまを愚弄したな!!」
殺気が溢れ、兵士たちが思わず息を呑む。
◆アレは伝説のデンプ……◆
だが、その前に――ミリアがアントニオの前へすっと立った。
「おっ、チビ。いっちょ前に俺様に歯向かうのか? いいぜ、かかってこいよ」」
アントニオは挑発するように、顎を突き出した。
「ほれ、殴ってみろよ!」
「ミリア、ダメ……」
アランが制止するよりも早く――
ズッ……!
ミリアの上半身が左右に揺れ始めた。
まるで振り子のように、滑らかで、速く、止まらない。
「な、なんだこのチビは……!」
アントニオが後ずさるより早く、ミリアの体が弾けた。
ドゴッ! バキッ! ガガッ!
左右から繰り返し叩き込まれるフック。 一発ごとにアントニオの体が揺れ、ガードが崩れ、視線が泳ぐ。
「ぐっ……ま、待て……!」
ミリアの足が地面を蹴り、揺れる軌道がさらに深く、速く、鋭くなる。
ドゴォッ! バギィッ!
左右からの衝撃が波のようにアントニオを飲み込み、反撃の隙すら与えないまま殴り続ける。
そして――ミリアの最後の一撃が、アントニオの腹に深くめり込んだ。
ドガァッ!!
「へぶし!!」
アントニオは大きく吹き飛び、地面を転がり、そのまま動かなくなった。 しかし、膝をがくがくと鳴らしながらも、なんとか立ち上がる。
アランは思わず拍手した。
「いやぁ、根性あるね」
「いっ、いいか! こんな子供のパンチなんざ、このアントニオ様には効かねえぞ!!」
「アントニオ、実は――」
「様をつけろ! いつまでバレリーニ家の跡取り気取りなんだよ、貴様は!」
「……はいはい、ごめんごめん。 アントニオ様、あのニードルアーマーは――この子が倒したんだ」
アランはミリアを前に出した。
ミリアは無表情のまま、アントニオをじっと見つめる。
「はっ? おいおい、一段と冗談が上手くなったもんだな。 こんな子供に――」
アントニオの言葉が途中で止まった。
ミリアが構えた姿を見た瞬間、背筋に冷たいものが走ったのだ。 本能――いや、震える膝が告げていた。 (……こいつは、危険だ)
アントニオは思わず半歩後ずさり、動揺を隠すように怒鳴った。
「こ、ここは元々バレリーニ家の領地だ! バレリーニ家の跡取りとして命じる! 村人全員を差し出せ!!」
アランは一歩前に出て、はっきりと言い放つ。
「断る。――このラホ村の領主は、僕だ」
「おい!村人を全員とっ捕まえろ!」
アントニオが兵士に命令して、村人たちを無理やり連れて行こうとする。
「やめろ!!」
アランの声と共に、ラピスが双剣を抜いて、兵士たちを無効化していく。
「いやあぁあ!!」
リリアナが1人の兵士に追いかけ回されている。 アランは疑惑の目を向けた。
……リリアナ、ギフトは使ってないよな?
ミリアが兵士に殴りかかろうとした瞬間――
「ダメぇ!!」
リリアナの叫びが響き、ミリアは寸前で拳を逸らし、地面を殴った。
ドゴォ!!
地面が爆ぜ、兵士は腰を抜かして倒れ込む。
アランの横に、ラピス、マリン、マヤ、盾の守護者、そしてミリアが並び立つ。
アントニオは歯噛みし、捨て台詞を残した。
「くっ、おぼえてろーー!!」
◆孤児の代わりに兵士を◆
ラホ村から逃げ出したアントニオは、執事の言葉を思い出す。
“餌が足りない”
(そうだ……村人が無理なら、兵士がいるじゃないか。 こいつらなら、死に損ないの村人より生命力は高い。 きっと成功する)
ジャミールが“餌を運ぶ”と言っていた場所へ向かうと、そこには――人面岩があった。
「ぐっ……!」
近づくほどに体から力が抜けていく。 兵士たちも次々と地面に崩れ落ちた。
「ジャミールには……こんな風になるとは聞いていない……まさか……」
アントニオは震える声で叫んだ。
「いいぜ……俺様の命、食えるものなら食ってみやがれ……!」
幸か不幸か――兵士たちの生命力が、人面岩へと吸い込まれていく。
そして。 崩れゆく岩の中から、巨大な人型がゆっくりと動き出した。
アントニオは薄れゆく意識の中で、それを見つめていた。
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