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私をスキーに連れてって ~ゲレンデが一番熱かったころ~

一面の銀世界、軽快な松任谷由実の音楽が流れる。

俳優の4人がスキーで滑るシーンだ。


「劇中で松任谷由実さんの音楽が効果的に使われていますね。当時のトレンドだったんですか?」

マリコ先生はにやりと笑った。


『いいところに気がついたわね!そうなの、当時はユーミンをはじめ、サザンオールスターズ、山下達郎、佐野元春……。あの時代の空気を作っていた天才たちがたくさんいたわ。でもね、その中でもユーミンは別格。ただのトレンドじゃなくて、私たちのライフスタイルの教祖だったのよ。』


「教祖、ですか?新興宗教でもやっていたんですか?」

マリコ先生は笑いながら答えてくれる。


『あはは、新興宗教ではないわよ。でも近いものがあったかもしれないわね。』

マリコ先生は懐かしむように目を細める。


『当時は、彼女の曲を聴きながら、彼女の歌に出てくるようなおしゃれな恋愛をする。それが当時の若者たちのステータスだったの。だから男の子たちはみんな、必死になって車の中でかける音楽を考えていたわね。自分で選曲して、ダビングして、曲順にまでこだわった「マイベスト」のカセットテープを作るの。』


マリコ先生はクスクスと、本当に懐かしそうに笑って続ける。


『カセットのインデックスカードに、レタリングシートを使って丁寧におしゃれな文字を転写したりしてね。助手席に乗せた女の子が、ダッシュボードを開けてそのカセットを見つけた瞬間に「あ、センスいいな」って思われるかどうかの真剣勝負。ユーミンの「SURF&SNOW」なんて、冬のドライブには絶対に欠かせない、いわばモテるための最強の武器だったのよ。』


「カセットテープ1本にそこまでのドラマがあったんですね。」

私が感心していると、マリコ先生はさらに身を乗り出してきた。


『そうなのよ!今の若い子たちはサブスクで簡単に音楽を共有できるでしょ?でも当時は、その不便さが逆にロマンチックだったの。カセットのA面からB面にひっくり返すタイミングまで計算して選曲するのよ?付き合う前のドライブデートなんて、もうお互いの腹の探り合い。ユーミンのイントロが流れた瞬間に、車内の温度が上がるような、独特の緊張感と高揚感があったわね。』


マリコ先生は少しいたずらっぽい目で私を見つめる。


『映画の中で、原田知世ちゃんが着ていた白いスキーウェアも大流行したけれど、あれもユーミンの世界観をそのまま具現化したようなもの。あの映画はね、当時の若者たちが、こうありたいと願った、キラキラしたバブル前夜のファンタジーそのものだったのよ。』


映画が終盤に差し掛かかる。

気になったことをマリコ先生に聞いてみる。


「映画を見ていて思ったんですが、肩パッドに原色系のスーツ、女性はマニッシュというんですか?そういう装いの人や、ボディコンシャス?な人、髪型もワンレングス?やソバージュの人が多いですね。アイテムもスマホは出てこなくて、アマチュア無線機。カメラもフィルムですし、今とは全然違いますね。」


『本当によく見ているわね。そうなのよ。あの原色のパワーと、強烈な肩パッド!女性たちが「男社会に負けないぞ」てマニッシュに装う一方で、夜はボディコンで思いきり女の武器をアピールする。二面性があって、とにかくエネルギーが過剰な時代だったの。道具だってそう。スマホ一つで何でもできる今から見れば、不便でアナログで、まるで別の惑星(ほし)の話みたいでしょう?』


「そうですね。でも、なぜかすごく輝いて見えます。」


マリコ先生は深くうなずき、真剣な表情になる。

『それはね、不便だったからこそ、人と人が繋がるために必死だったからよ。無線機で声を張り上げて、フィルムが切れるのを惜しみながら写真を撮って、会えない時間は受話器に耳を押し当てて相手を想う……。』


『テクノロジーが未完成だった分、人間の生身の感情や熱量が、スクリーンから溢れんばかりに伝わってくるのよね。』


マリコ先生は微笑んで続ける。

『バブルはね、確かに泡のように消えた幻かもしれない。でも、あの時代に私たちが持っていた、根拠のない自信や人を好きになる泥臭い情熱は、決して古びるものじゃないわ。』


『この映画はね、便利さと引き換えにちょっと冷めてしまった現代の人たちに、エネルギーをチャージしてくれる特効薬みたいなもの。だから、あなたたち若い世代も、あの熱量を上手に盗んで、これからの時代を思いきりハッピーに生きてほしい、って私は思うわ。』


映画が終わる。窓を開けたのか、5月のさわやかな風が頬を撫でる。

『さて、レビューがあるのよね。私も付き合うわ。良いものを書きましょう。』

にこりと笑ったマリコ先生は、風と共に颯爽と去って行った。


しまった。マリコ先生との会話が楽しくて、映画をしっかり見ていなかった。

どうしよう。


つづく



作中に登場する「マリコ先生」は、林真理子先生の素晴らしいエッセイの数々と、当時のバブルカルチャーへの最大のリスペクトを込めて、本作オリジナルのフィクションキャラクターとして登場させていただいております。実在の人物の思想や名誉を毀損する意図は一切ございません。一読者としての愛を込めたパロディとして、温かい目でお楽しみいただけますと幸いです。

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