サマータイムマシーン・ブルース ~名作映画をオマージュした面白い映画~
映画が終わり暗幕が開く。
モトコ先生はにこりと笑い、初夏の日差しに消えて行った。
『レビューができたら見に行くわねぇ。』
夕食後、祖父の書斎の椅子に座り、映画を思い出す。
大学生のサークルの描写、映画前半から仕込まれている伏線、タイムマシンの登場と世界の崩壊、伏線を回収して大団円……。
あれ?でもリモコンが2台存在する時間が発生するけど、1台しか観測できていないから問題ないのか。
そうすると、その決まった時間軸を昨日と今日を行き来していた、それすらも決まっていたことになるな。
タイムトラベルの事を考えるとよくわからなくなるな。この内容は書かない方がよさそうだ。
そう思いながら、要点を書きだしてまとめていく。
おもしろい映画なんだけど、観たいと思わせる文章ね。難しいな……。何が面白いのかを書きだす。
唸りながらレポート用紙にペリカンで感想文を絞り出していく。
そこから要点を抽出して書きだし、肉付けしていく。
レビューのようなものができたので、少し修正。こんなもんだろ。
タイムマシンがあっても世界は救わない!
壊れたリモコンを取りに昨日へ行く!
突如現れたタイムマシンで、サークルの仲間たちは昨日に行って、イタズラざんまい。
でも助教授に「過去を変えたら世界が崩壊する」って脅されて事態は急転。
焦る大学生、昨日のイタズラをなかったことにするため、昨日と今日をわたわたと行き来する。
イタズラの伏線回収の凄さを観てほしい!
笑えてすっきりする、ユーモアたっぷりの日常系SFコメディーです。
『どう?できた?』
モトコ先生が現れた。茶色系のスーツにネクタイ、シックな装いだな。
「こんな感じです。」
レビューを見せる。
『あらぁ、いいんんじゃないかしら。』
「タイムトラベルについて、何か入れた方がいいかと思ったんですが、まとまらないと思い、入れませんでした。」
『うん、いいと思うわよ。下手にパラドックスの講義を始めるより、あの映画の【勢い】と【おバカさ】を伝える方が、みんなも絶対に観たくなるもの。』
「ただ先生、一つどうしても謎というか、気になることが残るんです」
『なにかしら?』
「リモコンにしてもVSにしても、伏線の回収が素晴らしいですよね。実際にタイムマシンがあったとしたら、あんな風にパズルみたいに綺麗に辻褄が合うものなんでしょうか?」
『うーん……。そうねえ。例えばリモコンやVSが【そこにある】っていう結果はもう決まっていて、過去が変わっても、世界がなんとか帳尻を合わせてその事実に収束していく……という考え方もあるけれど。』
『でもね、あの映画で一番すごいのは、【辻褄が合っているかどうかを判定しているのは、あの状況を外から観測している神様みたいな人、つまり私たち】だってことよね。観ている私たちが【あ、繋がった!】って納得できたら、その瞬間にその世界は【大丈夫】ってことになる。』
『だから、あの神がかった伏線回収は、映画という形だからこそ大成功した奇跡みたいなものなのかもね。』
「そうなんですね。つまり、観客が観測者で、その観客が違和感なくつながったと観測できれば、その世界は帳尻を合わせて収束した、ということですね。納得しました。」
私がそう言って顔を上げると、さっきまでそこにいたはずのモトコ先生の姿は、すでに朧げ(おぼろげ)になっていた。
『ふふ、じゃあ、またね。』
机の上のライトスタンドが、オレンジ色のあたたかい光を放っている。
モトコ先生の輪郭はその光の境界線と混ざり合い、まるで最初からそこにはランプの灯りしかなかったかのように、静かに、優しく溶けて消えていった。
つづく
作中に登場する「モトコ先生」は、新井素子先生の素晴らしいエッセイと小説の数々、SF知識への最大のリスペクトを込めて、本作オリジナルのフィクションキャラクターとして登場させていただいております。実在の人物の思想や名誉を毀損する意図は一切ございません。一読者としての愛を込めたパロディとして、温かい目でお楽しみいただけますと幸いです。




