64話 『鉄の匂いと、いつもの二人』
何日か経った頃。工房にアルフィーとフィオナが来た。
ちょうど昼の休憩時間だった。他の職人たちは外で休んでいて、工房の中にいるのは僕とカインだけだった。
「よう」
「久しぶり」
「二人とも、来てくれたんだ!」
僕が二人のところへ向かうと、カインもこっちを見た。
「ゼロ、この二人は?」
「僕の仲間だよ。アルフィーとフィオナ」
僕が紹介すると、アルフィーが軽く手を上げた。
「アルフィーだ」
「……フィオナ」
フィオナも短く名乗る。
「初めまして。俺、カインです。ゼロと一緒にここで働いてます」
「よろしく」
「あぁ、よろしく」
簡単に挨拶を交わす。
「カインは、グレンさんの弟子なんだ」
「そうか」
アルフィーがカインを見る。
「グレンの弟子か」
「はい」
そんなやりとりで、空気が落ち着く。
「それで、ゼロはどうだ?」
アルフィーが僕を見る。
「まだまだだけど、少しずつできるようになってきたよ」
「そうか」
アルフィーはそう言って、腰から拳銃を取り出した。
「今日はこいつを持ってきた」
「銃?」
「ああ。前にグレンに直してもらったやつだ」
僕は銃を受け取った。
重い。表面を見て、部品を一つずつ眺める。でも――。分からない。
剣なら、触っただけでどこに力がかかっているのか分かる。どこを削ればいいのかも、なんとなく見える。でも、この銃は違った。
「……やっぱり、分からない」
「何がだ?」
「剣みたいに、どうすればいいのか見えない」
「そりゃそうだろ」
アルフィーが少し笑った。
「お前、剣のことになると変だからな」
「変?」
「ああ」
「そうかな」
フィオナが横から銃を見る。
「……それ、難しいの?」
「うん。僕には、まだ分からない」
少し残念だった。でも、仕方ない。分からないものは、分からない。
僕は布を手に取った。
「ゼロ、できるのか?」
「磨くだけなら」
「そうか。なら頼む」
僕は銃の表面を布で拭いた。
細かい汚れを落としていく。傷がつかないように、ゆっくりと磨く。
「……これ、前より綺麗になってる?」
「まあな」
アルフィーが答える。
「グレンに直してもらったときから、大事に使ってるんだ」
「そうなんだ」
「だから、頼むならゼロにやってもらおうと思ってな」
「僕に?」
「ああ」
アルフィーはそう言って、椅子に座った。カインは少し離れたところで、僕たちを見ていた。
「アルフィーさんの銃って、そんなに大事なんですか?」
「ああ。こいつには何度も助けられてるからな」
「へえ……」
フィオナは二人の会話を聞きながら、工房に並んでいる剣を見ていた。
僕は銃を磨き続けた。剣とは違う。触っても、どこをどうすればいいのかは分からない。でも、こうして表面を磨くことならできる。
しばらくして、僕は布を置いた。
「できた」
アルフィーが銃を受け取る。
「……悪くないな」
「本当?」
「ああ」
アルフィーが銃を確かめている横で、フィオナはまだ剣を見ていた。
「フィオナも剣、気になるの?」
「……別に」
「そう?」
「見てるだけ」
「欲しいの?」
「……」
フィオナは少しだけ剣を見る。
「別に、欲しいとは言ってない」
すると、カインが小さく笑った。
「フィオナさん、分かりやすいですね」
「……」
フィオナが睨む。
「えっ、あ、ごめん!」
カインは笑いながら一歩下がった。僕も笑った。なんだか、少しだけ楽しかった。
フィオナが剣を見ている。アルフィーが銃を受け取っている。カインが隣で笑っている。みんなが同じ場所にいる。それが、なんだか嬉しかった。
「アルフィー」
「ん?」
「僕、前より職人っぽくなった?」
アルフィーは僕を見て、それから工房を見回した。
「……まあな」
「本当?」
「ああ。前は鉄を叩いてるだけだっただろ」
「今は?」
「鉄を見てから叩いてる」
「それって職人っぽい?」
「少しはな」
僕たちのやりとりに、フィオナが小さく笑った。
「……えっ、何?」
「ううん」
アルフィーも少し笑っていた。
「ゼロ、楽しそうだな」
カインがそう言った。
「うん」
「工房に来たばかりの頃は、もっと必死な顔してたのに」
「そうだったっけ?」
「そうだよ。ずっと失敗してたし」
「今も失敗するよ」
「でも、前とは全然違う」
カインはそう言って、どこか嬉しそうに笑った。
その横で、フィオナはまた剣を見ている。
僕はその姿を見ながら考えていた。フィオナにも、作ってあげたい。




