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32話 ミリアの真の力

 ◆村長派 VS リリアナ派◆


 村では、ミリアの事で騒ぎになっていた。

 魔物が出る森から、裸の女の子がひとりで歩いてきたというのだ。 そんな得体の知れない存在を、簡単に村へ入れるわけにはいかない。


「嫌です! ミリアは私の妹なんです!」


 もちろん、本当の姉妹ではない。幼くして両親を亡くしたリリアナは祖母と二人で暮らしている。そこに現れた自分が守らなくちゃと思う存在。ミリアを妹としても守る気持ちが芽生えていた。



 村は、"安全を優先する村長派"と”リリアナに賛同し受け入れたい派”に分かれかけ、空気が張りつめる。

 そんな中、空気を読まない男がひとり。


「そーだそーだ! ミリアちゃんは将来俺の嫁になるから、もう村の一員だ!」


 ハロルドが胸を張って言い放つ。

 ……その場の全員が、同じ表情でハロルドを見た。(お前は黙れ)という目だ。


「ハロルドさん、黙ってて!!」

 そう言うと、リリアナが魅了の微笑(おじさんキラー)を発動した。


 その瞬間、村長派の男たちがざわつき始める。


「……まあ、確かに捨てるのは可哀想だよな」

「リリアナちゃんが言うなら、様子を見るのも悪くないかもな」


 理性よりもリリアナの笑顔が勝ってしまい、村長派の男たちは次々と態度を軟化させていく。


「お、お前らまで何を言い出すんだ!」

 村長が焦るが、すでに多数派はリリアナ側に傾いていた。


 こうして、村はリリアナ派の勝利で終わった。


 余談だが、ハロルドはその日以来、誰にも話しかけられなくなり、本人も気まずさからしばらく口をきかなかったという。


 それを見たマリンがぽつりと呟く。

「リリアナ……恐ろしい子!」


 こうしてミリアは、無事に村へ迎え入れられた。



 ◆アイアン瓜を齧る少女◆


「この子は私の妹だから、私とおばあちゃんと一緒に暮らすの!」


 リリアナが強く言い切る横で、ミリアと名付けられた少女は、周囲の騒ぎなど気にも留めず、黙々とアイアン瓜を齧っていた。


 アイアン瓜は、ニードルアーマーでさえ苦戦するほどの硬さを誇る作物だ。 それをミリアは、まるで熟れた果物でも食べるかのように、コリッと噛み砕いていく。

 その様子に村人たちがざわつき始めたその時――


「リリアナ、村長がまた何か言ってるって聞いたけど……大丈夫?」


 アランが駆け寄ってきた。 

 その声が聞こえた瞬間、ミリアの肩がピクリと震えた。


 次の瞬間、ミリアはアイアン瓜を持ったまま、

 とてとてとアランの足元へ歩いていき、彼の服の裾をぎゅっと掴んだ。


「……え? ぼ、僕?」


 アランが戸惑う中、ミリアは初めて表情らしい表情を見せる。 ほんの少しだけ、安心したような、甘えるような目。

 その様子に村人たちは驚いた。


「お、おい……さっきまで無表情だったのに」

「アラン様には懐いてるのか?」

「なんでだ……?」


 リリアナも目を丸くする。

「ミリア……アラン様のこと、知ってるの?」


 ミリアは答えない。ただ、アランの裾を離さない。


 アランは困ったように笑いながら、ミリアの頭をそっと撫でた。

「大丈夫だよ。怖くないからね」


 その瞬間、ミリアの体がほんのわずかに光を帯びたように見えた。

 だが、その変化に誰も気づかない。


 そこへ、村人のひとりが恐る恐る口を開く。


「……あのアイアン瓜をあんな簡単に? 森から来たって話だし、まさか魔物が化けてるんじゃ……」


 周囲の空気がピリッと緊張する。 “確かに普通じゃない”という不安が、村人たちの表情に広がり始めた。 だが、その言葉に真っ先に反応したのはフェルナだった。 農具を持ったまま、ずかずかと前に出る。


「おい。俺が丹精込めて育てたアイアン瓜を、あんなにうまそうに食べてくれる子を、魔物呼ばわりするのは許さねぇぞ」


 フェルナの声は怒鳴り声ではなく、“作物を愛する農家としての誇り”がにじむ、重みのある声だった。


 村人は慌てて手を振る。

「じょ、冗談だよ! ただ……すげぇ顎が強いんだなって思っただけで……」


 フェルナはミリアをちらりと見る。 ミリアは相変わらず無表情で、しかし幸せそうにアイアン瓜をもぐもぐしている。


 その姿に、フェルナはふっと表情を緩めた。

「……まあ、魔物ならもっと荒っぽく食うだろ。こんなに味わって食べるもんかよ」


 周囲の村人たちも、ミリアの“ただ美味しそうに食べているだけ”の姿に、少しずつ警戒心を解いていく。


「確かに……あれは悪さする顔じゃねぇな」

「むしろ、うちの子より行儀がいいぞ……」


 緊張がほどけ、場の空気がゆっくりと和らいでいった。


 フェルナは腕を組み、満足げにうなずく。

「よし。俺はこの子を気に入った。うちの畑のアイアン瓜、また食わせてやりてぇくらいだ」


 こうして、ミリアに向けられていた“魔物かもしれない”という疑いは、“よく食べる不思議な子”に落ち着いた。



 ◆ミリアの真の力◆


 リリアナがミリアの頭を軽く撫でながら言った。


「ミリアちゃん、おねーちゃんはこれからおばぁちゃんの薬草を取って来るから、おとなしくお留守番しててね」


 そう言い残し、リリアナは籠を抱えて村の外へ向かっていった。

 ミリアは返事もせず、ただ黙々とアイアン瓜にかぶりついている。――まるで「興味ありません」とでも言いたげに。


 その時だった。


「きゃーーー!!」


 森の方から、甲高い悲鳴が響いた。 アランたちが外を見ると、森の影から一体の“はぐれ”ニードルアーマーが姿を現した。


 以前フェルナが言っていた。 アーマースピナーは危険を感じると丸くなり、その姿はアイアン瓜にそっくりだと。

 ――もし、収穫されたアイアン瓜を、遠目にアーマースピナーの子供だと勘違いしたら?


 その最悪の想像は、的中した。

 森から出てきたニードルアーマーは、一直線に村へ向かってくる。 その進路上には、薬草を摘んでいたリリアナの姿があった。


「リリアナ、危ない!」


 アランが叫んだ瞬間だった。


 ドゴオォ!!


 粉砕された“聖なる壁”の破片が雨のように降り注ぐ中、ミリアは土煙を切り裂きながらニードルアーマーへ一直線に突っ込んだ。


 ニードルアーマーは、針を逆立てて威嚇するように甲高い金属音を鳴らす。

 だが――ミリアは一切怯まない。 むしろ、無表情のまま歩幅すら変えずに迫っていく。


 ニードルアーマーが背中から針を飛ばしてきた。地面を抉るほどの威力で針がミリアに迫る。


 ボシュウ!!


 なにかを吸収するような音が響き、ニードルアーマーから射出された針がことごとくミリアの小さな手によって防がれた。

 そして針はミリアの小さな手のひらに、全て吸い込まれた。


 ニードルアーマーが驚愕したように身を震わせる。 その隙を逃さず、ミリアは腕を振り上げ――叩きつけた。


 ドゴォォォン!!


 大地が揺れ、土煙が爆発する。

 ニードルアーマーの巨体が地面にめり込み、背中の針が何本も折れて飛び散った。


 それでもニードルアーマーは本能で転がり、丸まって逃げようとする。

 さながらアーマースピナーの防御姿勢だが、ミリアはその丸まった背中を掴み、まるで軽い石ころのように持ち上げた。


 そして―― ぶん投げた。


 ゴォォォォッ!!

 ニードルアーマーは空中を弧を描き、村の外れの岩壁に激突。 岩が砕け、粉塵が舞い上がる。


 それでもまだ動こうとするニードルアーマー。 だが、ミリアはすでに目の前にいた。


 瞬間移動したかのような速度で。 ミリアは無言のまま、拳を握りしめる。

 その小さな拳に、空気が震えるほどの圧が宿る。


 そして―― 一撃。


 バギィィィィンッ!!


 ニードルアーマーの外殻が砕け散り、巨体が地面に沈黙した。 完全に、動かない。

 ミリアはその残骸を一瞥すると、何事もなかったかのようにリリアナの方へ振り返った。


 リリアナは震える声でつぶやく。


「ミ、ミリア……?」


 ミリアは答えない。

 ただ、リリアナの前に立ち、守るように両手を広げたまま動かない。 

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