↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
66/87

66話 『王都への贈り物』

 それから、何日か経った。


 僕は何度も短剣を作り直した。刃の長さを変えた。重さを変えた。柄の形も変えた。


 作って、握ってみる。少し違う。また作る。それを何度も繰り返した。


 そして、ようやく。


「……これだ」


 僕は、できあがった短剣を見つめた。細い刃。短すぎない長さ。軽いけれど、軽すぎない。柄を握る。手の中に、すっと収まった。


「……うん」


 今まで作ったものとは違う。これなら、フィオナが持っても大丈夫だと思った。


 僕は短剣を布で包んだ。


 工房を見回す。職人たちは、それぞれ自分の仕事をしている。僕は少し考えてから、近くにいたカインに声をかけた。


「僕、ちょっと出てくる」


「分かった」


「今日中には戻る。それまで任せてもいいかな?」


「ああ、任しとけ」


 カインに伝えて、僕は工房を出た。


 短剣を、フィオナに渡しに行くためだった。王都までは少し遠い。何度か馬車を乗り継いで、空白地帯の近くまで向かった。


 窓の外を眺めながら、僕は膝の上の包みを確認した。ちゃんとある。落としてない。傷ついてもいない。


「……喜んでくれるかな」


 小さく呟いた。


 しばらくして、目的の場所に着いた。フィオナがいる場所を聞いて、僕は一人で歩いた。少し探したあと、見覚えのある姿を見つけた。


「フィオナ」


「……ゼロ?」


 フィオナが振り返る。


「どうしてここに?」


「ちょっと、渡したいものがあって」


「……私に?」


「うん」


 僕が包みを取り出すと、フィオナは少し目を細めた。


「……何?」


「開けてみて」


 フィオナが布をほどく。中から、一本の短剣が現れた。


「……」


 フィオナは黙って短剣を見る。僕は少し緊張しながら、その様子を見ていた。


「……綺麗」


「うん」


「これ……」


「フィオナのために作った」


 フィオナの手が止まった。


「……私の?」


「うん」


 フィオナは短剣を持ち上げた。刃を眺める。それから、柄を握った。何度か握り直して、手の中で重さを確かめる。


「……軽い」


「うん。フィオナは細い剣を見てたから」


「……覚えてたの」


「うん」


 フィオナは何も言わなかった。ただ、短剣を握ったまま、しばらく見つめていた。


「……悪くない」


「本当?」


「うん」


 わずかに、口元が上がる。


「私に合ってる」


「よかった」


 僕はほっとした。何度も作り直した。これで違うと言われたら、また作るつもりだった。


「……ゼロ」


「ん?」


「ありがとう」


 小さな声だった。


「うん」


「大切にする」


 フィオナはそう言って、短剣を胸元に引き寄せた。その手は、さっきより少しだけ強く柄を握っていた。


 僕はその姿を見て、なんだか嬉しくなった。


 ずっと、フィオナがこの短剣を握っているところを想像していた。


 どうすればもっと持ちやすいか。どうすればもっと使いやすいか。そうやって考えている時間が、楽しかった。


 フィオナはしばらく短剣を見つめて、それから、鞘に収めた。そして、ゆっくりと布で包む。その動きが、なんとなく丁寧だった。


 僕は何も言わなかった。フィオナも、何も言わない。少しの間、静かな時間が流れた。


 僕は自分の手を見る。何度も槌を握った手。何度も鉄を叩いた手。小さな傷や、火傷の跡も残っている。


 前は、失敗するたびに悔しかった。でも今は、その失敗も悪くないと思える。


 何度も作り直したから、この短剣ができた。そして今、その短剣はフィオナの手の中にある。


「……職人って、楽しいね」


 僕が言うと、フィオナが僕を見る。


「……そう」


「うん」


 短い返事だった。僕は笑って頷いた。工房にいたときも楽しかった。鉄を見て、叩いて、失敗して。少しずつできることが増えていくのも嬉しかった。


 でも、今はそれとは少し違う。自分が作ったものを、誰かが大切にしてくれる。そのことが、嬉しかった。


「もっと作りたい」


「……」


「いろんな剣を作ってみたい」


 僕の言葉に、フィオナは小さく頷いた。


「ゼロなら、できるんじゃない」


「……うん」


 今度は僕も、迷わず頷いた。荷物を肩に掛け直すと、フィオナがじっと僕を見つめた。


「帰るの?」


「うん。明日も工房があるから」


「……そっか」


 フィオナは布に包んだ短剣を手に持った。それを大事そうに抱えるようにしている。


「じゃあ、またね」


「……うん」


 フィオナは少しだけ笑った。僕も笑った。


 帰り道、僕は何度も自分の手を見た。今日まで、たくさん失敗した。これからも、きっと失敗する。


 でも、それでもいい。鉄を見て、叩いて、形を作る。誰かのために、自分の手で何かを作る。それが、楽しかった。


 フィオナが短剣を大切そうに持ってくれたことも嬉しかった。もっと上手くなりたいと思った。もっと、いろんなものを作りたいと思った。


 もしかしたら――。これが、僕がずっと探していたものなのかもしれない。僕が、本当にやりたいと思えることなのかもしれない。


 そのときの僕は、それが答えなんだと思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。