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12話 過保護からの巣立ち

 ◆能力模倣(ギフトコピー)


「お願いがあるんだけど……ラピスのギフト【絶対切断(ナイトキラー)】を貸してくれない?」


 アランの言葉に、ラピスは瞬時にまばたきを止めた。

 そして、少しだけ眉をひそめる。


「ギフトを? ですか? どういう意味でしょう」


 ラピスは瞬きを一つした。表情は変わらないが、アランの意図を測るように静かに問い返す。


「うん。この前、マリンのギフトを作り変えたよね。その時気づいたんだ、相手が許可してくれれば再構成(リメイク)したギフトを借りる事が出来るって」

「……ふーん。マリン様と(つな)がった時にねえ。マリンの時に、ねぇ……」


「えっ、ラピス? もしかして怒ってる?」

「怒ってませんけど?」

「ごめんってば……」


 アランは苦笑いを浮かべながら、話を続けた。


「それでね、今はギフトの持ち主が許可してくれたら、その人のギフトを一時的に“借りる”ことができるんだ」

「……なるほど。では、私が許可すれば、坊ちゃまは【絶対切断(ナイトキラー)】を使えると。まあ、私が坊ちゃまに許可しないなんて事はあり得ませんが」


 ラピスは胸を張り、誇らしげに微笑んだ。


「あはは、ありがとう。でもね、ギフトを借りてる間は、貸している人はそのギフトを使えなくなるんだ。それに……」


 アランの声が少しだけ沈む。


「僕と相手の間に信頼が無くなった時、ギフトは強制的に解除される。たとえそれが戦闘の最中でも、だよ。この能力は、お互いの信頼があってこそ成立するんだ」


 ラピスは一瞬だけ目を伏せ、そして小さく呟いた。


「坊ちゃまがご希望でしたら、ギフトでもなんでも……その、私の下着だろうと……」


「え? なんか言った?」


「……いえ、なんでもありません。それより、ギフトでしたね。もちろんOKです」


 ラピスがそっと手を差し出す。アランがその手に触れた瞬間、ふわりと淡い光が二人を包み込んだ。


 次の瞬間——アランの手の中に、漆黒の刃が静かに形を成す。


 それはまさに、ラピスのギフト【絶対切断(ナイトキラー)】。

 闇を裂くために鍛えられた、鋭利な殺意の結晶。 その刃は、まるでアランの意志に応えるように、静かに脈動していた。


 …そしてアランの視界の端には能力模倣(ギフトコピー)2/10の文字が光っていた。



 ◆ラピス(おや)離れ?◆


「じゃあ、行ってくるよ!」


 朝の光が差し込む玄関で手を振った瞬間、背後から嵐のような声が降ってきた。


「待ってください! ハンカチは? 替えの靴下は? 非常食は? 水筒の中身はぬるくなってませんか? 昨日ちゃんと寝ました? 朝ごはんは足りてます? あっ、あとこれ、転ばないようにお守りです!」


 背後から飛んできたのは、ラピスの心配そうな声。まるで遠足に出かける子どもを見送る母親のような口ぶりに、思わず苦笑がこぼれる。


「いや、そんなに持っていかないし……森に遠足に行くわけじゃないんだけど……」


 今日は、盾の守護者リックさんと共に、森に出て魔物の討伐任務に向かう日だ。

 ラピスは……今回はお留守番。


 もちろん、最初は「私も行きます」と言い張っていた。けれど、【絶対切断ナイトキラー】を僕に貸している間は、ラピス自身はそれを使えない。

 それでもラピスの性格なら、ギフトが使えなくても無理をして戦場に立とうとするだろう。だから、僕はあえて言ったんだ。


「今日は僕一人で行くよ」って。


 これは、僕がラピスに頼らずに戦えることを証明するための戦い。

 言ってしまえば——親離れ、ならぬ“ラピス離れ”。いや、もしかすると“ラピスの僕離れ”かもしれない。

「坊ちゃま~~~~っ!!」


 背後からは、魂の底から絞り出すようなラピスの叫び声が森に木霊する。

 その声に、思わず足が止まりそうになるけれど、ぐっとこらえて前を向いた。


「愛されてるな、坊ちゃん!」


 隣でリックさんがニヤニヤしながら肘で僕の脇腹をつついてくる。


「からかわないでくださいよ……」


 顔が熱くなるのを感じながら、僕は前を向いた。

 ラピスが信じてギフトを託してくれたのだ。ならば、僕はその信頼に応えなければならない。


 今日の任務は、比較的おとなしい魔物の駆除。危険は少ない。

 でも、だからこそ、今がチャンスなんだ。


 ——僕は、もう子どもじゃない。ラピスがいなくても、ちゃんとやれるってところを見せてやるんだ。

 まぁ、危険な魔物はいないんだけどね。



 ◆魔物との遭遇と撃破◆


 森の奥から、低く唸るような声が響いた。

 アランが振り返ると、そこには牙を剥いた魔物が、地を這うようにして迫ってきていた。


「来たか……!」


 アランは【ナイトキラー】を構え、静かに息を整える。

 魔物が飛びかかってきた瞬間、一歩踏み込み、刃を振るった。


 風を裂く音とともに、黒い軌跡が夜の闇を切り裂く。

 魔物の身体が宙に浮き、次の瞬間、真っ二つに裂けて地面に崩れ落ちた。


 返り血が飛び散る前に、アランはすでに構えを解いていた。


「……これが、ラピスのギフトか」


 手の中の刃を見つめながら、アランは小さく息を吐いた。


「すごい……切れ味が段違いだ……!」


 その声には、驚きと興奮、そしてどこか誇らしげな響きがあった。

 ラピスのギフトを借りて戦うことが、彼にとってどれほど心強いことか——その想いが、自然と胸に広がっていくのだった。



 魔物との戦いが無事に終わり、僕たちはリックさんと一緒に森の中を歩いていた。すると、前方の茂みに何かが見えた。


「……誰か倒れてる!」


 慌てて駆け寄ると、そこには見事な銀髪の少女が横たわっていた。着ている服はあちこち破けていて、服の裾は泥で汚れている。まるで――長いあいだ森の中をさまよい、力尽きたかのようだった。

 その服装はどこか見覚えがある。


「この服、教会のシスターと似てますね……」

「教会関係者ですね。質素な服ですし、たぶん下働きの子でしょう」


 少女の手は冷え切り、呼吸も浅い。ひとりでこんな危険な森に入った理由は分からないが、相当な距離を歩き続けていたのだろう。折れた枝や獣の足跡が点々と続き、彼女がどれほど心細い道を辿ってきたのかを物語っていた。


 僕たちは少女を抱きかかえ、急いで村へと連れて帰った。

 そして後に分かったことだが――彼女は、ある“特別なギフト”の持ち主だったのだ。

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