サマータイムマシーン・ブルース ~ポストクレジットシーン~
休み明けの朝、教室で美幸さんに声をかけられた。
「おはよー。てらくん、レビューできた?」
「美幸さん、おはよう。出来たよ。今日、部活の時に送ろと思ってるよ。」
「うーん…。実は、あたしはまだできてなくてさー。」
「わかった、手伝うよ。部活の時でいいかな?」
「うん!助かるよー。面白い映画だったんだけど、考えれば考えるほど頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃって。」
「タイムマシンのところ?」
「そう。過去を変えると世界が崩壊する、とか。理由がよくわからなかったんだよね……。」
「そうだねぇ、あれは言葉だけでは説明が難しいかなぁ……。」
予鈴が鳴る。
「じゃあ、部活の時にお願い。」
「わかった。」
放課後、美幸さんと視聴覚準備室に向かう。
「レビューを書くとき、ほかにつまづいている所はない?」
「全部かなぁ?面白い、以外でてこなくなっちゃててさー。やすちゃんにDVD借りて観かえしたんだけど。」
「うーん……。その面白いと思ったところを抜き出して感想文は書けない?」
「そうすると、タイムマシンで昨日に行って過去を戻すってところで止まっちゃうんだよね。」
「僕なりの解釈で良ければ、タイムトラベルの考え方は説明できるかも。」
「助かるよー。昨日と今日を行き来するところの理由がよくわからなかったんだよね。」
「こんちわー。」
視聴覚準備室のドアを開けながら美幸さんが挨拶をする。
「こんにちは。」
視聴覚準備室には誰もいないが、コーヒーサーバーにはコーヒーが淹れてある。
誰かいたっぽいな。
美幸さんが鞄からレポート用紙を取り出す。
感想文は途中まで書いてある。
私はそれを見ながら提案する。
「タイムトラベルの所を感想文から除いて書くのはどうかな?」
「あそこの所は映画の核心部分だよね?タイムトラベルの内容はいるんじゃない?」
美幸さんは首をかしげながら聞いてくる。
「無理に書く必要はないよ。それに、あまり詳しく書くとネタバレになるんじゃないかな。」
「そうかぁ、ちょっと書いてみるよ。」
美幸さんはレポート用紙に向かい、ぶつぶつ言い始めた。ときおり頭を抱えている。
見ていて飽きないな。
「できた―!こんなもんでどうよ。」
美幸さんのレビューを拝見する。
もしも、目の前にタイムマシンがあったら何をする?
とりあえず乗ってみて操作して、過去や未来に行ってみる?
いやいや、怖くて触らないでしょ。
そんな未知の機械に、彼らは【のりと軽さとその場の雰囲気】だけで乗り込み過去に行く。
目的は壊れたリモコンの確保。
バカバカしいのに考え抜かれた超緻密な物語。
スケールは小さいが、最高にいとおしいSFコメディー。
「いいと思うよ。うん。とくに、【のりと軽さとその場の雰囲気】というのがいいよね。」
「ありがとー、ところであの二人はどこ行ったんだろうね。」
美幸さんがコーヒーを手渡しながら訊いてきた。
「そういえば、見かけないね。」
「まぁ、いいや。ところで、タイムマシンの説明をしてくれる?よくわかんないんだよ。」
「わかった。僕なりの解釈だから、間違っている可能性が大きいよ。」
視聴覚準備室の黒板に横線を一本書き、両端に「東京」、「大阪」と書く。
「美幸さんが東京から大阪に用事で行くとする。行き方は何でもいいんだ。飛行機、電車、新幹線。行き方はどうあれ、必ず大阪に行くよね?」
「行くね。」
「そこに名古屋で用事を済ませなければならない、という状況が起こったとする。」
東京と大阪の間に白丸を書き、その上に「名古屋」と書き足す。
「名古屋で用事を済ますということは、当初の予定ではなかった。そうすると、時間は分岐して違う線に行くと思うんだ。」
最初の線の下にもう一本線を引き、名古屋の白丸からその新しい線へと矢印を伸ばす。。
「タイムマシンで過去と未来を行き来するとき、名古屋の用事がなければ、最初に引いた線の上を移動するだけで済む。でも、名古屋で時間が分岐したら、僕たちはその『分岐した新しい線』の上に取り残されることになるんだ。つまり、もう二度と最初の線には戻れない。」
「あの映画はどうだろうか。大学の先生は『世界が消滅する』と言ったけど、具体的にどう壊れるのかは誰にもわからない。タイムマシンはないし、そんな瞬間を見た人間もおそらくいないんじゃないかな。仮に見た人がいたとしても、世界が壊れるその瞬間に、その人自身も一緒に消え去ってしまうかもね。」
「映画の彼らは、その破滅を防ぐため、生じた矛盾を解消するために、昨日と今日を行き来していたんだよね。だけど、一体誰がその矛盾を見つけて『この世界はおかしい』って判断するのかな?」
「タイムマシンを持っていない僕ら人間には絶対に無理だ。だとしたらその人は、時間の外側にいる『神様みたいな観測者』なんだよ。その大いなる観測者が『うん、この世界に矛盾はないね』って判断してくれさえすれば、世界は壊れずに済む。」
「その観測者が、実は僕ら『観客』なんだよ。美幸さん、あの映画を観ていて何か矛盾とか違和感って感じた?」
美幸さんは少し考えてから、悪戯っぽく微笑んだ。
「ううん。面白かった。……その一言だけだね。」
「うん、面白かった。つまり、あれ?おかしいぞ?とは感じなかったことだよね。つまり、僕たち観測者は、その映画の内容に矛盾やおかしいところを感じることなく楽しめたってことだよね。だから、あの世界は崩壊せず、映画もちゃんと終わっている。」
――あれ?説明していて、なんかわからなくなってきたぞ?
「う~ん、分ったようなわからないような……。」
まぁ、いいか。
とりあえず、LIMEにレビューを流す。
窓の外の日差しは赤みを帯び、世界はゆっくりと夕方へと向かう。
大関先生と富田先輩が視聴覚室へつづくドアから出てきた。
「すまんすまん、ちょっと一本観ていてな。」
「次は『青春デンデケデケデケ』にしようと思う。サスペンスも考えたのだが、当面は楽しい映画の方がいいと思ってな。」
つづく




