25 功労者の顕彰
女王の言葉が終わると、広間の正面に控えていた侍従が一歩前へ出た。
「これより、ティレアン火山の調査および鎮静について、王国魔術院より報告がございます」
招待客たちの視線が、シグヴェルトへ集まる。
シグヴェルトはひとり、女王の前へ進み出て、皆の前で話し始めた。
「ティレアン火山では、地下を流れる魔力の異常な増大が確認されました」
広間へ、落ち着いた声が響く。
「放置していれば大規模な噴火が起こり、周辺領地だけでなく、王国南部の広範囲に被害が及んでいたでしょう。王国魔術院は原因を調査するため、火口付近へ調査隊を派遣しました」
シグヴェルトは必要な事実だけを淡々と述べていく。
「そして、調査責任者であったレオノーラ・クラウゼンが、火山内部に蓄積した膨大な魔力へ直接干渉し、噴火寸前だった火山を鎮めました」
広間がざわめく。レオノーラは思わずシグヴェルトを見た。シグヴェルトは自分の働きを語ろうとしない。
女王が、わずかに目を細めた。
「お前は、己の功績を随分と小さく申告するのですね。お前がいなければ、レオノーラ嬢も無事では済まなかったのでしょうに」
「それでも、火山を鎮めたのは彼女です。――報告は以上です」
シグヴェルトは譲らない。自分はあくまで義務を遂行しただけと言わんばかりの冷静さだ。
これは彼の性格なのか。処世術なのか。
招待客たちの視線が、改めてレオノーラへ向けられる。
王国を救った魔術師を見る目を、レオノーラはどう受け止めればよいのかわからなかった。
シグヴェルトが一礼する。女王は頷き、傍らに控えていた侍従へ目を向けた。
「顕彰を始めなさい」
銀の盆を持った侍従たちが、広間の中央へ進み出る。
「シグヴェルト・エルダーシュタイン。ティレアン火山の調査を指揮し、甚大な災害を未然に防いだ功績を称えます」
女王が、銀と青の宝石で作られた勲章を手に取る。
シグヴェルトは女王の前で膝をつき、静かに頭を垂れた。
「王国の名において、銀星功労章を授けます」
「謹んで拝受いたします」
勲章を受けても、シグヴェルトの表情はほとんど変わらなかった。
ただ立ち上がると、女王へ向かって告げる。
「今回の調査には、王国魔術院の多くの者が携わっています。彼らの働きについても、正当に評価していただきたく存じます」
「もちろん、相応の褒賞を与えるつもりです」
「感謝いたします」
シグヴェルトは短く礼を述べ、レオノーラのもとへ戻ってきた。
続いて、侍従が名を読み上げる。
「レオノーラ・クラウゼン。御前へ」
胸の奥が大きく鳴った。
レオノーラは口元を引き結び、一人で広間の中央へ進む。
女王の前で膝をつくと、大勢の視線が背中へ集まっているのを感じる。
こんなに緊張したことが、いままであっただろうか。
「レオノーラ・クラウゼン」
「はい、陛下」
「あなたは噴火寸前であったティレアン火山を鎮めました。その働きによって、多くの民の命と生活が守られました。王国の名において、その功績を称えます」
女王は、赤い宝石が埋め込まれた勲章を手に取った。
「王国功労勲章を授けるとともに、あなたを王国魔術院特別魔術官に任命します」
「特別魔術官……」
「王国に重大な魔術災害が発生した際、王国魔術総監の指揮下で、その対処に当たる役職です。無論、平時にはこれまでどおり魔術院で勤務してもらいます」
自分に役職が与えられる。働きを認められた結果として。
王太子妃の婚約者でもなく、クラウゼン伯爵家の長女でもなく、父の補佐でもなく、罪人でもなく。
「……謹んで、拝受いたします」
声は少しだけ震えた。
女王が勲章を取りつける。
胸元へ加わった重みが、誇らしかった。
レオノーラが立ち上がると、広間から拍手が起こった。最初は控えめだった音が、次第に大きくなる。
招待客だけではない。魔術院の職員たちも、誇らしそうに拍手している。
シグヴェルトも腕を組んだまま、わずかに頷いていた。
レオノーラは深く一礼した。
「続いて、火山鎮静に力を尽くした竜――ティア」
「きゅ?」
レオノーラの肩に戻っていたティアが、首を傾げた。
「ティア、あなたですよ」
「きゅう!」
理解したのか、ティアはレオノーラの肩から飛び立った。そのまま女王の前へ降りようとしたものの、床が磨かれすぎていたらしい。着地した瞬間に小さな足が滑り、そのまま前へ進んだ。
「きゅううっ」
レオノーラは慌てて手を伸ばしたが、ティアは女王の足元でようやく止まった。
厳粛だった広間に、小さな笑いが広がる。
ティアは何事もなかったように立ち上がり、胸を張った。
女王の口元にも、わずかな笑みが浮かぶ。
「ティア。あなたもまた、火山鎮静に尽力し、調査隊を助けたと報告を受けています」
「きゅう!」
「その功績を称え、王家より特別な飾りを贈ります」
侍従が、金色の小さな首飾りを運んでくる。
中央には、王国の紋章を象った飾りがついていた。
女王がティアの首へ掛けようとすると、ティアは差し出された飾りへ鼻先を近づけた。
そして、口を開ける。
「ティア、食べ物ではありません!」
レオノーラが声を上げる。
ティアの牙が飾りへ届く寸前で、女王が素早く手を引いた。
「きゅ?」
なぜ取り上げられたのかわからないという顔をしている。
会場のあちこちから笑い声が上がった。
「褒賞とは別に、果物を用意させましょう」
女王が言うと、ティアは大きく翼を広げた。
「きゅう!」
今度こそ女王が首飾りを掛けると、ティアは得意そうに招待客たちを見回した。
レオノーラがティアを抱き上げる。
「ありがとうございます、陛下」
女王へ礼をして、シグヴェルトのもとへ戻ろうとした時だった。
「――母上」
招待客の間から、ルシアンが進み出たのは。
レオノーラの知る進行にはない行動だ。拍手と笑いに包まれていた広間が急速に静まる。
そして、女王も眉を顰めていた。
「皆の前で発表しておきたいことがあります」
「許可していません。席へ戻りなさい」
女王の声が冷たくなるが、ルシアンは止まらなかった。
広間の中央に立つレオノーラへ向き直り、満足げな笑みを浮かべる。
「ここに発表します。レオノーラ・クラウゼンを、改めて僕の正妃に迎えると!」
広間が静まり返った。
何を言われたのか理解するまで、レオノーラには少し時間がかかった。式典の場で、多くの貴族が集まる場で、女王の御前で、彼は何を言っているのかと。
ルシアンは堂々と続ける。
「そして――その妹であるフィオナを第二夫人とします!」




