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まあだだよ ~夏目漱石先生と観る、弟子・内田百閒の物語2~

視聴覚準備室に戻ると美幸さんがコーヒーを淹れる準備をする。

富田先輩はとても興奮している。

視聴覚室の電源を落として視聴覚準備室に戻ってきた大関先生となにか話している。

うん宇宙語だ。ときおりキャーみたいな声も聞こえるな……。


レビューをどのように書こうか、椅子に座り床を眺める。

コーヒーの芳醇な香りが漂い始める。

ふと顔をあげると、大関先生が満面の笑みで私を見ている。ちょっと怖い。


「寺塚、どうだった?面白かっただろう?」

「はい、東京物語とは異なり、とてもいい映画だと思います。

少し気になったんですが、戦前、戦後の初めのころは、色が薄い?なんていうのかな、こう、白黒に近いような気がしたんです。でも、戦後の復興が始まると、だんだんと色が鮮やかになっていった気がするんですよね。」


顔を紅潮させた富田先輩が、握りこぶしを胸の前におき、顔を上下に振っている。

肯定の意味かな?


「ほう、よく気が付いたな。あの色の変化は、黒澤明監督が明確な意図を持って仕掛けた色彩設計、つまりカラーコーディネートの演出効果によるものだ。まあだだよでは、時代が進むにつれて画面の中の衣装や美術、つまりセットや小道具の色調をコントロールすることで……。」


大関先生、何言っているのかわかりません。

近い、近いです、僕のパーソナルスペースは広めに設定されているんです。困ります。

コーヒーカップを持った美幸さんが、大関先生にカップを差し出す。


「はい、おねーちゃん。ブラックだよ。」

「お?ああ。すまない。」

われに返った大関は、コーヒーカップを受け取る。


「はい、てらくんも。おねーちゃんの宇宙語、意味わかった?」

コーヒーをフーフーしてから渡してくる。うん、癖なんだな。

「ほとんどわからなかった。でも、意図して色を変えていることは分かった。」


「てらくん!やはり君は分かっている!シネフィルだよ!」

富田先輩が感極まってしまったのか、足早に僕に近づいてくる。


「黒澤監督は色彩の魔術師とも呼ばれ晩年のカラー作品では衣装や背景の色だけで登場人物の感情や時代の変化を表現することに異常なまでのこだわりを見せたんだ。まあだだよでも最初は色を無くし……。」


富田先輩、早口すぎて理解できません。

あと近いです。おでこが当たりそうです。あ、いい香りがする。

違う違う。

大関先生はコーヒーを啜って満足している。あー、頭が混乱してきた。


「はいはい、やすちゃんもコーヒーどうぞ。」

「え?……ああ、ありがとう。」

美幸さんがコーヒーを渡したことで、富田先輩の興奮が冷めたようだ。


「さて、そろそろいい時間だ。引き上げる準備をするぞ。」

大関先生が飼える準備をする。美幸さんは洗い物を終えたようだ。

視聴覚準備室から廊下に出る。大関先生も一緒だ。

先生は、指で鍵をチャラチャラといじっている。


「そうだ、美幸のレビュー、手伝ってくれたみたいだな。ありがとう。」

「いえ、僕はレビューの作り方を教えただけです。」

「それでも礼を言いたい。あの子が、あんなエスプリのきいた文章を書いてきたんだ。驚いたよ。

本当にありがとう。」


「以前、先生が読書感想文の書き方を教えた、と聞いたんですが。」

「教えたとも。それでもあらすじ型感想文しか書けなかったんだよ。寺塚の教え方がよっぽどうまかったんだろう。」


「おっまたせー!さあ、帰ろう!」

「お待たせしました。」

美幸さんと、富田先輩が視聴覚準備室から出てくる。


大関先生は鍵を閉め、職員室に向かった。

「おなかすいたねー。なんか食べてく?」

「そうねぇ。でも家でお母さんがご飯作って待っていると思うから、早く帰りましょう。」

たわいもない会話をし、美幸さんたちと別れた。


さて、夏目漱石先生は手伝ってくれるといったが、どういう内容がいいかな。

そんなことを考えながら家路についた。


つづく


作中に登場する文豪の先生方、映画監督は、最大のリスペクトを込めて、本作オリジナルのフィクションキャラクターとして登場させていただいております。実在の人物の思想や名誉を毀損する意図は一切ございません。一読者としての愛を込めたパロディとして、温かい目でお楽しみいただけますと幸いです。

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