まあだだよ ~ポストクレジットシーン2~
美幸さんとレビューを考えることになった。
大関先生と富田先輩もいるけど……。
「じゃあ美幸さん、取り出した要点を教えてくれる?」
美幸さんは別のルーズリーフを取り出す。
「はい、これ。感想文から要点は取り出せたと思う。ただ、これを文章にするイメージがわかないんだよ。」
紙面にはきれいな文字で、師弟関係、情、絆、ねこ、お酒、借金、まあだかい、夕焼け、温かい、などのキーワードが並んでいる。
「……うん。要点としては十分だと思う。…ただ、この内容でレビューを考えると、やはり僕のレビューとあまり変わらない内容になると思う。」
「ふんふん。で?どうするの?」
「そこで、これに助けてもらう。」
私は鞄から一冊の本を取り出す。
『書を捨てよ、町に出よう。』
「ほう、寺山修司か。渋い本を読むね。」
大関先生が感心したように話す。
「祖父の書斎の本棚にあったんですよ。タイトルが恰好良かったので……。」
「で?その本をどうするの?」
美幸さんが小首をかしげて聞いてくる。
「タイトルを借りるんだ。ねぇ、美幸さん。クラスメイトではやっていることある?スマホ使うもので。」
「SNSとか、ゲームとか?TikTokとかインスタみたいなのは、やってる子、多いね。『いいね』の数で喜んでる子もいるよ?」
「それだ!それをタイトルに使うんだよ。」
「どうやって?」
「ちょっと入れ込んでいくよ。いま出てきた言葉はSNSと『いいね』の数だ。そしたら……。」
SNSを捨てよ!『いいね』の数なんて気にするな!
美幸さんのルーズリーフに一文を書き込む。
「こんな感じで一番最初の文章ができる。」
「おー、すごーい、文章ができた!」
「なるほど、最初にスタイルを決めて、その中に要素をはめ込んでいく形か。…うん、見事だ。」
「すごいねぇ。なんていうのか、考え方が違うんだね……。」
美幸さんは喜び、大関先生は感心してくれる。富田先輩は何かを考えこんでいるようだ。
「この文章に肉付けをしていくんだ。最初の文章に続けて、現在の状況を否定する言葉を並べる。」
「次に、何を優先すべきかを書くんだ。そして、最後にこの映画は何かを書く。これでレビューの完成だよ。」
「うーん、難しいなぁ……。…ちょっと頑張ってみるよ。」
午後の視聴覚準備室にシャープペンシルが紙の上を走る音が響く。
美幸さんはレビューを書き、大関先生は授業の資料を作成している。
私と富田先輩は本を読んでいる。
富田先輩は何を読んでいるんだろう。おしゃれなブックカバーが本のタイトルを隠している。
タイトルを聞くのも野暮なので、気になるけど気にならない風を装う。
時折、美幸さんが両手で頭を押さえて奇声を発する。そんなに難しいかな。
30分ほどたったのだろうか、美幸さんが声をあげる。
「できたー!」
美幸さんがルーズリーフを机の中心に広げ、胸を張り一言。
「これ以上は何やっても何も出てこないよ!」
「どれどれ、見せてごらん?」
大関先生がルーズリーフを手にとり読み始め、微笑みながら言う。
「すごいじゃないか。前回のレビューに引き続き、とてもいいと思う。」
「えへへ……。」
美幸さんが照れているな。
次に読んだ富田先輩も美幸さんを褒めている。
「ゆきゆき、すごいよ。まるで文学少女のようだ。」
……?富田先輩、それ褒めてます?
私にルーズリーフが手渡された。
そこに書いてあるのは……。
SNSを捨てよ!『いいね』の数なんて気にするな!
信頼できる先生や友人を作れ!ネットの向こう側の人を信頼してどうする!
最後に頼れるのは近くにいる両親や先生、友人なのだ!
そんな事をこの映画の主人公や元生徒たちが教えてくれる。
この泥臭くも温かい本物の絆こそ、画面の中のつながりを気にしてばかりの私たちが見直すべきものではないのか!
うん、ちょっと過激かもしれないけど、いいと思う。
「さて」
大関先生は教科書とノートを片付けて、黒板の前に進む。
「次の映画は富田と意見が割れてな。富田はコメディーはどうかと言ったが、あえてサスペンスを持ってきたい。『犬神家の一族』だ。ホラー要素は少ないが、サスペンス映画だから人が死ぬ描写がある。」
「私はコメディーがいいと思います。『東京物語は』、ある意味のサスペンスだと思っていますから。ですから、コメディーの『日本一の無責任男』はどうでしょうか。」
なんか、大関先生と富田先輩が話し込み始めた。内容は…。宇宙語だな。理解不能だ。
美幸さんがコーヒーのお代わりを注いでくれる。
「せんせー、私たちのリクエストは受け付ける感じですかー?」
「お?おお、いいぞ。何かあれば言ってくれ。」
「じゃあ、『火垂るの墓』は?あれ、観るたびにわんわん泣けるんだよね。」
「うん。いいチョイスだが、アニメはアニメーション研究会に任せよう。ほかにないかな?」
数少ない映画視聴リストを頭の中に展開する。
「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか、『シンドラーのリスト』はどうでしょうか?」
「ロバート・ゼメキスにスピルバーグか。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はいいが、『シンドラーのリスト』は残酷な表現も多い。それに、最初は日本映画ですすめたい。」
会議は踊る、されど進まず。
つづく
作中に登場する文豪の先生方、映画監督は、最大のリスペクトを込めて、本作オリジナルのフィクションキャラクターとして登場させていただいております。実在の人物の思想や名誉を毀損する意図は一切ございません。一読者としての愛を込めたパロディとして、温かい目でお楽しみいただけますと幸いです。




