まあだだよ ~ポストクレジットシーン1~
いい感じで脳みそを使ったせいか、よく眠れた。
夏目漱石先生と内田百閒先生、すごくいい師弟関係だと思う。
私のところはどうだろうか?
家族関係は大丈夫だ。
たぶん、東京物語のようにはならない。
師弟関係は?
大関先生の姿が浮かんだ。
…大関先生、距離が近いというか。
本人に悪気が無いのは分かるんだけど、映画の話で興奮するとパーソナルスペースが崩壊するからなぁ。
では、友人関係はどうだろう。
美幸さんと富田先輩の顔が思い浮かぶ。
うん、距離感が壊れている人たちだ。
顔を洗い、朝食を済ませてスマホを見るとLIMEが来ている。
美幸さんだ。てらえもん案件かな?
電話をくれというので電話をする。
2コールで美幸さんがでる。たぶん、お決まりのフレーズになるのだろう。
「てらえもーん、助けて―!」
うん、僕は万能ネコ型ロボットではないよ。
「どうしたんだい、美幸さん。」
心の中で突っ込んで、答える。
「感想文は書けたんだけど、そこから先に進まないんだよー。」
「要点は抜き出せた?」
「そこまではできた。そこから文章を作るところで止まっちゃうの……。」
どこでつまづいているのかを聞かないと。
「最初の一文をどうするかで悩んでいるの?」
「……それもだけど、どうゆう文章にするのか、イメージができない…。」
どうしようかな。電話だと難しいかもしれないぞ……。
「月曜日の放課後にミーティングをしよう。どこでつまづいているか、そこで教えてくれる?」
「前回に引き続き、お世話をおかけします。」
「いえいえ、どういたしまして。」
二言三言、話をして電話を切る。
さて、どうしようか。もう一本、レビューの原案を作っておいた方がいいか?
読みかけの本を手に取って表紙を見る。
…あ、これいいかも……。
寺山修司先生の評論集のタイトルだ。
これをベースにすることで最初の一文ができそうだな。これを提案してみよう。
月曜日に美幸さんと視聴覚準備室に行く。
ドアを開くと、芳醇なコーヒーの香りが漂う。
大関先生が来ていて、コーヒーを飲みながら作業をしている。
現国の教科書っぽいな。授業の資料を作っているのかな?付箋だらけのノートに文字を書き込んでいる。
「せんせー、こんにちはー。」
「こんにちは。」
「おう、来たか。…そいえば、レビューをまだもらっていないが、難航しているのか?」
ノートを閉じながら大関先生が聞いてくる。
…あ、美幸さん向けのレビューを考えていたら夢中になって、まだ送っていなかったな……。
「すみません、すぐ送ります。」
私はスマホとを鞄から取り出し、レポート用紙を机に広げる。
LIMEに文字を打ち込んでいく。美幸さんがコーヒーをそっと机の上に置いてくれた。
……一本です。っと。送信…。
「送りました。どうでしょう?」
皆のスマホが振動し、新しいメッセージが届いたことを知らせる。
大関先生がスマホを見たあと、にこりと笑い私を見る。
「いいじゃないか。ユーモアもあるし…。……うん。とてもいいと思う。」
スマホを見ていた美幸さんが私を見て話し始める。
「あたしは難航してるんだよ。てらくん、約束通りレビューの作り方、教えて!」
「私も見てみたいな。」
なんか、囲まれているような……。
「遅くなりました。……?なぜ、てらくんを囲んでいるんですか?」
富田先輩が入ってきた。
「美幸がレビューを作るのに難航していてな。寺塚が美幸にレビューの作り方をレクチャーするんだ。それを見せてもらいたくてな。」
「あ、それ私も興味あります。てらくん、私も見ていいよね?」
……拒否権ないやつだ。
「もちろんいいですよ、でも、そんなにおもしろいものでもないと思いますが……。」
「寺塚がどういうロジックでレビューを書いているか、興味があるんだ。」
「わかりました。美幸さんは感想文までできているんだよね?」
「うん、できてる。……これがそう。」
美幸さんが鞄からルーズリーフを出して渡してくれる。
綺麗な文字が並んでいる。内容もしっかりしていると思う。
大関先生が手のひらを出して、ひらひらしているので、それを手渡す。
読んでいた大関先生の顔が笑顔になった。
「美幸、すごいじゃないか。あらすじ感想文から卒業しているぞ。」
ルーズリーフを富田先輩に渡す。
富田先輩もニコニコしている。
……そんなにひどかったのかな?
「ここからどうやってレビューを作っていくんだい?」
大関先生が、興味津々と言った面持ちで私を見る。
「そうですね…。感想文の内容は僕と似ていると思います。このまま内容を濃縮すると、同じようなレビューになると思います。」
「では、どうするのだい?」
「前回、美幸さんが作ってきたレビューに寄せていきます。」
「あのエスプリが効いたレビューの事だね?」
「はい。いいフレーズをおもいつきました。それをベースに作ってもらいたいと思います。」
つづく
作中に登場する文豪の先生方、映画監督は、最大のリスペクトを込めて、本作オリジナルのフィクションキャラクターとして登場させていただいております。実在の人物の思想や名誉を毀損する意図は一切ございません。一読者としての愛を込めたパロディとして、温かい目でお楽しみいただけますと幸いです。




