↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/58

十六話 『一人きりの城門、最強の勇者』

 演説が終わり、僕はアルフィーの後を歩いていた。向かう先は王城だった。


「本当に行くんだ」


「言っただろ」


 当然みたいな顔。巨大な城門が近づいてくる。両脇には鎧姿の門兵が立っていた。さすがに止められる。そう思った。


「止まれ」


 城門の前で門兵が槍を交差させる。


「称号を名乗れ」


 アルフィーは面倒そうに頭を掻いた。


「傭兵だ」


 次の瞬間。足元に淡い緑色の光が広がる。


『――傭兵』


 どこからともなく声が響いた。門兵は頷く。


「ああ、アルフィーか」


 もう話は通っているらしい。


「王がお呼びだ。入れ」


 重い門がゆっくり開き始めた。僕は思わず目を瞬かせた。


「入れるの?」


「呼ばれてるからな」


 アルフィーは当たり前のように言う。


「僕は?」


「無理だ」


 即答。わかってたけど。


「えぇ……」


 アルフィーはそのまま城門へ向かう。そして、数歩進んだところで振り返った。


「終わるまで適当に時間潰してろ」


「どれくらい?」


「さあな」


 それだけ言うと城の中へ入っていく。重い門が閉じた。僕だけが取り残される。


「……」


 一人になってしまった。しかたない、しばらく城の周辺でも回るか。


 歩いていると、演説を見に来ていた人たちがまだ大勢残っていた。貴族らしい服を着た人。騎士。商人。みんな堂々としている。称号を持っているからだろうか。なんだか少し眩しい。


「称号、か……」


 ふと、僕はとあることを思いついた。そして周囲を見回した。誰もこっちを見ていない。……よし、今なら――。


 胸を張る。顎を上げる。


「フッ……」


 喉を締め、低い声を作る。


「見せてやる」


 右手を前へ。


「この剣に宿りし力を……!」


 もちろん剣なんて持っていない。でもそこはイメージだ。両手で柄を握る真似をする。


「僕は――」


 大きく振りかぶる。


「最強の勇者だ!」


 勢いよく振り下ろした。空を斬る。何もない空間を。


「……?」


「……何だあいつ」


 横から声が聞こえてくる。


「勇者って言ってなかった?」


「どう見たって、勇者なわけないだろ」


「子供か?」


 僕は固まった。ゆっくり首を向ける。通りすがりの人たちが微妙な顔でこっちを見ていた。


「……っ」


 顔が熱い。火が出るくらい。


「コ、コホン」


 僕は小さく咳払いした。そして何事もなかったかのように歩き出す。当然だ。僕は何もしていない。何も気にすることはない。……何も。


 その時だった。


「うわっ!」


 子供の声が聞こえた。反射的にそっちを見る。


 少し先の人混みの中で、小さな男の子が転んでいた。抱えていた荷物が石畳の上へ散らばる。果物が転がり、布袋が地面へ落ちた。


「あっ……」


 男の子は慌てて立ち上がり、散らばった荷物を拾おうとした。するとその前で、一人の少女が足を止めた。


 黒いフード付きの外套。ちらりと見える白い髪。僕は思わず目を見開く。


「……あ――」


 路地裏で見た少女だ。黒い外套。白い髪。間違いない。少女は何も言わずにしゃがみ込み、転がった果物を拾い上げる。そして男の子へ差し出した。


「ほら」


 小さな声。その時、風で彼女のフードが捲れた。白く長い髪が風になびく。次の瞬間、周囲の空気が変わった。


「おい、あの赤い目……」


「あ……悪魔だ……」


 誰かが呟く。


「ち、近づくな!」


「何で悪魔がこんなところに……」


「縁起が悪い」


 刺すような声が周囲から聞こえてくる。僕は思わず周囲を見回した。みんな少女を見ていた。嫌悪するような目。怯えるような目。まるで何か恐ろしいものを見ているかのようだった。


 その時、人混みの中から女性が飛び出してきた。どうやら男の子の母親らしい。女性は男の子を抱き寄せた。まるで危険なものから守るみたいに。


「行くわよ」


 男の子は少し戸惑った顔をしていた。でも母親に腕を引かれ、そのまま連れて行かれる。少女への礼の言葉はなかった。一言も。


 少女は何も言わない。表情も変わらない。ただ荷物を渡すと、そのまま歩き出した。


「……」


 僕は言葉を失った。助けただけだ。転んだ子供を。荷物を拾ってやっただけだ。それなのに。誰も感謝しない。それどころか責めていた。ひどい。ひどすぎる。


 少女は人混みの向こうへ歩いていく。黒い外套が少しずつ遠ざかる。僕は迷った。追うべきか。その時だった。


「終わったぞ」


 後ろから声がした。振り返る。アルフィーだった。いつの間にか城から戻ってきている。


 僕は再び少女の方を見る。人混みの向こう。白い髪が見える。


「あの子……」


 思わず呟く。アルフィーが眉をひそめた。


「なんだ、知り合いか?」


「……いや」


 少しだけ沈黙が流れた。少女の後ろ姿はどんどん遠ざかっていく。


「……っ」


 僕は目を離せなかった。


「助けてたのに」


「……」


 アルフィーは何も言わない。


「なんであんなこと言われてたんだろう」


 白い髪が人混みの向こうへ消えそうになる。気づけば僕はそっちに足を速めていた。


「ちょ、おい!」


 アルフィーの声が後ろから飛んできた。だけど、僕は足を止めなかった。


 彼女は助けただけだった。それなのに、どうしてあんな目で見られていたんだろう。それが気になって仕方がなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。