19話 『分け合う果実、小さな灯火』
夕日がさらに傾く。集落を見回していた僕は、遠くから近づいてくる人影に気がついた。
「アルフィー」
両腕には大きな袋。肉。野菜。果物。アルフィーは何も言わず、人々のいる方へ向かう。見覚えのある光景だった。
「ああ、帰ってきたか」
老人が声を掛ける。アルフィーは軽く袋を置いた。
「ほら」
短く言って中身を取り出す。肉を渡す。野菜を渡す。果物を渡す。慣れた手つきだった。
「すまんな」
老人が受け取る。
「ほんと助かるよ」
子供連れの女が受け取る。
「……毎回悪いな」
怪我をした男が、申し訳なさそうに言った。
「いつかこの怪我が治って、称号を取り戻せたら……その時は必ず返す」
そして、真剣な顔でアルフィーを見る。
「だから、それまでは生きててくれ」
アルフィーは、わずかに目を伏せて言った。
「俺の心配すんな」
相変わらずぶっきらぼうだ。だけど、その横顔に一瞬だけ、今日王城で何かを振り切ってきたような、ひどく重い影が差した気がした。
――やっぱり、アルフィーは何かを隠している。
「本当に変わらんな、お前は」
老人が笑う。
「そんなだから、いつまで経っても一人なんだぞ」
「うるせぇ」
アルフィーが返すと、周囲から小さな笑い声が漏れた。
僕は少し不思議な気持ちでその様子を見ていた。アルフィーは無愛想だ。口も悪い。優しい言葉をかけるわけでもない。
なのに、みんな当たり前に話しかける。当たり前に頼る。そして当たり前に笑う。まるで家族かのように。
気づけば僕は口を開いていた。
「もしかしてさ」
アルフィーが振り返る。
「いつもこうしてるの?」
アルフィーは果物を一つ手渡しながら答えた。
「まあな」
「毎日?」
「ああ」
あまりにも当然のような返事だった。僕は思わず周りを見る。老人。若い男女。子供たち。みんな受け取った食べ物を大事そうに抱えている。
「大変じゃない?」
そう聞くと、アルフィーは少しだけ眉をひそめた。
「放っとくと死ぬからな」
それだけだった。格好つける様子もない。本当に当たり前のことを言っただけ、という顔だった。でもそれがすごくかっこよく見えた。
「……」
僕は何も言えなかった。
やがてアルフィーが配り終えると、受け取った人たちはそれぞれの小屋へ戻り始めた。どこかで子供の笑い声が聞こえる。小屋に小さな火が灯っていく。空は少しずつ暗くなり始めていた。
「行くぞ」
アルフィーが袋を持ち上げる。中には少しだけ食材が残っていた。僕は頷いて、後に続いた。
夜の闇が空白地帯を飲み込んでいく。だけど、僕の胸の中には、消えない熱い火が灯り始めていた。




