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63話 『少しずつ、前へ』

 ――翌朝。


「ゼロ、起きてる?」


 カインの声で目が覚めた。


「……うん」


「工房、行くぞ」


 僕は急いで支度をした。昨日は一人で工房へ向かった。でも、今日はカインと並んで歩いている。


「今日もやるのか?」


「うん」


「昨日、あれだけ失敗したのに?」


「だから、もう一回やる」


 カインが少し笑う。


「そっか」


 工房に着くと、昨日と同じように鉄の匂いと熱気が迎えてくれた。


 僕は金床の前に立った。鉄を熱する。叩く。


「……あれ?」


 形が崩れる。熱しすぎる。力を入れすぎる。冷ますのが遅い。何度やっても、思った形にはならなかった。


「また失敗してるな」


 近くの職人が言った。


「……うん」


「称号を持ってるからって、すぐ職人になれるわけじゃないだろ」


 僕は何も言わなかった。悔しかった。でも、槌を置くことはなかった。


 次の日も、その次の日も工房へ行った。何日か経っても、まだ失敗は多かった。でも、少しずつ変わっていった。


 最初は鉄が赤くなるまで待っていた。でも、何度も触っているうちに、どのくらいで叩き始めればいいのか分かるようになった。


「……今だ」


 鉄を炉から取り出す。金床に置く。槌を振る。ガンッと鉄を叩く音が響いた。前よりも、鉄が素直に形を変えた。


「……ちょっと違う」


 僕は鉄を見る。


「もう少しだけ、こっちだ」


 叩く場所を変える。今度は思った形に近づいた。


「お」


 カインが声を漏らした。


「ゼロ、いい感じじゃん」


「うん」


 嬉しかった。


 でも、まだ失敗する。強く叩きすぎることもある。逆に弱すぎることもある。


 それでも、前とは違った。失敗したときに、何が悪かったのか少しずつ分かるようになっていた。


 それでも、前とは違った。失敗したときに、何が悪かったのか少しずつ分かるようになっていた。


 鉄を見る。


「ここ、薄いな」


 もう一度。


「今度はちょっと、弱すぎたかな」


 失敗した鉄を見れば、原因が少しずつ見える。


 それから、さらに何日か経った。


 最初は一日かかっていた作業が、半日で終わるようになった。半日かかっていた作業が、数時間で終わるようになった。


 それでも、まだ失敗はする。だけど、失敗した鉄を前にして、ただ首を傾げることは減っていた。


「……ここだ」


 鉄を見て、僕は呟く。


「どうした?」


 カインが横から覗き込む。


「ここを叩きすぎた」


「分かるのか?」


「うん」


 僕は鉄を指差した。


「前よりは」


 カインは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、また直せるな」


「うん」


 僕は槌を握った。周りの職人たちは、まだ僕を認めてはいなかった。


「……あいつ、最近ずっとやってるな」


「称号だけの奴かと思ってたけどな」


「まあ、まだまだだろ」


 そんな声が聞こえることもあった。僕は気にしなかった。カインがいる。失敗しても、またやればいい。


 それに、少しずつだけど、前よりできるようになっている。これからも努力し続ければ、僕もグレンさんみたいな、本物の職人になれるのかもしれない。

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