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竜巻はそよ風に。
土の槍は砂ぼこりに。
凍てつく盾はその形を保てず。
ネズの右目——義眼が魔女の術の全てを散らす。理屈はネズにもよく分かっていない。ただ視界の中でピントが合った魔術がどんなモノであれ散る。
(クっ......この眼を長時間使うのはやっぱりキツイな......)
魔術が散る度に襲う頭痛に、苦悶の顔を浮かべながらもネズは的確に未来を見据える様に術を躱し、反応が遅れる術は散らす。
魔女は大勢の人間を掃討するのに慣れ切っているのか、人間一人に向ける魔術は殺傷能力こそあれど精細さに欠けている。
「......っぅ!!」
欠けた精細さは、魔女の狼狽えと共に更に落ちる。
それでも当たり所次第では致命傷——即死を予期させる威力は健在。
故にネズは血管一つ一つに針を刺される様な脳の痛みに耐えながら、槍を振るう。
既に戦意のある者は亡く、生存に成功した者は本能に従い逃げ切った。行軍中に話した——何度か戦場で出会った名前も知らない男は、腰を境に二つになって転がっている。
「ちょうどいい——な!!」
「なっ?!」
槍の刃が欠け始めた頃合いには、魔女の癖にネズは気づき始めた。
守りの姿勢に入る時は氷の魔術。
飛び道具として風の魔術。
不意への最速の対応には土の魔術。
絶対的な癖とまではネズにも確信を持てないが、右目との併用で魔女の行動の先読みは精度を増す。
敢えて間合いを開け、読み通りに放たれた風の刃に目掛けて男の上半身を全力で跳ばす。
「うぉおおおおぉおお!!!」
血の匂いが広がり鼻腔の奥をくすぐる。慣れた匂い故に、ネズは槍に捻りを加えた渾身の突きを繰り出す!
狙うは胴の中心。
真っ赤な血霧で視界を潰された魔女は出鱈目に土壁を生み出して身を守ろうと足掻いた。
「わっ、我が法を敷く! 害なす者。害ある物。その存在を禁ずること即ち、傷つくこと能わず!!」
(呪文?!?!)
今度こそ、本当に予想外な魔女の行動と共にネズの槍が砕け、ネズ自身は後方に勢いよく吹っ飛んだ!!
「かッハぁ」
背中の激痛と口内の血の味が、思考よりも先に肉体の状態を伝達する。
「——!!」
息を荒げて、顔に付いた血糊を魔女は拭いとる。
ネズは少しだけ勘違いしていた。
魔女から精細さが無くなったのは、己の魔術が消失した事よりも、その眼を持つ人間との再会がこの様な形になった事に対してだったからだ。
そして奥の手——とまでは言わないまでも人間相手に、呪文を唱える日が来るとは夢にも思わなかった
魔女は己の命を、あと一手という所まで追い詰めた男に歩み寄る。
「お久しぶりです...私のこと覚えていますか?」
今度は想定外の一撃を受けたネズが目を見開いた。




