発熱
十二月に入ってすぐだった。寒波が田舎町を襲い、昨夜、遅くまで遊んでいた私は体調を崩していた。
そして、今日になって起きると、気怠さと、いつの間にか慣れてしまったほほを伝う涙と、憂鬱な頭痛があった。朝と呼ぶには少し遅い時間で、完全に学校に遅刻だった。重い体を引きずって廊下に出る。私の部屋から一階に下りる階段の途中に夏穂の部屋があるが、中からは人の気配も物音もしない。
一階に下りて台所まで行くと、冷たくなった食パンと紅茶が、たぶん朝のままにされていて、テーブルの端には体温計と風邪薬が隠すように置いてあった。
湿気たパンをかじりながら、身支度をした。体温が三十八度を越えていたが、孤独になるのが嫌で学校に行くことにした。
外は曇っていて、寒かった。木陰にはずいぶん前にできた水たまりがまだ残っていて、凍っているのかわからないそれを避けて歩いた。幸いなことに、バスは私が停留所に着くのと同時に来た。これなら昼前には学校に着けそうだった。
バスの一番後ろの座席に座り、頭を窓に付けると、火照った顔に溜まった熱が一気に吸い込まれていく。顔はかなりの熱を帯びていて、気怠さも起きた時よりも強く感じていた。
難儀な性格だと自分でもわかっていた。それでも、やはりどうしようもないのだ。
私一人を乗せて、大きく揺れながらバスは走っていく。
身体のだるさと頭痛で、授業もほぼ寝て過ごし、ただ人と話す間だけ平素を装い、作り笑顔を振り撒いた。私を操る私はこの日も良く働いた。歩く体力もない癖にクラスメイトの元へ足が動き、自分の笑い声で頭が痛むのに大声で笑った。何のために、誰のためにこんなことしてるのか、分からなかった。私を痛めつけるように、じらすように、時間が進み、限界を感じた時にはもう授業は終わっていた。放課後の友人の誘いを断り、半ば助けを求めるように家路を辿った。
幸運にも空いているバスに乗ることができ、なだれ込むように座席について、身につけてきたマフラーに顔を埋めた。ポケットの中でカッターナイフをじっと掌で握っていた。できるだけ意味を考えないように、できるだけ何も考えないように。
「小春ちゃん?」
と声が聞こえた気がした。振り向く、ああ、この間知り合った子だ。
脳内でスイッチが入る。私ではない私がまた顔を出す。
「すごいね……バスの中で会えるなんて。」
泣きたいはずなのに、私はまた笑う。
携帯がポケットの中でバイブレーションしている。真っ暗で周りがよく見えないが、少し身体を動かすと木と木が軋む音がする。そうだ、ここは蔵だ。いつもよりずっと早めに帰宅したのは良かったものの、家の鍵が閉まっていて開けられず、蔵の二階で、休憩のつもりで眠ってしまったことを思い出した。依然として体調は優れず、頭痛と倦怠感が体に残っている。。
時間は真夜中を過ぎていた。携帯を見ると黒猫から新規で二件、最近友達になった朱里から十二件、メッセージの通知が来ていた。
朱里という文字を見て、そういえば今夜、彼女と夜通し遊ぶ約束をしていたことを思い出す。メッセージの内容も私を催促するものばかりだった。
返信で、遅れる旨を告げ、出かける準備をするために自分の部屋へ向かう。外は昼よりもずっと寒く、息が白くなった。月明かりが微かに地面だけを照らしていて、静かで、生き物の気配がなく、一度闇に飲まれてしまうと戻ってこれないような気がした。携帯の照明と、寒さでしびれる手先の感覚で、戸口まで向かう。母家の鍵は開いていた。今日は『先生』も奥さんもお義兄さんも家にいないはずなので、夏穂が開けておいてくれたのだ。音を立てないように引き戸をそっと閉める。外よりも玄関は少しだけ暖かかった。まだ起きているのか、二階からテレビの音がした。
彼女はまっとうに生きているのに、私は一体、何をしているんだろう。私はその事実から逃れるように、忍び足で階段を一歩ずつ登る。
こんなに前に進みたいのに、押し流されないように歩いているのに、終わりが見えなかった。




