71話 『工房に響く笑い声』
それから、数日が経った。その日は、アルフィとフィオナが工房に顔を出していた。
「ゼロ、久しぶりだな。元気にやってるか?」
「うん。アルフィたちも元気そうだね」
「まあな。こっちはいつもどおりだ」
アルフィが笑いながら工房を見回した。
「それにしても、ずいぶん賑やかになったな」
「そうかな?」
「そうだろ。前に来たときより、みんな楽しそうだし」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
近くでは、弟子たちが作業をしながら話していた。誰かが冗談を言えば笑い声が上がり、分からないことがあれば、僕のところへ尋ねに来る。
「ゼロさん、これ見てもらっていいっすか?」
「うん。ちょっと待ってね」
僕が頼まれた武器を確認していると、別の弟子が横から声をかけてきた。
「そういえばゼロさん、この前教えてもらったやり方、うまくいきましたよ」
「本当? よかった」
「おかげさまで。ありがとうございます」
「いや、僕は一緒に考えただけだから」
そう答えると、彼は嬉しそうに笑って、自分の作業台へ戻っていった。
その様子を見ていたアルフィが、僕の肩を軽く叩いた。
「ゼロ、お前……ちゃんと頼られてるんだな」
「……そうだといいけど」
「なんだよ。もっと自信持て」
アルフィはそう言って笑った。
フィオナも、工房の中を静かに見回していた。腰には、僕が作った短剣が下がっている。
「……その短剣、持っててくれてるんだ」
「うん」
フィオナは腰の短剣にそっと触れた。
「……結構気に入ってる」
「え?」
「……別に」
フィオナは少しだけ顔をそらした。
それだけのやり取りだったけれど、僕は嬉しかった。
僕が作ったものを、こうして今も大事にしてくれている人がいる。そのことが、少しだけ誇らしかった。
しばらくして、アルフィが僕の顔を覗き込んだ。
「そういえば、ゼロ。最近、ちょっと疲れてないか?」
「え?」
「いや、なんとなくな。前より元気がないように見えるっていうか」
僕は思わず、自分の顔に触れた。
「……そうかな?」
「気のせいならいいんだがな。あんまり無理するなよ」
「うん。ありがとう」
僕は笑って答えた。
フィオナは何も言わなかった。ただ、少しだけ心配そうに僕を見ていた。
二人ともそれ以上は何も聞かなかった。
僕自身、どうしてそんなふうになっているのか、まだよく分かっていなかった。だから、心配をかけるようなことでもないと思った。
弟子たちの声が聞こえる。槌の音が響いている。アルフィとフィオナも、いつものようにそこにいる。僕は、ここでちゃんとやれている。そう思いたかった。
やがて話題は別のことに移り、工房にはまた賑やかな声が広がった。アルフィの笑い声が聞こえ、弟子たちもつられて笑っていた。
僕もつられて笑いながら、ふと窓の方へ目を向けた。
「……あれ?」
窓の外に、何かが見えた。人影、だったような気がした。もう一度目を向けたときには、何も見えなかった。気のせいだったのかもしれない。
「ゼロさん?」
弟子に呼ばれて、僕はそっちを振り返った。
「どうしたの?」
「いえ、ここの仕上げなんすけど……」
「ああ、うん。ちょっと見せて」
差し出された武器を受け取り、僕は作業台に目を向けた。窓の外のことは、すぐに頭から離れていった。




