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都合のいい長女は今日でおしまい  作者: 朝月アサ


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25/27

25 功労者の顕彰



 女王の言葉が終わると、広間の正面に控えていた侍従が一歩前へ出た。


「これより、ティレアン火山の調査および鎮静について、王国魔術院より報告がございます」


 招待客たちの視線が、シグヴェルトへ集まる。

 シグヴェルトはひとり、女王の前へ進み出て、皆の前で話し始めた。


「ティレアン火山では、地下を流れる魔力の異常な増大が確認されました」


 広間へ、落ち着いた声が響く。


「放置していれば大規模な噴火が起こり、周辺領地だけでなく、王国南部の広範囲に被害が及んでいたでしょう。王国魔術院は原因を調査するため、火口付近へ調査隊を派遣しました」


 シグヴェルトは必要な事実だけを淡々と述べていく。


「そして、調査責任者であったレオノーラ・クラウゼンが、火山内部に蓄積した膨大な魔力へ直接干渉し、噴火寸前だった火山を鎮めました」


 広間がざわめく。レオノーラは思わずシグヴェルトを見た。シグヴェルトは自分の働きを語ろうとしない。

 女王が、わずかに目を細めた。


「お前は、己の功績を随分と小さく申告するのですね。お前がいなければ、レオノーラ嬢も無事では済まなかったのでしょうに」

「それでも、火山を鎮めたのは彼女です。――報告は以上です」


 シグヴェルトは譲らない。自分はあくまで義務を遂行しただけと言わんばかりの冷静さだ。

 これは彼の性格なのか。処世術なのか。


 招待客たちの視線が、改めてレオノーラへ向けられる。

 王国を救った魔術師を見る目を、レオノーラはどう受け止めればよいのかわからなかった。


 シグヴェルトが一礼する。女王は頷き、傍らに控えていた侍従へ目を向けた。


「顕彰を始めなさい」


 銀の盆を持った侍従たちが、広間の中央へ進み出る。


「シグヴェルト・エルダーシュタイン。ティレアン火山の調査を指揮し、甚大な災害を未然に防いだ功績を称えます」


 女王が、銀と青の宝石で作られた勲章を手に取る。

 シグヴェルトは女王の前で膝をつき、静かに頭を垂れた。


「王国の名において、銀星功労章を授けます」

「謹んで拝受いたします」


 勲章を受けても、シグヴェルトの表情はほとんど変わらなかった。

 ただ立ち上がると、女王へ向かって告げる。


「今回の調査には、王国魔術院の多くの者が携わっています。彼らの働きについても、正当に評価していただきたく存じます」

「もちろん、相応の褒賞を与えるつもりです」

「感謝いたします」


 シグヴェルトは短く礼を述べ、レオノーラのもとへ戻ってきた。

 続いて、侍従が名を読み上げる。


「レオノーラ・クラウゼン。御前へ」


 胸の奥が大きく鳴った。

 レオノーラは口元を引き結び、一人で広間の中央へ進む。


 女王の前で膝をつくと、大勢の視線が背中へ集まっているのを感じる。

 こんなに緊張したことが、いままであっただろうか。


「レオノーラ・クラウゼン」

「はい、陛下」

「あなたは噴火寸前であったティレアン火山を鎮めました。その働きによって、多くの民の命と生活が守られました。王国の名において、その功績を称えます」


 女王は、赤い宝石が埋め込まれた勲章を手に取った。


「王国功労勲章を授けるとともに、あなたを王国魔術院特別魔術官に任命します」

「特別魔術官……」

「王国に重大な魔術災害が発生した際、王国魔術総監の指揮下で、その対処に当たる役職です。無論、平時にはこれまでどおり魔術院で勤務してもらいます」


 自分に役職が与えられる。働きを認められた結果として。

 王太子妃の婚約者でもなく、クラウゼン伯爵家の長女でもなく、父の補佐でもなく、罪人でもなく。


「……謹んで、拝受いたします」


 声は少しだけ震えた。


 女王が勲章を取りつける。

 胸元へ加わった重みが、誇らしかった。


 レオノーラが立ち上がると、広間から拍手が起こった。最初は控えめだった音が、次第に大きくなる。

 招待客だけではない。魔術院の職員たちも、誇らしそうに拍手している。

 シグヴェルトも腕を組んだまま、わずかに頷いていた。


 レオノーラは深く一礼した。


「続いて、火山鎮静に力を尽くした竜――ティア」

「きゅ?」


 レオノーラの肩に戻っていたティアが、首を傾げた。


「ティア、あなたですよ」

「きゅう!」


 理解したのか、ティアはレオノーラの肩から飛び立った。そのまま女王の前へ降りようとしたものの、床が磨かれすぎていたらしい。着地した瞬間に小さな足が滑り、そのまま前へ進んだ。


「きゅううっ」


 レオノーラは慌てて手を伸ばしたが、ティアは女王の足元でようやく止まった。


 厳粛だった広間に、小さな笑いが広がる。

 ティアは何事もなかったように立ち上がり、胸を張った。


 女王の口元にも、わずかな笑みが浮かぶ。


「ティア。あなたもまた、火山鎮静に尽力し、調査隊を助けたと報告を受けています」

「きゅう!」

「その功績を称え、王家より特別な飾りを贈ります」


 侍従が、金色の小さな首飾りを運んでくる。

 中央には、王国の紋章を象った飾りがついていた。


 女王がティアの首へ掛けようとすると、ティアは差し出された飾りへ鼻先を近づけた。


 そして、口を開ける。


「ティア、食べ物ではありません!」


 レオノーラが声を上げる。

 ティアの牙が飾りへ届く寸前で、女王が素早く手を引いた。


「きゅ?」


 なぜ取り上げられたのかわからないという顔をしている。

 会場のあちこちから笑い声が上がった。


「褒賞とは別に、果物を用意させましょう」


 女王が言うと、ティアは大きく翼を広げた。


「きゅう!」


 今度こそ女王が首飾りを掛けると、ティアは得意そうに招待客たちを見回した。

 レオノーラがティアを抱き上げる。


「ありがとうございます、陛下」


 女王へ礼をして、シグヴェルトのもとへ戻ろうとした時だった。


「――母上」


 招待客の間から、ルシアンが進み出たのは。


 レオノーラの知る進行にはない行動だ。拍手と笑いに包まれていた広間が急速に静まる。

 そして、女王も眉を顰めていた。


「皆の前で発表しておきたいことがあります」

「許可していません。席へ戻りなさい」


 女王の声が冷たくなるが、ルシアンは止まらなかった。

 広間の中央に立つレオノーラへ向き直り、満足げな笑みを浮かべる。


「ここに発表します。レオノーラ・クラウゼンを、改めて僕の正妃に迎えると!」


 広間が静まり返った。

 何を言われたのか理解するまで、レオノーラには少し時間がかかった。式典の場で、多くの貴族が集まる場で、女王の御前で、彼は何を言っているのかと。


 ルシアンは堂々と続ける。


「そして――その妹であるフィオナを第二夫人とします!」





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