最初の一本
どんな映画のレビューを作るか、大関先生は提案してきた。
「ガイドラインを作ろう。まずは視聴のしやすさだな。その作品にふれる手段が容易であること。過激な内容の映画ではないこと。感情移入がしやすいなど、没入体験ができる映画であること。この内容で考えると、入手方法が特殊になるインディーズ映画や、過激な内容のアクション映画やホラー映画は排除される。」
富田先輩の肩が落ちた。明るい室内なのに、富田先輩の周りだけ少し暗くなった気がする。気のせいかな?
「ただ、歴史的な事実を伝えるような作品については、暴力描写があるものでも一考する価値はあると思う。次に容易に視聴できるという意味では、アマゾンプライムやネットフリックス、FODで視聴可能であることがあげられるな。あとはDVDか。ここを調べたうえで、選定することにしよう。」
あ、富田先輩が少し復活したようだ。歴史ものが好きなのかな?イマジナリー司馬遼太郎先生が喜びそうだ。
僕の隣に座っている美幸さんがスマホを取り出した。
「じゃあ、さっそく調べてみよう。どんなのがあるのかなぁ。」
「美幸は私の話を聞いていなかったのかな?選定は私と富田でやるって言ったよね?」
「えー、でもー、みたいのがあればリクエストしてもいいよ、って言ったよね?」
大関先生が右手の人差し指を伸ばして左右に揺らす。
「言ったとも。だが、道筋ができるまでの最初の何作品かは、私たちが指定した映画を見て感想を書いてほしい。一応、私も現国の教員だ。寺塚の書いた作品には指摘を入れない方針だが、私が知っている作品なら、ある程度の助言はできると思う。」
あ、助けてくれる意志はあるんだね。よかったよ。投げっぱなしになるのかと思ってた。少し恐怖心が和らいだかな。
「うーん、そうかー。まぁいいや。で、どんな作品にするの?」
「一作目は、東京物語にしようと思う。」
「先生、待ってください!」
富田部長が困惑した表情で先生を止める。
「東京物語は、畳のローアングルからの長回しとか、あの絶妙で独特な間など素晴らしいところはいくつもあります。物語も難しくはありません。ただ、その独特の間や映画を見る中高生の視点が、監督やシナリオライターの考えた視点と違い過ぎますし、白黒映画でかつ古い言葉が多用されています。中高生にはハードルが高いと思われます。」
最後のほう、結構早口になっていたな。でも、富田先輩の困惑は伝わってきた。
「そこで、寺塚の出番なんだよ。中高生に東京物語はこういう映画なんだよ。こういう視点で見るといいよ、というのをあらかじめ説明してもらうんだよ。それをみた中高生は、最後まで退屈せず、作品を楽しめると思うんだよ。」
あ、なんか責任重大だぞ。大丈夫かな。とにかくみんなを落胆させない文章にしないと。
一人で気合を入れなおして下を向いていると、複数の視線を感じる。
顔をあげると、大丈夫かなという面持ちで、3人が私を見ている。
痛くない胃が痛いような気がしてきた。
「ところで先生、映画はどこで見ますか?もうすぐ完全下校時間ですが。皆がそろっていた方が良いですよね?私の家なら広いですし、うちで見ますか?そうしますか?そうしましょう!やっぱり――。」
「はいはい、落ち着きなさいって。」
スイッチが入った富田先輩を大関先生が落ち着かせる。この先輩、スイッチはいるとすごいな。
「明日も通常授業だし、姉さんに迷惑をかけたくない。放課後では長い映画は見終わらない可能性もある。皆の都合もあるが、今週土曜日の午前中、視聴覚室に集まってみるのはどうだろう。申請は出しておく。都合の悪い人はいるか?」
大関先生が皆を見回す。特に都合の悪い人はいないようだ。
「よし。では、今週土曜日午前九時に視聴覚準備室に集合。その後、視聴覚室で東京物語を観賞しよう。本日はこれで解散だ。」
わかりやすく万人に訴える文章とは、どのような文章だろうか……。
つづく




