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13話 銀髪の少女と歪んだ誓い

 ◆森の中の銀髪◆


 森の中で倒れていた少女を、僕たちはラホ村へ連れて帰った。その身なりから、教会で下働きとして使われていたのだろうとリックさんは言った。

 だが、なぜ彼女があの危険な森の中で倒れていたのか――それが最大の謎だった。


 翌日、少女は目を覚ました。

 僕とラピスが話を聞こうとしたが、彼女は何も語ろうとしなかった。教会で働いていたのなら、そこまで送ろうと提案したが、少女――フローネは、はっきりと「戻りたくない」と拒絶した。



 村の外れ、小高い丘の上に、古びた教会がぽつんと建っている。

 かつては年老いた神父が住み、祈りの声が絶えなかったその場所も、今では風に軋む扉と、苔むした石畳が時の流れを物語っていた。


 フローネはその教会の中に足を踏み入れると、まるで懐かしい友に再会したかのように、静かに女神像の前にひざまずいた。

 その手つきは丁寧で、どこか神聖なものに触れるような慎ましさがあった。埃を払い、花を供え、祈りを捧げる彼女の姿に、僕たちは言葉を失った。


 その姿を見た僕は、フローネは、教会が嫌いで逃げてきたわけじゃない。そう確信した。

 むしろ、彼女にとってこの場所は、心の拠り所だったのかもしれない。


「ここに住んでもいいんでしょうか……?」


 フローネの小さな声に、僕たちは顔を見合わせ、すぐにうなずいた。


 ただ一つ、気がかりなことがあった。フローネは、同年代の男の子に対して極端な恐怖を見せたのだ。


 数日が経ち、フローネは少しずつ村に馴染んでいった。それでも男の子に対する警戒心は消えず、リリアナが「フローネちゃんは私が守る!」と騎士気取りで張り切っていた。



 ◆森に現れた追跡者◆


 そんなある日、リックさんたち“盾の守護者”が森で狩りをしていると、木々の間から数人の騎士を従えた少年が現れた。

 その少年は、年若いながらも高慢な態度を隠そうともせず、まるでこの森が自分の庭であるかのように、堂々とした足取りで近づいてきた。


「なぁ、そこの冒険者――銀髪の女の子を見なかったか?」


 命令口調に近いその声は、挨拶も名乗りもなく、まるで相手を見下すような響きを帯びていた。

 リックたちは一瞬顔をしかめたが、すぐに表情を整え、肩をすくめて答えた。


「銀髪の女の子? いやぁ、見てないな。なぁ、みんな?」


 仲間たちもそれに合わせて首を振る。

 少年――ギルは、彼らの反応に不満げな顔を見せたが、それ以上は追及せず、鼻で笑うようにして背を向けた。


「そうか。……邪魔したな」


 その場に残されたリックたちは、しばし無言のままだった。


「なぁ、リック……今の奴、なんか変じゃなかったか?」


「……ああ。教会のやばい感じが、ひしひしと伝わってきたぜ。戻ったらすぐ坊ちゃんに報告だ」

 とリックは言い、村に戻ってすぐに僕に報告してくれた。僕も、フローネが男の子を怖がる理由が、そのギルという少年にあるのではないかと感じ始めていた。


 ――数日後――


 ギルはついに、フローネが村にいることを突き止めた。

 森の外れで、リリアナと笑い合うフローネの姿を見つけた瞬間、ギルの胸に嫉妬と怒りが燃え上がる。


 無垢な笑顔が、ギルには裏切りにしか見えなかった。自分を捨てて、他人と幸せそうに過ごす姿が、どうしても許せなかった。



 ◆嫉妬と執着◆


「くそぅ……自分の立場も忘れて、こんなところでのうのうと……」


 フローネの幸せそうな姿が、ギルの中の何かを壊した。

 彼の中で、フローネは“自分のもの”であり、逃げるなど許されない存在だった。

 その歪んだ執着が、ある“名案”を生み出す。


「あの少女を攫えば、フローネは言うことを聞くはずだ」



 翌日。 フローネとリリアナが連れ立って村の外れまで出かけたその帰り道、突然、森の影から数人の騎士が現れた。

 リリアナが叫ぶ間もなく、ギルの命令で護衛騎士たちが彼女を捕らえ、剣を喉元に突きつける。


「フローネ、女神に誓え。一生、俺の言うことだけを聞くと」


 ギルの声は冷たく、容赦がなかった。

 フローネの心臓が跳ね上がる。目の前で怯えるリリアナ。助けなきゃ。でも――


(……嫌だ。戻りたくない。……)


 あの教会で過ごした日々が脳裏をよぎる。

 命令に従わなければ罰が待ち、笑うことも、泣くことも許されなかった。


(でも、リリアナが……私のせいで……)


 リリアナの目が、助けを求めてこちらを見ている。

 自分を守ってくれた、大切な友達。その命が、今にも奪われようとしている。


「わたしは……一生、ギルのいうことだけを……」


 震える声が喉から漏れたその瞬間――


「フローネ、本当のことを言え!!本当はどうしたい!!」


 アランの声が、森を裂いた。



 ◆叫びと解放◆


 フローネの瞳に涙があふれ、ついに心の奥底から叫んだ。


「私、教会になんて戻りたくない! ずっとこの村で、みんなと一緒に暮らしたい!!」


 その言葉に、ギルの顔が歪む。

 怒り、困惑、そして打ち砕かれた自尊心――

 彼の中で、フローネは従順であるべき存在だった。だが、彼女は自らの意思で、ギルを拒絶したのだ。


「……そうかよ。だったら、もういい。おい、フローネを無理にでも連れていくぞ!」


 ギルは唇を強く噛みしめ、怒りと焦りを滲ませながら叫んだ。目の奥には、どうしようもない苛立ちと焦燥が渦巻いている。命じられた護衛騎士たちが剣を抜き、アランたちに襲いかかる。


 リックたち盾の守護者がすかさず応戦するが、相手は教会の護衛騎士。剣豪や剣士のギフトを持つ猛者ばかりで、リックたちは次第に押され始めた。



「【絶対切断(ナイトキラー)】」


 その一言が響いた瞬間、ラピスの剣が閃き、リリアナを拘束していた護衛騎士が血を噴き上げて倒れた。ギルも護衛たちも、何が起きたのか理解できずに目を見開く。しかしラピスは風のような速さで駆け抜け、護衛騎士たちが次々と地に伏していった。抵抗する暇すら与えられず、全員が瞬く間に沈黙した。


「……まだ、やる?」


 ぼくがそう問いかけると、ギルは顔を歪め、悔しさに満ちた目でこちらを睨みつけた。拳を震わせ、唇を噛み切らんばかりに噛みしめている。だが、勝ち目がないことは明白だった。


「フローネ……教会は、お前を逃がさない……絶対に、だ!」


 怒りと無念を吐き捨てるように叫び、ギルは踵を返して走り去った。その背中には、敗北の影が濃く落ちていた。



 ◆帰還と、やきもちと、坊ちゃまの罪◆


 しばしの沈黙が流れた。アランはそっと彼女の肩に手を置き、穏やかな声で言った。

「――さて、帰ろうか。僕たちの村に。」


 その一言に、フローネの瞳が潤む。

「……あらん様……」


 感極まったように、彼女は小さく呟いた。


「んんっ!!」

 場の空気を切り裂くように、わざとらしい咳払いが響く。リリアナが腕を組み、じと目でこちらを見ていた。


「ずいぶんと放置されてた気がするんだけど?」


 その横で、ラピスが肩をすくめてため息をつく。

「また坊ちゃまの“女垂らし癖”が出ましたね……まったく。」

挿絵(By みてみん)

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