東京物語 ~レビューってどう書けばいいんだろう?1~
高校の校門で、美幸さんや富田先輩と別れた。
僕の頭の中は、これから始まる執筆活動に向けてフル回転している。
ただ、考えることが多い。それを整理していく。
誰に向けた文章だ?
スマホに慣れ親しんでいる、タイパやコスパといった言葉を崇拝?している世代に向けた文章だ。
つまり、私たちへ向けた文章だ。
なにが正解か?
正解は分からない。ただ、むずかしい言葉や言い回しは厳禁だ。とにかくわかりやすく表現しないとダメだ。カッコつけた文章はダメだ。
どうしたら読んでもらえる?
四角四面な内容ではダメだ。ユーモアを交えた内容にしないといけない。
読みやすい文章ってなんだ?
文豪の諸先生方の書くような文体は読みにくいと思う。ライトノベル的な文章がいいと思う。
なんだか、同じような事をぐるぐると考えているな。頭がパンクしそうだ。
整理するんだと思っているが、余計に混乱してきた。
イマジナリーな諸先生方は影をひそめ、静かに推移を見守ってくれるらしい。
ただ単に面倒くさいだけか?
家に着くと、祖父が畑から帰ってきたところだった。
「おー、幸雄。おかえりー、昼めし食ったか?」
「ただいま、爺ちゃん。まだ食べてないよ。なにかあるかな?」
「婆ちゃんと母さんがなんか作ってると思うよ。」
「そうだね。お腹空いたよ。ただいまー。」
祖母が奥から顔を出す。
「おかえり。今日は部活だったんだっけ?お友達、できた?」
「うん、女子二人と電話番号とメアドを交換したよ。」
「ええ!すごいじゃない。ちょっと、明美ちゃん。幸雄がすごいのよ!」
「なーにー、おばあちゃん。幸雄がどうかした?」
「女の子二人と、電話番号とメールアドレスを交換したんだって!」
「なにー!と言いたいところだけど、部活関係でしょ。そこから幸雄が彼女作れれば驚くけど。」
「部活関係ねぇ。確かに連絡用でいるわねぇ。ごめんね幸雄、大騒ぎして。」
「いや、大丈夫だよ。……うん。」
なんだろう、この展開は。
お昼ご飯を食べる。ご飯にアジの干物、エンドウ豆の入ったお味噌汁にきゅうりの和え物。
野菜類は、ほとんどがうちの畑で採れたものだ。
「いただきます。」
あれ?父の姿が見えないな。
「母さん、父さんはどこか行ってるの?」
「休日出勤だって。なんか仕事で問題が起こってるみたいよ。」
「そうなんだ。」
養ってくれる父には頭が上がらない。
「そうだ、爺ちゃん。午後から書斎借りてもいい?部活で課題が出てるんだよ。」
「好きに使っていいよ。ただ、目を悪くするから電気はつけてな。暗がりで本を読んだり、書き物をするのはだめだよ。」
「わかった。気を付けるよ……。ごちそうさま。」
書斎のボストンチェアに腰掛け、入学祝に父が買ってくれたノートPCの電源を入れる。
学校のクロームブック?で書こうと思ったけど、せっかくノートPCがあるんだから使わないと。
本当は原稿用紙の方が雰囲気が出ていいんだけどね。そこからスキャナーで読み込んで云々するの、結構大変なんだよ。
あれ?最近ペリカンに触ってない気がするぞ。まぁ、いいか。
『救いがないこと、それだけが、唯一の救いなのであります』
小さなイマジナリー坂口安吾先生が、そうつぶやきながらノートPCの液晶の奥から姿を現す。
羽織をまとい、足を開き片足を少し前に出す。眼鏡が光り、にやりと不敵に笑う。
『どうしたんだい?何か困っている事でもあるのかい?』
「ちょっと長くなるんですが、相談にのってもらえますか?」
『いいよ。遠慮なんかするもんじゃないよ。』
「小津安二郎監督の東京物語。これを中高生に紹介したいんです。
あの映画、家族の温かさを描いてるように見えるのですが、子供たちが親を邪魔者扱いしてて違和感がすごいんですよ。なんかひどいんですよ。そんな映画を中高生にどう紹介すれば見てもらえるのか……。」
『うん、 救いがないからいいんだよ。いいかい、今の若い奴らはね、綺麗事に包まれた退屈な嘘に飽き飽きしているんだよ。だったら、映画の綺麗な話なんていらないよね。この映画は、実の親をスパッと見捨てる、人間の本性が詰まった恐ろしい映画だって、あんたの生々しい思いをそのままぶつけてあげればいいんだよ。』
「生々しい思いですね。ありがとうございます。難しいですが、頑張ってみます。」
『うん、何かわからないことや困ったことがあれば、また呼んでくれ。』
「お伺いしてもいいですか?先生との会話のイメージって、江戸の下町キャラクターのイメージが強いんですが。」
『いや、そんなことはないと思うよ。……落語が好きだからかな……。』
「そういえば先生、例の汚部屋は片づけていますか?」
『おおっと。野暮なことは言いっこなしだ。じゃあな!』
坂口安吾先生は、液晶の裏に駆け込んで消えた。
よし、やってみるか。
書斎の窓から見える光が赤みを帯びてきた。
何度も書き直した。ネットも活用して言い回しの検討もした。
考えていると頭が沸騰しそうになる。
短い文章に要約しないと読んでもらえない。
硬い文章は敬遠される。
中高生が見てみたいと思ってもらえるような文章って何だ?
文章をこねくり回していると、ようやくそれらしいものが形になった。
「あー、本当に語彙が無いんだな、才能もないし。勢いがあるという批評もわかるよ。おちこむなぁ。」
つづく
作中に登場する文豪の先生方、映画監督は、最大のリスペクトを込めて、本作オリジナルのフィクションキャラクターとして登場させていただいております。実在の人物の思想や名誉を毀損する意図は一切ございません。一読者としての愛を込めたパロディとして、温かい目でお楽しみいただけますと幸いです。




