25話 ラピスとドルチェッタ 女の戦い
◆負けられない戦い◆
「お姉さま! お姉さまのギフトは 絶対切断 というのですね! 俺のギフトはお姉さまのギフトの完全下位互換です。――これはもう運命だと思いませんか?」
ヴェルノは目を輝かせ、まるで神でも崇めるかのようにラピスを見つめていた。
その姿はもはや狂信者のそれだった。 フローネを襲ったあの日、ラピスに“力の差を見せつけられた”瞬間、彼の中の何かが確かに変わった。
――ラピス教の狂信者、誕生である。
そして、問題児はもう一人いる。ドルチェッタだ。ある意味、ヴェルノよりもよほど厄介な存在だった。
「アランさまぁ、ご飯の準備ができました。今日はフレイムベアの姿焼きです、はい、あ~ん!」
「坊ちゃま、今日は新鮮なニードルアーマーが取れました。三枚におろしてお刺身にしてみました。喉に刺さらないように小骨は取っておきますね」
ピキピキッ。
ラピスの腰の双剣が、鞘の中でわずかに震えた。
ドルチェッタの背負う巨大戦斧も、床板をミシリと鳴らす。
「あ~ら、ラピスさん、そのでっかいトゲが“小骨”だなんて、さすが野蛮人の感性ですわねぇ」
「おほほほ、ドルチェッタったら。そんな獣くさい物を坊ちゃまに食べさせるつもり? 嗜虐趣味でもお持ちで?」
ピキピキピキッ。
ラピスの双剣が半ば抜け、刃先が光を弾いた。
ドルチェッタの戦斧は、今にも振り下ろされそうな角度で構えられる。
「アランさま、お風呂の準備ができました。お背中を流しましょうか?」
「坊ちゃま、石鹸が目に入っても痛くないように、シャンプー〇ットなる物をダニエルさんから購入しておきました!」
ピキキキキキッ!
ラピスの双剣が完全に抜かれ、刃が空気を裂く音がした。
ドルチェッタの戦斧は、柄を握る手に力が入り、床に影が落ちる。
「アランさま、お布団を温めておきました。 わ・た・し・はいつでも COME ON ですよ」
「坊ちゃま、まだ夜は冷えます。それにあんなお子様体型よりもまだモッシーの方が抱き心地がいいですよ」
「だぁ~~れが、お子様体型ですって?」
「ふん。戦斧を振り回すしか能のない筋肉女に、“抱き心地”なんて概念があるとは思いませんでしたわ。
まず自分の肩こりでも心配なさったら?」
その瞬間、ラピスの双剣が交差し、鋭い金属音がキィンと響き、ドルチェッタの巨大戦斧が肩に担がれ、刃がギラリと光った。
◆妄想が暴走するフローネ◆
部屋の入口では、フローネが扉の向こうから顔を真っ赤にしてこちらの様子を伺っていた。
この二人が“フローネを攫うため”に村へ来たと知ったら……。 アランは、知らない方が幸せだと判断し、黙っておくことにした。
しかし当の本人は、自分が狙われているなど一ミリも気づかず、全力で“別方向”の心配をしていた。
「あわわわ……ど、どうしよう……。ラピスさんも、あの女の子も……このままだと……
女神さまの神聖な場所が、血煙と悲鳴が舞う地獄の祭壇になっちゃう……!」
フローネは両手を胸の前でバタバタさせながら、さらに妄想を加速させた。
「それに……“抱き心地がいい”とか言ってたし……。えっ、えっ、もしかして……ラピスさんと領主さまって、毎晩……? ま、まさか……毎晩“ギフトの作り変え”を……? う、うらやまし……じゃなくてっ!」
真っ青な顔を真っ赤にするという器用な事をしながら、フローネは自分の頬をぺちぺち叩いた。
「だ、だめだめだめっ!女神さまの目の前で、殺傷沙汰と夜の営みのダブルヘッダーなんて絶対に止めないとっ!」
……もちろん、本当に止めるべきは“自分が攫われる未来”なのだが、フローネはその事実に一切気づいていなかった。
「二人とも、落ち着いて……! まず僕は誰とも寝ません。バカな事を言ってないで」
「そんな!」
フローネがアランの言葉を聞いて膝から崩れ落ちた。
どうして君がショックをうけるんだよ。とアランは心の中で突っ込んだ。
ヴェルノとドルチェッタにこの村に”誰の”命令で”どんな目的で”来たのかを確認しないといけない。
領主としてね!!
フローネには二人の尋問?を見せるわけにはいかない。当事者には過度に不安を与えてもいい事は無いからね。 彼女にはしばらく教会の外へ出ていてとお願いした。
「フローネ、ちょっとの間外へ行っててもらえる?」
「それはかまいませんが、……どのくらいの間でしょうか?」
フローネの言葉に、僕は少し考え「そうだね、2、いや3時間かな?」と言った。
二人は僕とラピスが聞いたら答えると思うけど、情報が多いとまとめるのにも時間がかかりそうだ。
「さっ3時間…ですか… それは所謂ご休憩… しかも4人で…」
「そうだね、ちょっと疲れたし、休憩がてら、二人には旅で見た話とか聞こうかと思ってね。…フローネにはちょっと聞かせられない話、聖職者だと禁忌になる話とかあるかもしれないし」
「休憩… 聖職者だと禁忌… そっそうですね誨淫… とか」
フローネの顔はもう真っ赤で、両手で顔を覆っていた。
「わ、わたし……外で祈ってます……! 3時間……いえ、4時間でも……!」
勝手に時間を延長しながら、フローネはふらふらと教会の外へ出ていった。
◆二人への指令◆
「それで逃げずに今日も村にいるという事は、僕たちの方についたと判断して良いんだよね」
「はい、お姉さまに敵対するなど、愚かな極みでした」
「はいは~い、ドルチェッタもアラン様に一生を捧げま~す!」
ヴェルノとドルチェッタが競ってアラン(とラピス)への忠誠を示した。
役に立つアピールなのか、二人は率先して任務についてしゃべり出した。
「はい、俺たちに与えられた任務は、森で拾った人間を生きたまま教会に連れ戻して来いと」
「そうそう。で、重いし逃げないように手足を切って運ぼうとしたんだよね」
「でも──そんなつまらない任務なんかより、お姉さまの言葉に応えることの方が、俺には何より大切です」
ヴェルノは胸に手を当て、ラピスへの絶対的な忠誠を誓った。
「ドルチェッタもドルチェッタも……! アランさまの鎖で縛られたあの瞬間、身体の奥がビリッと震えて……愛を、運命を感じちゃったの。
これは運命よ。ドルチェッタとアランさまは、結ばれる“運命“なの〜」
頬を真っ赤に染めたドルチェッタは、両腕で自分の身体を抱きしめ、甘くとろけるように身をくねらせた。 その仕草は、恋に落ちた少女というより、取り憑かれた信徒に近い。
こうしてヴェルノとドルチェッタは、あっさりとアランたち側についた。
ラピスへの崇拝と、アランへの歪んだ愛に導かれるように。
教会の外では無心にお祈りをするフローネがいた。 その顔はアイアン瓜の果肉より真っ赤だった。
「女神さま、私はいけない子です。…でも今頃教会の中では……」
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