サマータイムマシン・ブルース ~ちょっと昨日に行ってリモコン取ってくる!~
サマータイムマシン・ブルース。
ブルースってジャズだよね。
音楽の映画かな?それにタイムマシンだから、おそらくSFだよね。
何の映画だろう……。
そんなことを考えていると週末を迎える。
大関先生や富田先輩は物語のあらすじを教えてくれなかった。
それどころか、インターネットでのあらすじの閲覧禁止まで出してきた。
どんな映画か聞いてみたのだが、
「とにかく面白い映画だよ。事前情報が無い方が、本当に楽しめるよ。」
富田先輩は良い笑顔で答えてくれる。
週末、自転車で高校に向かう。
5月も終盤を迎え、農道は軽トラと田植え機で混雑している。
うちもそろそろ田植えだな、手伝わなきゃ。
今年も夏が来るんだな。あの灼熱の地獄が……。
ちょっとブルーな気持ちで視聴覚準備室のドアを開く。
コーヒーの芳醇な香りが充満している。
「おはようございます。」
「おはよー、コーヒーいれるね。」
美幸さんが答えてくれた。
大関先生と富田先輩は視聴覚室の方かな?姿が見えない。
「てらくん、今日の映画ってどんなだろうね。」
「検索禁止って言われたからね。でも、富田先輩は自信ありげだった。」
「そうなんだよね。題名から行くと音楽の映画っぽいよね。」
「お、寺塚、来たか。おはよう。」
「てらくん、おはようございます。」
大関先生と富田先輩が視聴覚室のドアから入ってく来る。
「おはようございます。」
「では、再生するぞー。テンポのいい、たのしい映画だ。シーンを見逃すなよ。」
青白い光の中に、真っ白なフリルの洋服を着た小さなイマジナリー文豪が現れる。
ドール服というのかな?西洋人形が着ているような装いだ。
モトコ先生が、前の椅子の背の上に、ちょこんと立っている……。
なんか、黄色くて細長い、たくあんみたいな変な造形の生き物?が付いてきたぞ?
モトコ先生は、どこから取り出したのか、ハリセンでその生き物をバシッ!とたたいた。
その生き物はバツが悪そうに、スウッっと消えて行った。
モトコ先生はニコニコ笑いながら椅子の背に座る。
『やぁねぇ、変なものをお見せしてしまったわねぇ。あら?私はフルネームじゃないの?……大人の事情、権利関係ねぇ。じゃあ、しょうがないわねぇ。』
「モトコ先生は音楽も詳しいのですか?」
『あら、今日の映画はタイムマシンを題材にしたSFよ。んまぁ、SFと言っても、――日常系SFコメディなんだけどぉ。』
「題名にブルースなんてつくので、音楽の映画かなぁ、と思っていました。」
『さぁ、始まるわよぉ。この映画はね『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をオマージュした映画なの。出だしの時計台の映像とか、見たことなぁい?』
「あ、ありますね。あの映画の象徴的な時計台ですよね。」
『そうなの。ほかにもたくさん、ほんっとうにたくさん!でてくるわよぉ。あと、シーンをよぉく見てみると、違和感のあるシーンがあるから、見逃しちゃあだめよぉ?』
なんか大学のサークルで青春?をしている学生の映画みたいだな。
これのどこからSFになるんだろう。
そう思っていると、――今、テーブルの下から手が出ているシーンがあったような気がした。
あれ?なんか違和感が……。
モトコ先生は口元を手でかくしてクスクスと笑っている。
「先生、なんか違和感があったんですが。気のせいでしょうか。」
モトコ先生は茶目っ気たっぷりに笑い答える。
『さぁ?後からわかると思うわよぉ。今から答えがわかっちゃったら、つまらないでしょ?』
なんか、すごい映画だな。ヴィダルサスーンで暴れたり、薬屋さんの人形持って行っちゃったり。
この映画を撮ったころって、まだデジカメじゃなくてフィルムの時代なんだね。
あ、よく見たら、映画館のシーンに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のチラシが貼ってあるな。
コーラをこぼしてリモコンが壊れたと思ったら、今度は大学の先生がそれを粉砕している……。
モトコ先生はやっぱりニコニコ笑っている。
すると、SF研究会の部室に、なんかものすごく特徴のある人が出てきた。
しきりに「今、何年何月何日だ!?」って気にしている。
あー、これがタイムマシンか!
全体がギラギラとした銀色だ。
その銀色の塊がグニャッと歪んだかと思うと、眩しい光と煙を残して一瞬で消え去った。
モトコ先生は椅子の背の上で小さくパチパチと拍手をしながら、
『気が付いた?あのタイムマシン、デロリアンのような銀色をしてたでしょ?タイムトラベルをするときに、光と煙を残して消えるのも――そう、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』へのすっごくきれいなオマージュなのよぉ。』
映画が進むにつれ、昨日と今日の行き来がすごい。
しかし、大学生ってこんなノリなのかな。
自分がこのノリになる事が想像できないな……。
つづく
作中に登場する「モトコ先生」は、新井素子先生の素晴らしいエッセイと小説の数々、SF知識への最大のリスペクトを込めて、本作オリジナルのフィクションキャラクターとして登場させていただいております。実在の人物の思想や名誉を毀損する意図は一切ございません。一読者としての愛を込めたパロディとして、温かい目でお楽しみいただけますと幸いです。




